緊急対決! どっちがより渋谷系か? 鈴木ヒロミツvs石立鉄男(ブログ再録)
昔、コーネリアスがセカンド・アルバム『69/96』をリリースした時、週刊誌で音楽担当をしていた私は、当時デス渋谷系のプリンスと言われていた友人の中原昌也氏をゲストに迎えて、誌面でルーツ対談という企画をやったことがある。とはいえ、中原氏は例によって遅刻して取材現場にこないので、結局私とライターの伊藤英嗣氏(現『クッキーシーン』発行人)と小山田氏とで「トホホ……」とか言いながら、雑談して待ってたりしたわけだが、その時、小山田氏が中学時代にヘビメタに夢中になる前には、何を聞いていたのかという話になった。小山田氏の父上が有名なムード歌謡のグループのメンバーだったのはご存じだろう。だから子供時代は、同業のミュージシャンが実家に遊びにくることが多かったらしい。ごく普通の小学生らしく、小さいころは当然アニメソングなどに夢中だった小山田氏なのだが、父上が連れてきた音楽仲間の中には、NHKでよくいっしょに仕事をしていた水木一郎、堀江美都子、こおろぎ73などのアニメ歌手の人がいて、小山田少年には彼らが来たのが誰よりも嬉しかったのだという。で、小山田氏いわく、後にネオアコやソフトロックを聴くようになったのはその影響が大だそうで、クローディーヌ・ロンジェを聞くようになったのは堀江美都子の影響だし、トム・ジョーンズは水木一郎、コーラスものが好きなのはきっとこおろぎ73の影響だろうと言っていた。「ホントかよ」と伊藤氏が当然のツッコミを入れて爆笑していたが、しかしその時、私には思い当たるフシがあったのだ。
以前、『Techii』編集部時代に、徹夜作業のBGM用にと、完パケたばかりのピチカート・ファイヴ『カップルズ』を聴いて、音楽観がひっくり返るほどの衝撃を受けた。当然、戸田誠司氏のソフトロック指導のたまものでもあったわけだが、それはそれとして、最初に『カップルズ』を聴いたときに口に出たのは、「これって石立鉄男のアレじゃん……」という台詞だった。当時の私はまだ、バカラックなどほとんど聴いていない。だからその時の私は、石立鉄男が出ていた日本テレビの、『雑居時代』『パパと呼ばないで』『気まぐれ天使』などの一連の連続ドラマで、大野雄二が手掛けていたダバダバ・コーラスのBGMを最初に連想したのだ。
石立鉄男と聞いて、即座に「ダバダバもの」を連想するのは、おそらく40代以上の世代に限定されるだろう。実は、榊原るみ主演の『気になる嫁さん』に始まる石立シリーズを手掛けた構成の松木ひろしは、「日本のニール・サイモン」と言われている脚本家で、それまでのベタベタなホームドラマに対抗して、ちょっと洒脱なウェルメイドなコメディを得意とする人だった。『雑居時代』の年頃の男女が無理矢理同居する設定やカメラマンという職業も洋画みたいだし、『気まぐれ天使』なんてジャン・ギャバンのフランス映画のタイトルの引用だし。松木ひろしを脚本に起用したプロデューサーの狙いもまさにそこで、石立をビリー・ワイルダー映画のジャック・レモンにしたかったらしい。だから、シリーズ当初から慶応大学のライト・ミュージック・ソサエティにいた無名時代の大野雄二を音楽に起用し、全編ラウンジ風ジャズやダバダバスキャット(しかも、ジャン・ジャック・ペリーのモンパルナス2000のライブラリーをいち早く導入!)で音楽を構成していたのだ。『気になる嫁さん』なんて、2クール目には、石立本人が「こんにちわ、石立です」と言って画面に登場し、ドラマの撮影現場を紹介するなんていう、ゴダールというかトリュフォー『アメリカの夜』みたいなメタ構造を持つ回もあったりする。ついでに言うと、『きまぐれ天使』の音楽は大野雄二と元エイプリル・フールの小坂忠だから、その後の私が細野サウンドに出会う運命はここで準備されていたことになる。
ここまで書いて「そういえば石立って、髪型がロックだしね」と思った人もいると思うが、それは間違っている!(きっぱり) 青年座に入るまでアメリカを放浪していたモダン派の石立だが、アメリカ道中で見かけたヒッピーにはむしろ嫌悪感を感じていたんだそう。帰国後、日本にも長髪のヒッピーが繁殖していたことに頭に来ていたらしく、それが理由で「だったら俺のほうがもっと凄い髪型をしてやる」という反骨精神で、頭をオバサン風のモジャモジャにしてしまったのだ。そのイメージにジミヘンがあったのは言わずもがなだが、彼は反ヒッピーの視点からヒッピーを体得するという、まるで小西康陽的な屈折の人物なのだ。それに、石立は若いころハイミナール(当時、合法化されていた流行のドラッグ)中毒になって、一時期廃人になりかけていたこともある。マッドチェスターなんて聴いてるくせにシンナー止まりの若者より、ずっとハッピー・マンデーズのメンバーみたいな生き方をしてきた人なのだ。
石立鉄男の話ばかりでは申し訳ない。もう一人、私の血肉を作ってきた役者に、鈴木ヒロミツがいる。TBSの『夜明けの刑事』で上司と部下の関係だった2人に、私は大人への憧れの思いを投影していた。しかし、石立は水曜日8時に日本テレビで自身のシリーズを持っていたのに、なんで裏番組の『夜明けの刑事』にも出ていたのか、それが未だに謎だ(笑)。だから、石立はほとんど出てこないという幻のデカ長として私は記憶している。で、『夜明けの刑事』好きなら、なぜ主演の石橋正次じゃなくヒロミツなのだという外野の声も当然あがるだろう(本当の主演は坂上二郎なのだが、なぜかいつも友人との会話には名前が出ない……)。
以前、雑誌『ビックリハウス』の企画で、「マンガさん症候群」という特集があった。これは、宮脇康之のドラマ「ケンちゃんシリーズ」に出てくる“マンガさん”という役をロールモデルとした生き様を説く企画であった。「ケンちゃんシリーズ」は、寿司屋だのケーキ屋だのと設定だけ変わって長期続いたドラマだが、配役はけっこうダブっていて、いつも田舎から出てきてケンちゃんの家に下宿して苦学している、将来マンガ家になるのを夢見ている“マンガさん”という人がレギュラーにいたのだ。この人はいわゆるコミックリリーフ的な役割だから、エンディングで「いっけね」「アハハハ……(一同爆笑)」とか、そういう使われ方をするだけの存在だったが、たま〜に3クール目ぐらいで「マンガさんの初恋」といったマンガさん主役の回が用意されていたりして、ほろ苦いいい演技を見せたりする。で、『ビックリハウス』のその特集は、クラスで「ケンちゃんシリーズ」ごっこをする時に、必ずマンガさんを割り当てられてしまう全国の同輩に向けたものだった。私はこれを読んで「これは私の姿だ」と思った。昔から、ウルトラマンごっこならカプセル怪獣ミクラス、仮面ライダーアマゾンごっこならモグラ獣人を志願するような、屈折した少年だった私。憧れのハリウッド俳優はジーン・ハックマンだったし。そんなわけで、私がドラマに夢中になる時、たいてい自己を投影していたのは、カッコイイ主役ではなく、石立鉄男や鈴木ヒロミツのような名バイプレーヤーだったのだ。であるからして、『夜明けの刑事』も断然、石橋正次より鈴木ヒロミツ派であった。『アイアンキング』も石橋正次より浜田光夫派であったから、ガキのころから私の主義は一貫していたのだ。
『夜明けの刑事』も最初の主題歌は、石橋正次の「夜明けの停車場」だったが、2クール目からは、番組ではコミックリリーフにすぎない鈴木ヒロミツの「でも、何かが違う」に変わって私を喜ばせた。もともとこの番組、坂上二郎の聞き込みシーンで毎回かかる「ヨ〜ア〜ケ〜ノ〜ケ〜イ〜ジ〜」という外人なまりの挿入曲を、ポール・ロジャースのバッド・カンパニーが歌っていたというロック指数の高いドラマだった。主題曲だって、元モップスの星勝(ホシカツと読む)だし。ヒロミツはその後、デカ長が石立から梅宮辰夫になった『明日の刑事』になっても主題歌を歌い続けるので、確実に私の中のロック・ヴォーカルの基準を形作ってきた。「ヘタなのも味」というやつだ。
小学校の高学年時代にはまたこんな体験もある。NHKラジオでやっていた「若いこだま」という番組で、パーソナリティの渋谷陽一が鈴木ヒロミツ特集をして、「鈴木ヒロミツが歌わないのは罪である」という名言を残すのだ。『ロッキング・オン』を読んで渋谷陽一を信奉してる若輩者には、いかに渋谷が鈴木ヒロミツの多大な影響を受けてきたかよもや想像もできないだろう。当時、吉田拓郎にも憧れていた私だったが、かまやつひろしに提供した「我がよき友よ」と並んで、鈴木ヒロミツが在籍していたGS時代のモップス(日本一汚いGSグループの異名を取っていた)の「たどりついたらいつも雨降り」のレコードが宝物だった。しばらくしてモップスは中古盤で見つけ、期待してLPを買ったのだが、メインヴォーカルは星勝で、ヒロミツはスパイダースにおける井上順みたいな立場だったのが悲しかった。だから、私のヒロミツ愛は、ほかの先達のモップス支持者と違って、もっぱらソロシングル以降である。
ともあれ、私がピチカート・ファイヴにのめり込んだきっかけには、石立鉄男の存在があった。「鈴木ヒロミツを聞け」と言ったのは渋谷陽一なので、ヒロミツも私の頭の中では“渋谷系”だ(だから、ツェッペリンも渋谷系ってことになる)。今回のこのカテゴリーでは、「じゃあどっちがより渋谷系か?」を、2人のディスコグラフィから比較してみることにした。
ちなみに、私の友人であるライターの加藤義彦氏の尽力によって、石立鉄男に関してはレコード音源の大半が『コメディドラマ・ソングブック』というコンピレーションCDにまとめられている(私もちょろっとクレジットで協力)。ヒロミツは残念ながらCD化には恵まれていない。近年、テレビのGS特番で「朝まで待てない」を歌う場面をよく見るが、おそらく早朝まで六本木で飲んでそのままスタジオ入りしたんだろう、凄まじい声ガレぶりに元ファンとしては心配になる。ゴールデン・カップスの伝記映画の次は、モップスと鈴木ヒロミツでしょう、やっぱり。渋谷陽一にも、ロッキング・オン・フェスに突然ヒロミツを呼ぶような、そういう平成のロック伝説を巻き起こしてもらいたいものである。
鈴木博三「すずき・ひろみつの気楽に行こう」(東芝音楽工業)
モップス時代に出したソロ・シングル。カントリー風の演奏はモップス。「車はガソリンで走るのです」というモービル・ガソリンのCM曲。小林亜星作曲の「のんびり行こうよ」とは兄弟のような関係の曲として記憶されるが、あちらが服部克久の曲「記念樹」とのパクリ裁判に発展するという意味で、この曲も渋谷系につきもののパクリ論争とは従兄弟のような関係にある(無理矢理すぎ)。モップスはRCサクセションとも交流が深かったが、RCのギター担当だった破廉ケンチは、フリッパーズ・ギターの事務所「TKO」の社長の桶田氏だったわけで、ヒロミツはフリッパーズの遠い親戚の叔父さんのような存在でもある。 
鈴木ヒロミツ「でも、何かが違う」(東芝EMI)
『夜明けの刑事』主題歌で、石橋正次「夜明けの停車場」に替わって2クール目から登場。作詞作曲のマチ・ロジャーズというのは、番組の挿入歌「夜明けの刑事」を歌っていたバッド・カンパニーのポール・ロジャースの日本人の奥さん。以前『レコード・コレクターズ』でインタビューに答えていたが、彼女によるとこの曲はポール自身の作曲だったんだとか。『夜明けの刑事』のスタッフともめ事があり、頭に来てクレジットを奥さんの名前にしちゃったという話(ちなみに奥さんは曲は書かない)。『夜明けの刑事』と言えば、星勝の主題曲も大好きだった。バドカンの挿入歌といっしょに誰かCDで復刻してくれないものか。星勝のサントラでレコード化されているのって『土曜ナナハン危機一髪』(主題歌は甲斐バンド「漂流者」)ぐらいしかないし。ミカバンドや四人囃子が6万枚ぐらいしか売れてなかった時代に、井上陽水『氷の世界』を100万枚売ったプロデューサーなのに、星勝のロック界での評価が低いのが悲しい。 
鈴木ヒロミツ「何処かで失くしたやさしさを」(東芝EMI)
『夜明けの刑事』の次シーズンの主題歌。ポール・ロジャーズが番組と揉めたという話だったのに、なぜか引き続きマチ・ロジャーズの登板。イントロのアープ・オデッセイの哀愁のフレーズにシビレる。アルバム『永遠の輪廻』から参加した編曲家、小六禮二郎の「ズドーン!」って感じのストリングス・アタックがやたらドラマチックで、以降はヒロミツサウンドの重要な構成要素に。ちなみにテレビ・ヴァージョンは3番にあたる。 
鈴木ヒロミツ「愛に野菊を」(東芝EMI)
石立鉄男が移転となり、デカ長が角刈りのヤクザみたいな梅宮辰夫に交代して、タイトルが『明日の刑事』に変更(坂上二郎、鈴木ヒロミツは続投)。作曲は続いて外国人のマイケル・ホルム。この人、ジョルジオ・モロダーとスピナッチというデュオで活動していた人で、日本ではタイガースがカヴァーした「ルイルイ」で有名だった。私らの世代にとっては、シンセサイザー・ユニットの“クスコ”の片割れとしても知られる。渋谷系というより『電子音楽 in the (lost)world』な話だな。作詞の岡田富美子の詞がまたよくて「粗末な花瓶しかないけれど、この花に美しいと言ってあげたい」というキザな台詞を、ヒロミツが言うから味が出る。声は毎回、最悪とも言えるコンディションで吹き込んでおり、すでに1番からフラット気味のガラガラの涙声で、森進一「うさぎ」を彷彿とさせる。 
鈴木ヒロミツ『永遠の輪廻』(東芝EMI)
生涯唯一のアルバム。ヒロミツ原理主義者の聖典。「でも、何かが違う」でソロ活動を本格開始した直後の76年にリリース。星勝の曲「丘の上で」と、ドラマーのミキハルが1曲作詞を手掛けている以外はモップス人脈は関わっておらず、宇崎竜堂、ジョニー大倉、下田逸郎、りりィらが曲提供し、小六禮二郎、羽田健太郎らがサウンド・プロデュースを担当。「茜色したいわし雲を」なんていう、はっぴいえんどみたいな歌詞の曲まである。たいそうなことにアルバム冒頭にインスト曲が入っていたり、「帰らない日々」ではメロトロンとモーグを大胆にフィーチャーするなど、初期クリムゾン的なドラマチックな演出も。シングル「でも、何かが違う」は録り直しのストリングス・ヴァージョン。 
『ヤットデタマン 歌と音楽集』(ビクター)
フジテレビのクイズ番組にレギュラー出演していたころ、なぜか依頼されたタイムボカンシリーズのエンディング曲「ヤットデタマン・ブギウギ・レディ」で最前線に帰還。シンセを多用した乾裕樹のディスコ・サウンドはボトムが効いていて、ヒロミツの新局面の発掘に貢献している。トッシュ(たぶん山形ユキオ)の歌う主題歌もカッコよい。ヒロミツマニアは、オリジナルカラオケ入りのアルバムのほうを是非求められたし。 
トランザム「やさしい雨を降らせておくれ」(ビクター)
これはヒロミツ歌唱ではなく関連作品ということで、『明日の刑事』の最終シーズンの主題歌。チト河内のグループで、コカコーラのCMソング「裸足で地球をかけるのさ」が有名だった。前身は吉田拓郎のグループ新六文銭で、後藤次利も一時メンバーだったことがあるが、本作のころはチトも後藤も脱退していた。ローズ・ピアノに導かれて始まる、哀愁のサックスのイントロ。事件が解決してホッとした後に流れるタイトルロールが、『スタスキー&ハッチ』みたいな洋画刑事ドラマ風だった。今でも、もし私に刑事ドラマを撮れと言われたら、コートを無造作に肩にかけた先輩に、そっとライターで煙草に火を付けてあげる後輩との2ショットの後ろ姿に、この曲を使いたい。 
石立鉄男、シンガース・スリー「さみしいナ/水もれ甲介」(CBS・ソニー)
日本テレビの石立シリーズで、唯一シングル発売されたもの。劇中曲を担当していた無名時代の大野雄二の曲で、石立鉄男が歌う演歌風の挿入曲と、伊集加代子のいたシンガース・スリーが歌う爽やかな主題歌とのスプリット・ディスク。曲は、ちょっとピチカート風かも。本編の音楽も一貫してニール・ヘフティ、バート・バカラックを意識していたが、前作『雑居時代』のような洋モノドラマ風の設定が一般ウケしなかったからか、本作から舞台は水道配管業というかなりベタな設定になる(とは言え、石立は実家を飛び出したドラマー志望)。「と、日記には書いておこう」という名セリフのCMで全国の中高校生を虜にした村地弘美が出ていたのだが、DVDで見直してもやっぱり可愛かった。顔がオシャレというか。そういえばあのCMの男の子って「ケンちゃん」シリーズのマンガさんの役者だったな。

小坂忠とウルトラ『気まぐれ天使』(トリオ)
石立シリーズで唯一のアルバム。大野雄二の音楽はシリーズ不動だが、『気まぐれ天使』のみ小坂忠が加わり、ユニット名がウルトラ名義になる(作編曲は大野雄二)。小坂が所属していた伝説のレーベル「ショウボート」から出ていたので、このアルバムのみ2回もCD再発されている。サウンドはそれまでのフランス風から、鈴木茂のセカンド『ラグーン』みたいな、ソリーナなどが入ったボッサ風というか西海岸路線。樹木希林の登場曲だった「綾乃のテーマ」がホット・バターみたいなモーグ・インストに。『気まぐれ天使』と言えば、東京キッドブラザーズの女優、坪田直子が可愛かった。今でもたまにCMのナレーターやってたりするとドキっとする。私がリジー・メルシエ・デクルーが好きなのは、たぶん坪田直子好きだったのの名残りだと思う。 
杉浦直樹、石立鉄男「さらば女ともだち」(東芝EMI)
残念ながら、ローカルに住んでいたので筆者未見のテレビ朝日系ドラマの主題歌。石立が兄貴と慕う、芸能界で唯一の親友である杉浦直樹とのデュエット・シングル。イントロは「君の瞳に恋してる」をメロディー・サンプリングしていたり、coba風のミュゼットまで聞こえたりする、ちょっと『カメラ・トーク』風味。実は、ハイミナール中毒で廃人寸前になりかけていたところを救ったのが、役者の先輩だった杉浦直樹だったのだ。リハビリの最中に杉浦の手ほどきを受けたことから、石立の趣味が将棋になった逸話も有名。  
石立鉄男、山内絵美子『優しさゲーム』(ワーナー・パイオニア)
石立鉄男唯一のアルバムは、セクシー女優の山内絵美子とのデュエット作品。ジェット機の音やラウンジのノイズなどが曲をつなぎ、世界を巡るエロい大人の二人旅というコンセプトで作られたもので、「南緯17」「IN TAHITI」など音楽もワールド・ミュージック風。裏ジャケの写真を見てわかるように、石立もエロ度全開。これが山城新五なら「サービス、サービス」という声も聞こえてきそう。「ブラック・レイシャー・ランジェリー」なんていうジュテームものまであって、さしずめバーキン&ゲンスブールか(決してヒロシ&キーボーではない)。83年という時代を意識したのか、コント風のセリフの掛け合いがある「チェイス」という、リズムボックスの打ち込みのテクノポップ・チューンまであり。 
石立鉄男『TETSUO ISHIDATE VOICE』(カエルカフェ)
これを紹介するのはあまり気が進まないのだが、最近、萌え系声優の「お兄ちゃん」という声ネタのCDが売れているそうなので、そのルーツとして取り上げた、石立鉄男の声が500種類入ったサンプリング素材集。これが第一弾で、続いて名古屋章、小倉一郎、小川真由美などがリリースされている。でも、なんか発想が代理店くさいんだよなあ(博報堂の社員なんだから仕方がない)。「やめちまえ、そんな仕事」「カルビ10人前!」などの用途不明なセリフの中に、「メ〜ル?」などの現代チックな実用的なセリフが混じっている。「笑い(ロング・ヴァージョン)」は、ちょっとシド・バレット入ってるかも。「この薄汚ねえシンデレラ」「お前はどこのワカメじゃ」が入ってないのは、コピーライトの問題でもあるんだろうか。
ジャンケンポー「スペース小町」(SMSレコード)
これは石立関連作品ということで、日本テレビの最後のレギュラー番組になった『天まであがれ!2』の主題歌のシングル。元カーナビーツ、クリエイションのアイ高野が結成したテクノポップのグループで、『カトマンドゥ』でバグルズみたいなサウンドを実践していた時期のゴダイゴのタケカワユキヒデ、ミッキー吉野が楽曲提供している。私が昨年選曲した『テクノマジック歌謡曲』にも、石立原理主義者として収録させていただいたが、その後にアイ高野が亡くなるとは……。合掌。
(了)