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あなたの職場は大丈夫?「若手のびっくり退職」の裏側

楽しそうに働いていた若手が、突然会社を辞めていくーー。いわゆる「びっくり退職」に思い当たる人は多いでしょう。「一身上の都合」の裏側には何があるのでしょうか。株式会社ワンキャリア Evangelistの寺口 浩大氏と、Alternative Work Lab 所長の石倉 秀明氏が対談を実施。人事や人材開発などHR領域のプロフェッショナル2人が解き明かします。
※本記事は、2024年2月15日(木)に実施したオンラインセミナー「なぜ起きる?若手のびっくり退職『一身上』の都合の裏側」を元に制作しました。アーカイブ動画視聴はこちらから


「びっくり退職」でびっくりするのは上司だけ

石倉:そもそも、「びっくり退職」でびっくりしているのは上司だけです。朝起きて思い立って突然会社を辞める人はなかなかいませんよね。働いているうちにだんだん職場への不満や不安が溜まっていって、その結果転職活動を始めるケースがほとんど。だから、上司に「会社を辞めようと思うんですが……」と前もって相談するわけないんです。

びっくり退職という事象そのものではなく、その根本原因を考えることが重要です。キャリアの話はセンシティブなので、仕事の相談よりもハードルが高いんです。部下が今何を考えてどういう状態にあるのか、どんなキャリアを思い描いているのか、お互いの認識をすり合わせることが第一歩になります。

寺口:若手が辞めるタイミングとして多いもののひとつが「異動」。異動の打診を受けると「異動か、転職か、独立か」で悩むようですね。前提として、働くということに対する価値観や会社に対する考え方は、年代によってガラッと変わります。とくにZ世代は新しい感覚を持っていますね。僕の体感では、今の「30歳と35歳」と「25歳と30歳」では、感覚のかけ離れ方が全然違います。

問題なのは、上司が「若手はどうしてああなんだろう?」「どう扱ったらいいんだろう?」と話すとき、そこに若手自身がいないこと。部下の実態を見ずに、頭で考えた“若手像”をベースに話していませんか?

働く主語も目的語も、両方「自分」になってきている

石倉:最近の若手にはどんな特徴がみられるのでしょうか?

寺口:まずは、キャリアの主語と目的語の両方が「自分」になっていることです。例えば、2025年卒学生向けに行った「企業選びで最も重視することは?(最大3つまで)」というアンケートへの回答は、多いものから「(自分の)給料が高い」「自分のなりたい職種である」「自分の成長が期待できる」が並びます(※1)。

働く主語も目的語も、すべてが「自分」。社会をこう変えたいとか社会とつながって成し遂げたいということではなくて、「自分が自分をどうするか」という発想で、重視するポイントは「選べるかどうか」。僕はこれを「自我のインフレ」と呼んでいます。

石倉:例えば「自分のなりたい職種である」について、僕たちの世代も当然、自分の希望部署はあっても、それを大っぴらに優先度高く扱うことはなかったように思います。働く主語も目的語も「自分」となると、企業が発しているメッセージやミッション、ビジョンとは多かれ少なかれズレが生じるでしょうね。

寺口:そうなんです。自分が思い描くキャリアパスを実現したい20代にとって、就職は目的ではなく手段ですから、具体的なキャリアパスの情報が示されないと働くイメージがわきません。採用ページやSNSに載せるコンテンツの方向性は、若手のキャリアニーズに合わせて柔軟に変えていきましょう。

>対談の内容をさらに詳しく知りたい方は、動画ページへどうぞ

約4割の学生が「転職」前提でファーストキャリアを選んでいる

寺口:衝撃的なことに、約4割の就活生が「転職する前提」でファーストキャリアを選んでいます(※2)。面接の場で「御社の方は、次にどういう場所で活躍していますか?」と聞かれることも少なくないようです。これは積極的に「転職したい」というよりも、「転職できない状態になりたくない、キャリアで詰みたくない」という感覚です。実際、入社1年目の社員の4割が「転職活動をするか、または検討している」というデータもあります(※3)。

石倉:就職は一生に一度の大イベントではなく、カジュアルにやり直すのがスタンダードになってきていますね。これは、就職先の会社に人生を預けようという気がさらさらない、ある意味自立した考えともいえます。逆に企業は、自社の魅力を上げてPRしないと優秀な人材から選ばれないわけで、個人と企業の関係がかなり健全になってきていると思います。

寺口:自立性の強い人は採用されやすいですが、そういう人はキャリアも自立的に切り拓いていくでしょうから、離職リスクもはらんでいますよね。そういう意味では、組織の強さとは「他社から転職オファーを受けても、あえて残っているメンバーの多さ」で計ることができると思います。

辞めていく若手の本音は「不安、焦り、不満」の3つ

石倉:では、若手はどういう理由で退職するんでしょうか。

寺口:ONE CAREER PLUSで集めている転職理由の本音をまとめると「不安」「焦り」「不満」の3つに整理できます。キャリアパスの不明瞭さや不確実性から「不安」が生まれ、周囲との比較によって「焦り」が生まれ、現状とのギャップから「不満」が生れる。このうち「不満」は定量調査で見えますが、「不安」と「焦り」はあいまいで表現しにくいので、個人の声を聞いて定性的に判断するしかありません。

例えば、「転職市場で自分は通用するのか?」という不安。今の30代以上は、社内で高く評価されて早々に昇進したり、「最年少マネージャー」「MVP」といった肩書きを得たりするのがオーソドックスな成功パターンでした。でも、今の若手は必ずしもそれを望んでいません。上司がご褒美だと思っているものが、若手にとってはご褒美ではないわけです。

専門性のなさに対する不安もあります。手に職をつけようと、未経験からでも職種を変えようとする人は多いです。また安定の裏返しで、変化のなさによる不安も。「60歳までずっとこの仕事をやるのか……」という思いがよぎると、不安が生まれます。

石倉:上司が「この先にポジティブな変化が待っているよ」と、自分自身をケースとして見せられるといいですよね。若手にとって一回り、二回り上の上司が働く姿は、会社に残る理由にも、辞める理由にもなりえます。そして「焦り」の要素では、ゆるい職場にいていいのかという声をよく聞きます。

寺口:はい。「ゆるさ」による焦りと不安は最近ぐっと増えました。20代は全力で仕事に打ち込める環境に身を置きたいのにそれが許されない……という不安ですね。SNSを通じて同世代の仕事の内容や労働環境が見えるようになり、比較対象が生まれてしまったという背景があります。

石倉:上司が、こうした前提を理解していれば、部下とのコミュニケーションの取り方もだいぶ変わるでしょう。「不満」の象徴的な例はありますか?

寺口:例えば希望部署に配属されなかったこと、勤務地を選べないことへの不満は多いですね。「まずは与えられた環境で頑張って、経験を積んでから希望の部署に挑戦しよう」という考えは、僕たちにとっては自然でしたが、世代間でズレがあると思っています。

石倉:就職先の会社に自分と家族が住む場所を限定されるなんて理解できなくて当然だと思います(笑)。ただリモートワークはオフィス勤務と比べて、どうしても受け取る情報量が減ります。だから上司と部下がお互いに「わかった気にならない」姿勢を持っておきたいところです。

寺口:当社はさまざまな状況を抱える人が働いていますが、それぞれのメンバーが最大限パフォーマンスできる働き方を模索しながら働いています。働き方を選べることは、採用活動でも強みになっていると感じます。

Z世代と上手に向き合うための、2つのポイント

石倉:今はSNSを通して、日常生活で受け取る情報量が爆増しています。Z世代は、昔なら悩まなくてよかったことに悩み、本来比べなくていいものと自分を比べるようになってしまっている。そういう世代とどう付き合っていけばいいのでしょうか。

寺口:ポイントは2つあります。1つは「事実のオープン化」。給与テーブルや評価制度、キャリアパスなど、これまでベールに包まれていた項目をオープンにしていくことです。もう1つは「解釈のすり合わせ」。部下の現状を知るために、コミュニケーションの頻度と密度を上げる意識が大事になります。

石倉:解釈のすり合わせを緻密にやり続けるために、工夫していることはありますか?

寺口:当社では、日常的な上司とメンバーの1on1とは別に、CD-Time(Carrer Development Time)を設定しています。これは業務相談ではなく、キャリアの話だけをするというもの。そのための時間を明確に設けることで、キャリアの志向と現在の業務との接続などについて話しやすい雰囲気をつくっています。

石倉:もし上司と部下の関係性で話しにくいなら、コーチのような第三者に入ってもらうのも一手です。現在地を理解しあって、ズレがあればまずは認識する。そのステップを着実に踏んでいくことが大事ですね。

寺口:実感しているのは、「会社に入る理由と残る理由は違う」ということ。求職者の方は、その会社で長く働いている人たちが、なぜ残っているのか聞くといいと思います。

石倉:会社に残る理由は、仲間のよさや仕事内容、職場環境、ミッションへの共感など人によってさまざまです。でも、働くために邪魔なポイントやハードルははっきりしているので、それを会社の中から撲滅することで、優秀な人材の流出を防ぎたい。この考え方は、すべての年齢層で一致するのではないでしょうか。

>対談の内容をさらに詳しく知りたい方は、動画ページへどうぞ

※1,2:2022年11月実施、2025年卒向けワンキャリア調査(n=92)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000035321.html

※3:2023年2月実施、ディスコ調査(n=457)
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/03/wakatechosa_202303-1.pdf

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