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喫茶店で働く女の子
パタパタと忙しなく店内を歩き回り、高く澄んだ可愛らしい声でオーダーを取っている彼女は、最近アルバイトとしてこの喫茶店に入ったらしい。
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薄ピンク色のボーダーTシャツの上に、お店から与えられたであろう年季の入ったエプロンを着て、後ろできゅっとひとつに髪を結んでいる。
隣の席にいた常連のおばさまが、「初めましての子だよね?新しく入ったの?」と、たまごサンドを食べながらお店の人に尋ねていた。
「うんそうなのよ。いい子だよ。」と、お店の人とおばさまは世間話を続けた。
「お待たせしました!ブレンドコーヒーと、レアチーズケーキです!ごゆっくりどうぞ!」と、語尾にびっくりマークがつくような明るい声で運んできてくれた彼女はまだ高校生くらいだろうか?幼さが見える。
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落ち着いた喫茶店にこれだけの元気さはちょっと似つかわしくない気がするけど、一生懸命で健気な姿は一緒に働く人に可愛がられ、お客さんにも愛されるのだろうな。
私も高校生の頃、短期間だったがレストランでお料理をサーブするアルバイトをしたことがある。
要領が良い方ではないので、お料理の種類は最後まで覚えられなかったし、ドリンクの作り方も何回も社員さんに聞いてしまった。
早口でたくさん注文をしてくるお客さんに「す、すみませんっちょっとだけ待ってください...!!」と言っていたし、セクハラまがいのことをしてくるオジを上手く交わすこともできてなかった。
だから多分社員さんにとって「仕事がデキるバイトさん」ではなかったと思う。
それでも最終出勤日に、普段は厨房に立っている白いエプロンとコック帽をかぶり大きなお腹で鼻の下にちょび髭をはやした店長さんから言われた言葉が忘れられない。
「キミは愛嬌がある。とても強い武器だよ。きっとどこへ行っても愛される素質はあるから、安心して頑張りなさい。」
この時、私って愛嬌があるんだ、と知った。誰かに好かれようとやっていたわけじゃなくて、早く仕事を覚えたくて、役に立ちたくて一生懸命働いていただけだったんだけどな。
だから一生懸命って大事なんだなって思う。この喫茶店の女の子もこれから愛嬌を武器に世の中をずんずん進んでいくのかな。そこに要領が良かったらもう無敵だな。
そんなことを考えながら、レアチーズケーキを完食した。