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『凱の阿修羅琴よ、なびけ』第1話
◆あらすじ
修学旅行で、阿王凱(あおう・がい)が、阿修羅大王に阿修羅琴を聴く力があるのを見込まれて超感覚(ちょうかんかく)を授けられる。天地鎧(ガイナーオン)を阿修羅の腕にある輪、灼熱の腕釧(しゃくねつのわんせん)を用いて行い、変身や通信ができるようになった。大王の愛娘、舎脂(しゃちー)が帝釈天により強奪されたのを救いに行く約束をする。四人の高校生も天地鎧をし、四王の仲間と共に柴又にいそうな帝釈天へと向かう。イケメンヒーロー五人はカッコよさより個性が目立つバトルを繰り広げ、リーダー凱を中心にがんばった。無事、舎脂を救い出した後は、柴又帝釈天参道で草団子を皆でいただいた。凱はそのとき、阿修羅琴を聴いた。
◆登場人物
阿王凱(あおう・がい):阿修羅大王(あしゅらだいおう)の力を得る。渾名は、アシュ。自分を俺と呼ぶ。
美久羅素思(みくら・もとし):羅睺(らごう)の力を得る。渾名は、ラゴ。自分をオレやと呼ぶ。
稚田篤幸(わさだ・あつゆき):婆稚(ばち)の力を得る。渾名は、バチ。自分を稚田と呼ぶ。
馬酔木咲華(あせび・さきか):佉羅騫駄(きゃらけんだ)の力を得る。渾名は、キャラケン。自分を僕と呼ぶ。
摩耶香(まや・こう):毘摩質多羅(びましったら)の力を得る。渾名は、シッタ。自分をワタクシと呼ぶ。
阿修羅大王(あしゅらだいおう):自分を我と呼ぶ。仏像は興福寺にもある。三面六臂。
舎脂(しゃちー):阿修羅大王の娘。自分を私と呼ぶ。
帝釈天(たいしゃくてん):舎脂をさらう。
◆本編:第1話
「おい、凱! 阿王凱やん」
俺は、懐かしい声に呼ばれた。
清水寺での詰まらない集合写真なんかにモデルの俺が写るのもなんだかなと思っていた所だ。
スラリとした身長を活かして後列に並び、誰かの影に入ろうかと顔を動かしていたとき、小山が動く。
カメラマンの後ろから、大きく手を振る野郎の姿が見えた。
「おー。悪友、美久羅素思くんじゃん」
「久し振りっちょ。凱こそ、右の瞳が金で左が銀の件で弄られたりしてないやんな? 元気やんね?」
雛飾りのような写真から解散すると、俺は、一目散に、美久羅くんに駆け寄って、握手した。
「んだよ。俺も平和な正学園高校へ入ったじゃん。外見の悪口もないよ。義父さん譲りの自慢の瞳じゃん」
秋色の風が頬を撫でると、俺の翠髪がなびいた。
前髪と襟足が少し伸びてしまったが、高校からはお咎めなしだ。
俺が読者モデルをするのも母の阿王澄花との二人暮らしだから、バイトとして許可されている。
細い顎すじに手を当て、久し振りに忌憚のない俺の瞳コンプレックスをぐっさぐさにする美久羅くんへ、口笛をひゅっと吹いた。
「悪くしか言われへんのは、知り合い未満やん」
「でさ。どうして、美久羅くんこそ清水寺へ来たんじゃんよ?」
大勢の中から一際目立つ、彼の容貌が俺は好きだ。
彼の眉は美しい山を描いており、目が鳶色で、睫毛がなんと十五ミリのバサバサ愛らしさ。
髪は深緑で肩のあたりでばさっと切られており、頬がキュートな餅ぷになのを隠している。
班長の田仲くんから、写真について呼ばれた。
「俺ってひょっとこじゃんね?」
「ぶひょ! お前、変顔大賞なん?」
美久羅くんが話し掛けたのは、宇宙の果て行きか。
ドンパッチョな君の仕草で、結果が読者モデルの営業妨害だとしても内緒にしておこう。
知らぬ顔をして、口笛を吹く瞬間のダサ顔記録だ。
こんな黒歴史、助けて黒騎士と叫びたい。
「いやあ、美久羅くん。千葉の夷隅海岸高校へ行っても変わんないじゃんね」
親しい野郎に出会えると嬉しいものだ。
特に餅がむしろもっちりして来たと伝えたかったけれども、それも内緒だ。
俺達ブレザーの群れに、学ランの美久羅くんが一人。
寂しいだろうと、わちゃわちゃしている中から逃れた。
「あんな。オレやね。クラスの皆、東京の高校へ留まったから寂しかったんやで」
「美久羅くんは、お祖父さんらと暮らすことになったんじゃん。仕方がないじゃんね」
そのとき、風が強かった訳でもないのに、目を細めた。
「修学旅行は、凱の高校も一年生の九月だったやんね」
「そうか。美久羅くんも修学旅行か」
俺、とろいかも。
清水寺で再会して、高校生が修学旅行以外になにがあるのか。
「凱――! こっち来いやで」
や、いないな。
いつの間にか美久羅くんの凧の糸が切れた。
「おい、恥ずかしいじゃん。大きい声で」
清水寺の舞台の端へと二人体重を寄せる。
もしかしたら、俺達の体重で軋んでしまうかも知れないとも思った。
美久羅くんが頬を染め、視線を逸らした。
「そのBL展開やめや。凱……」
「俺、お尻なんて触ってないじゃん! 不可抗力じゃんね!」
「もっと、抱いてもええやんよ。凱やし、胸板逞しいし」
「どこがじゃん! 品を作るのも駄目じゃんね。オージーザス!」
美久羅くんが、舞台の下を覗いてチラチラと俺を振り返る。
「そだ、こっち来いやあ。清水の舞台から飛び降りてみーや? 凱、文武両道だしやな」
「勘弁、勘弁じゃんよ」
それから、暫くお互いの近況を報告し合って、ゲラゲラ笑っていた。
「美久羅くんさ。それより、いいお湯呑み茶碗あったかな? 母さんが送り出してくれたのだし、お土産あるといいじゃんね」
ポンと肩を叩かれた。
てっきり、突き落とすのかと思った。
ヒイイイイイ。
「なら、いい店あったや」
「マジ? 俺、今日は美久羅くんに運命を感じるかもじゃん」
「鴨が余計なや。オレやな、鴨南蛮はネギ抜きでいける口やで」
話をしながら、美久羅くんと本堂から下って行く。
「お湯吞み茶碗やんね。先にゲットしたんはオレや」
「だから、三度目になるけどさ。どんなのか、絵に描いて――」
そうだった。
美久羅くんは、ピカソの『泣く女』級の天才だった。
「俺が、美久羅くんの家に遊びに行くじゃんね。そのときにでも、そのお土産を見せて欲しいじゃん」
参道の土産物を見て行くとこちらでも目が肥えそうだ。
「母さんが月々工面してくれたから、日頃使うもので感謝を伝えたいんじゃんよ」
一つ、店の奥で、深緑の地に椿の凛とした姿のお湯吞み茶碗と出会った。
「お客様、お買い上げありがとうございました」
さて、用事が済むと、バスの待つ駐車場へ戻らなければならない。
「そうだ、俺もスマートフォン買って貰えたんじゃん。連絡できるようにしとこうじゃんね。美久羅くん」
「ああ、入学祝いってヤツやな。おめおめ。なら、LISUを通信で登録しようや」
俺達は、ピピッと交換する。
実は、LISUへの登録は、初めてだ。
相手が美久羅くんで嬉しかった。
「この後、どこへ行くんじゃんね?」
「オレらは、興福寺へだなや。凱」
「ああ、阿修羅像のか。俺達はバスで全員集合後、班行動で同じく行くじゃんよ」
よっしゃーと、拳を突き合わせた。
「会えるのが楽しみじゃん」
「オレやってそうやん」
◇◇◇
俺は、特に寺社仏閣に興味がある訳ではなかったが、ここへ来て、ぞわぞわする。
奈良の東大寺で拝観した四天王像には、圧巻の思いだった。
さて、今は奈良の興福寺、国宝館を見学している。
余すところなく見て回ったが、国宝阿修羅像前は特別だった。
三面六臂の顔は、鋭く尖っており、眉根を寄せている。
髻は一つに垂髷として纏められ、顔は耳までしっかと見える。
修羅界、人間界、天界の様相を呈し、また、少年期、青年期、成人期を表しているとも言われてる。
それぞれの腕は、肩から左右対称に伸び、手を合わせ、中空も、天に向けても持つものはない。
そもそもは、修羅界にいるときの天を向いた両手は、左手は日輪、右手は月輪を持っていた。
日蝕や月蝕を引き起こせる力も持っていた、戦神のなごりだろう。
人間界にいるときの中段の両手は、元々は、左手に弓、右手に矢を持っていた。
天界にいるときの手を合わせている下段の両手は、印をし、仏法に帰依したことを表す。
手首や腕の高い所に、装飾があり、古代インドの王子のなごりが見られる
闘いに自信があるようで、上には条帛、下にはゆったりとした艶やかな模様入りの腰巻を身に着けている。
草履は、鼻緒が青の板金剛と呼ばれるものだ。
「皆が次へ行ってしまったじゃんね。俺だけ金縛りみたいに、ここから動けないじゃん」
騒がしいな。
足音が沢山聞こえた。
上空からだ。
トゥルン……。
「ん? どこからか美しい音色が聞こえて来るじゃん」
トゥルンルンルン……。
シャララララン、ツァルルル……。
「これは……。琴じゃんか」
『――阿王、阿王凱』
「だ、誰かいるんじゃね? 呼び捨てはやめとけって、全く関係ない呟きじゃん」
俺は周りを見回したが、まさかのスチール、俺一人だった。
さっきまでいた班の連中も合流できると思っていた美久羅くんもいない。
俺は異世界へ呼ばれてしまったのか。
朱がたぎった炎模様の中にいた。
『我は、阿修羅大王なり。信仰心の篤いお主に我が力、超感覚を授けよう。お主の眼前に放った金の輪、『灼熱の腕釧』を用いて、『天地鎧』を果たすのだ。我が降臨することによって、力を得られる」
「ほー。そうなんじゃん」
俺の突っ込み先は、そこではない筈だ。
黒歴史が幕を開けようとしているのか。
『お主には、超聴覚だ。これも磨けば技となる』
「俺が、ヒーローみたいになれるじゃん! 父さんと行ったショーみたいじゃんか」
小さい頃は父が健在していた。
遊びに連れて行く天才で、大好きを探すのも秀才で、俺は、父さんをとても尊敬している。
中でもヒーローにはドはまりし、モデルを続けていれば、いつかなれるのかと思っている。
俺が九十九勝一敗のヒーロー歴は、父の優しさで成り立っていた。
本当は、父さんに勝てる訳がない。
「そうじゃん。懐かしいヒーローになってみるのも夢じゃん」
俺は、『灼熱の腕釧』をカラリと手首からはめて、回しながら腕を上げる。
肩の方へ行くと留まった。
「ハハ、冗談でもいいじゃん。そりゃあ! 天地鎧――!」
バリバリと体中を電流に絡まった火炎が走るようだ。
「はあああ……! ぐっ」
俺の魂が半分憑依されたのかと思ったが、これが降臨か。
体中に力が漲って来る。
「う、うぐお……」
ぐっと拳を胸元に引き寄せてみると、筋肉の山並みも凄いのなんの。
「我だが、心が一つとなったのを感じよう」
「あ、ああ……」
先程とは異なり、声が腹から出ている。
大王と俺とが一心同体となったのだろうか。
「どうしたんじゃん? ブレザーじゃないじゃんね」
制服は、蒸発したようだ。
俺の体はシュウーと炎に焼かれたようになっている。
「我がお主からいなくなれば、元の姿に戻ろう」
「それなら、問題ないじゃん」
ちょっとセクシーな俺の姿は、目の前の阿修羅像と同じになっている。
先ず、全身の体色が土のように赤くなっている。
上には大きな金の装飾を首に巻き、緑の条帛、下には赤い色をした腰巻を身に着けている。
草履は、鼻緒が青の板金剛と、つま先までお揃いだ。
「大王は配下に四王がおる」
「誰じゃんね?」
「羅睺、婆稚、佉羅騫駄、毘摩質多羅だ。邂逅し、力を合わせるがいい」
そこで、俺はリーダーのような大王になったのだと理解した。
「待てよ。俺が、この立派な阿修羅大王だなんて、どうして、選ばれたじゃんね?」
「ウオハハハ」
腹からの笑い声が轟いた。
随分と大きな声だったが、異世界の外にいる班には聞こえないのかと思う。
「お主に阿修羅琴が聞こえたからだ。愛娘、舎脂を強奪した帝釈天から救うのが使命だ!」
バババンと俺に響く。
「おいおい、さり気なく大切な話じゃん」
目の前の阿修羅像が、地味に彩色された口を大きくして、言の葉を奏でた。
「戦いながら、凱よ、お主と阿修羅琴で話ができる。先ずは舎脂を探して欲しい。我はお主の体で愛娘との再会を望む」
「よっし、俺もヒーローじゃん。父さんも喜ぶだろうし、いっちょ、やってみそらしど」
先ずは、舎脂様を呼び続けてみた。
「舎脂様――。いらしたら返事をして欲しいじゃんね」
それには、帝釈天は、どこにいるのか。
それを捜すのが先かも知れない。
◇◇◇
トゥルンルンルン……。
シャララララン、ツァルルル……。
「阿修羅琴の音じゃん! 舎脂様と帝釈天が近いんじゃんね?」
俺は、がむしゃらに三面六臂の阿修羅像を後にし、境内へ飛び出した。
「あああ! 助け、お助けあれー」
「あの声が、舎脂様じゃね?」
興福寺は、東西に様々な建物がある。
南東から探して行こう。
春日大社からの道と国道一六九号線の交差点に鳥居がある。
南に石碑などを見て、そのまま南にまた「菩提院大御堂」を目印に右へ曲がると、東に会津八一歌碑と「大湯屋」を南にして、北に大きな「本坊」がある。
そして、北へ行くと、先程までいた阿修羅像のある『国宝館』にいたる。
その南に薬師如来坐像などがある『東金堂』と直ぐ南に「五重塔」がある。
もっと先に五十二段の階段へ出てしまうので気を付けよう。
この北参道へ通じる道の西側に南大門跡があり、般若の芝や不動堂がある。
その北の向かいが中門跡となっており、回廊を挟んで、朱塗りの柱が立派で興福寺伽藍の中心的な『中金堂』がある。
その両脇には経蔵跡が東に鐘楼跡が西に、北には「仮講堂」がある。
さて、西へ向かうと北に「北円堂」が回廊に挟まれており、薪能金春発祥地の石碑や「西金堂跡の碑」があり、南へ向かうと、経納所と一言観音堂の側に「南円堂」がある。
さらに延命地蔵尊や摩利支天石を過ぎ、「三重塔」を見、最も西には興福寺会館がある。
「どこにも姿がないじゃんか。でも、この声は遠くないじゃん。これが、いつでも耳を澄ましているような超聴覚というものじゃんね」
舎脂様が、見当たらなかったので、残念だった。
「我なり、凱。この興福寺で、他の王に出会えよう」
「ええ? またしても大切なことをさり気なくじゃんね」
「愛娘を捜しつつ、我らへの加勢に期待しようぞ」
「了解!」
腹の中で話をするのを本当の腹を割った間柄ではないかと奇妙な感覚に包まれた。
「阿修羅大王に、仲間の四王がいんじゃんね。力になってくれるかも知れないじゃん」
俺と同じ『灼熱の腕釧』が目印になるのか、それともオーラかと目を凝らして捜し始める。
「おーい、羅睺、婆稚、佉羅騫駄、毘摩質多羅! 俺は大王の阿王凱じゃん。仲間になって欲しいじゃんね」
トゥルンルンルン……。
シャララララン、ツァルルル……。
「誰かがいる証じゃん」
近くの本坊の方へ行くと、『灼熱の腕釧』をした人がいる。
右正拳を繰り返し出していたが、俺に気付いて止めた。
どう見ても見なくても、四王だろう。
「俺は、阿王凱。正学園高校一年。よろしくじゃんね」
俺の方から手を差し出す。
握手に応じてくれた。
「僕は、奈良と近場から来た。馬酔木咲華だ。水鏡高校二年だよ」
薄いが整った眉で、瞳は水色で俯き加減の目をしている。
髪は虹色をしており、腰までありそうなのを右で軽く結わえている。
華奢な顎が壊れそうだ。
「こう見えても男だからな」
そう言いつつ、彼は美しい髪を掻き上げた。
キラキラと、虹色が光る。
彼の姿も、阿修羅像と似て、全身の体色が赤くなっている。
上には虹色の条帛、下には赤が主な虹色の模様をした腰巻を身に着けている。
草履は、鼻緒が虹色の板金剛だ。
「馬酔木くん、修学旅行じゃねえの?」
「奈良から京都だと、地元感極まりないんで、僕の高校は広島に行くんだ」
馬酔木くんは、口の端を引いた。
「所で、僕が誰だか分かるか?」
「自己紹介していて、どうしたんじゃん」
「四王だよ」
それなら、思い当たる節がある。
「んー、じゃあ、キャキャキャ……」
言い難くて長い名だ。
「佉羅騫駄だよ! 分かってんなら、詰まるな!」
「なら、キャラケンで、OK、OKじゃん」
「おい、『駄』は、どうしたんだ」
キャラケンくんが虹色の髪を掻き上げる。
自意識過剰かと思った。
「僕の超視覚によればだ。才能あるシルエットが兵庫から動いたようだ。僕が光に包まれて降臨を受けているとき、近場でもそれを感じたが」
「じゃあ、この近くじゃんね」
闇雲には動かないで、慎重に近辺を探る。
五重塔と東金堂の間へも来てみた。
紫の塊がこちらが来るのを待っていたようだった。
『灼熱の腕釧』をしっかとはめている新型人間にアルカイックスマイルで迎え入れられる。
「俺は、大王だから、アシュ。で、この色男は、キャラケンくんじゃん。すると、君は誰じゃんね? 高校生?」
「ワタクシは、摩耶香、光高専二年デス」
「おー! 凄い、高専じゃんかあ。俺は高一、キャラケンくんの方は高二じゃんね、話が合うと思うじゃん」
彼の眉は軽く吊り上がっている。
瞳は透明に近い人口のもので、六角形をしているが、事故にでも遭ったのだろうか。
薄紫の髪が背中まで波打って後ろ姿は人形のようだ。
顎は卵型で可愛い感じすらある。
「もしかして、毘摩質多羅? シッタくんでいいじゃんね」
「ワタクシもよろしくお願いいたしますデス」
彼の姿も、阿修羅像と似て、全身の体色が赤くなっている。
上には薄紫色の条帛、下には赤が主な薄紫色の模様をした腰巻を身に着けている。
草履は、鼻緒が薄紫の板金剛だ。
「俺達さ、今な、阿修羅大王の愛娘を捜しているんだよ」
「了解しましたデス」
どうにも可愛い感じがして、仕方がない。
俺のタイプって、特にないけれども、アイドルだと白鳥小雪ちゃんは推し。
「推してるんじゃん、俺」
「どうしたよ、アシュ」
「いやあ、白鳥小雪ちゃん、知ってるじゃんね?」
真剣白羽取りをされた。
「さあな」
「ガーン! 宇宙一可愛いじゃん……」
三人で中金堂の方まで来た。
がたいのいいのが、『灼熱の腕釧』を装着中だった。
スマートフォンで写真を撮ってみる。
中からは、人間ではなく、四王が振り向いていた。
「こ、怖いじゃんね。彼に画面上からタップしてみるじゃん」
ピルウルルウルル――。
そちらから電話が架かって来た。
折角なので、ビデオ通話にした。
赤い筋肉を自慢気に確認しているポーズから、ぐるっと回ってドアップが映った。
キャラケンに続いて、自分大好きくんだろうか。
「稚田は、名を稚田篤幸と申すっす。魁北高校三年も終わろうとしているっすよ。ワハハ」
「どこかで聞いたことがあるじゃん。どこの高校じゃんね?」
「秋田っす。野球などが強豪校入りしているっすよ」
眉が太目で逞しい。
瞳は、濃い紫で、キョロッとしている。
髪は、群青色の両脇を刈り上げて、顎が逞しい。
「稚田の身に、怪異が起きたっすよ。婆稚が降りて来たっす」
「おお! じゃあ、バチくんでいいじゃんね。俺は阿王凱。で、アシュでよろしくじゃん」
彼の姿も、阿修羅像と似て、全身の体色が赤くなっている。
上には群青色の条帛、下には赤が主な群青色の模様をした腰巻を身に着けている。
草履は、鼻緒が群青色の板金剛だ。
「漢字が苦手そうっすね」
「学年三位じゃん。それはないじゃんよ。仲良くしたくって、愛称で呼びたいんじゃん」
キャラケンくん、シッタくん、バチくんが揃った所で、活を入れた。
「後、一人じゃね!」
拳を作って、振り下ろした。
「そうなんっすか。稚田も匂いを探ってみるっす。超臭覚なもんっすよ」
バチくんは、くんかと嗅いで、最後の一人が一番奥のバスだと言い当てた。
タイヤが熱を持っている匂いらしい。
「そのようデス。ワタクシの超味覚が役に立たなそうデス」
気まずそうに、俺に頭を下げた。
そんな、気遣いは不要なのに。
「僕のは、ビューティフル魂に近い超視覚だよ。一番いいと思うけど、どうなんだろう」
猫みたいに、カカッと髪を搔き上げた。
悪いけれども、俺達でチームを作りたい気持ちがある。
「キャラケンくん、皆で探すじゃんね。それに、超感覚に優劣はないじゃん」
キャラケンくんが、一度腕を組んでそっぽを向いたが、軽く振り向いて頭を垂れた。
悪気はなかったのだろう。
五十二段の階段を駆け下りる。
「んー。んんんん? あの餅隠しじゃんね?」
観光バスの辺りにあの目立つ悪友を見つけた。
彼の姿も、阿修羅像と似ている。
それと分かってか、バスの学ランから離れようとこっちへ走って来た。
すっかり、全身の体色が赤く、上には深緑色の条帛、下には赤が主な深緑色の模様をした腰巻を身に着けている。
草履は、鼻緒が深緑色の板金剛だ。
「どうしたのさ。美久羅くん」
「この腕輪か? 事情はよく分からないが、俺には神が宿ったらしいやん。日頃の行いか? ふふふ」
後ろの集団を気にしつつ、こちらへやって来たようだ。
「すると、残りは、羅睺だから、美久羅くんはラゴくんでいいじゃんね」
「軽っ。どうするやん! 凱」
俺は、仕切り直した。
「こちらから、ラゴくん、バチくん、キャラケンくん、シッタくんじゃん。俺は、アシュじゃんね。よろしく」
「オレや、よろしくや」
「稚田もよろしくっす」
「僕もよろしくだね」
「ワタクシもよろしくお願いいたしますデス」
輪になって中央へ拳を突き出した。
五人が星のように輝き出す。
「この天地鎧状態で、皆の力を貸して欲しいじゃん」
せーのと、息を吸いこむ。
「おうや!」
「おっす!」
「舎脂様の為に!」
「デス」
俺達は、一丸となったと思った。
そこへ、田仲達の班が来た。
「やっべえじゃんね」
「どうしたやん」
帝釈天のいそうな所を超聴覚で探ってみる。
「ちょ、灯台下暗し。東京の方じゃんか。超視覚はキャラケンくんじゃんね?」
班の連中に、先に帰るとは言い難い。
そもそも、はぐれてしまったことも伝えられない。
こんな、筋肉体型のモデルは、ある意味需要がありそうだが、友達としての需要は、今はない。
どう伝えようか。
「アシュさん、稚田が、お困りごとを引き受けるっすよ。超臭覚で、あの人らと同じ昼飯を食ったのが分かったっす。お仲間なんっすよね」
バチくんが、拝観料を支払った際に貰った紙にさっとメモをして、紙飛行機に変形させると、班長の頭に当てた。
「阿王くんが、腹痛で班行動を離れるそうだ」
◆リンク
第2話: https://note.com/uhi_cna/n/n131bed97a11d
第3話:https://note.com/uhi_cna/n/n9902e447a737