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闘う日本人 10月 ハロウィン

                            (第19回)

このショート小説は、約5分で読める
ほんとにバカバカしいショートショートの物語です。
毎日、日本人は頑張っていつも何かと闘っている。
そんな姿を面白おかしく書いたものです。

今月は10月の闘いでハロウィンがテーマです。

昭和生まれの先輩社員林とZ世代と新入社員の鈴木ではどうも歯車が合わないようです。
それでも先輩社員の林は時代と闘うのです。


 林は定時後の、会社の建物の薄暗い地下駐車場を歩いていた。

 十月の肌寒い風など地下駐車場では感じないはずなのだが、林はなぜかそれを感じていた。そしてどこからか物音とともに「ウーウー」と苦しむような、何かのうめき声のようなものが駐車場に響き渡っていた。

「なんだか気味が悪いな」

 林は今夜、取引先と接待をする山田部長のために、会社の車で送るところだった。

 そして、その薄気味の悪いうめき声は林が乗る車の近くから聞こえていた。林は用心深く車に近づくと、白い物体が動くのを見た。

「ユ、ユウレイか!」

 一瞬驚いた林だったが、ユウレイにしては怖さが足りず、動くと言うよりモゾモゾしている感じだった。

「だ、誰だ!」

 林は自分の恐怖心を振り払うように、大声でその白い物体に叫んだ。
 
するとその白い物体はすぐに動きが止まり、その白いものの中から人のような・・・・・・いや人が出てきた。

「僕ですよ。先輩」

 そう言って、その白い布のようなものから出てきたのは後輩の鈴木だった。しかし、顔が変だ。なにか・・・・・・まるでゾンビのような顔をしている。

 その顔を見た林は「ギャー」と叫んで尻餅をついてしまった。

「大丈夫ですか?林先輩」

 顔は恐ろしい感じだが、心配そうな顔つきで鈴木は林に近づいた。

「ばか、近寄るな。気持ち悪い」

「気持ち悪いって、ひどいですね」

 鈴木がそう言うと、林は少し落ち着いたのか、立ち上がり、

「お前、いったいこんな所で何をしているんだ?」

 訳がわからない林は、お尻をパンパンと払いながら言った。

「何してるって、今夜はハロウィンですよ。今から友達と仮装して街に繰り出すんですよ。このお化けのコスチュームを脱ぐと中からゾンビが出るっていう仕掛けです。今試していたんですよ。でも被るかぶるのに手間取っちゃって」

 そう言われて、その白い布をよくみて見ると、確かに口や目のようなものがマジックで適当に書かれていた。林は呆れたように、

「何がハロウィンだ。俺は今から部長の接待のお供なんだぞ。いつまでも子供みたいな事をしやがって」

 鈴木を睨みつけるようにいうと、

「先輩、残業ご苦労様です。今夜はヅラ部長のお供ですか?」

「バカ、ヅラ部長とか言うな。もし本人がいたらまずいだろ」

 林はそう言って辺りを見回した。幸いな事にまだ部長は来ていないようだった。

「あっ、すいません。ついいつもの口癖が出てしまって。でもそれって公然の秘密ですよね」

 鈴木はあまり悪びれる様子もなく言った。

「先輩には申し訳ありませんが、今日は朝からハロウィンを楽しむつもりでした。先輩も昔はハロウィンを楽しんだんでしょ?」

 鈴木がそう言うと林は「ナイナイ」と言う素振りで、顔の前で手を振り

「俺の若い頃にはハロウィンなんてものはなかったよ。いや、正確にいうとハロウィンそのものはあったんだろうけど、今みたいに街でバカ騒ぎみたいな事をする事はないよ。全く、今どきの若い者はすぐに商業ベースに乗るんだからな」

 そう鈴木を見下すように言った。すると鈴木は、

「それを言うなら、バレンタインやクリスマスだってそうでしょ。元々日本になかったものですから。先輩だって今年の2月には『最近は義理チョコがなくなったな』とぼやいていたじゃないですか」

 そういわれると林は

「あれはだな・・・・・・」言葉が続かない。そして思いついたように

「あれはもう日本の行事だからだよ。会社の女性社員は男性社員を敬って年に1回チョコレートをサービスする行事なんだよ」と胸を張って言った。

 すると鈴木は

「うわ!先輩、今セクハラを堂々と言いましたね。男性社員だの女性社員だの敬うだのどうのこうの。こんなの誰かが聞いていたら、もう炎上間違いなしですよ」

 林は『しまった』と思って

「い、いや今のは失言。失礼した。誰にも言わないでくれ」

 そしてその話しをそらしたかったのか、

「しかし、このオバケの被り物かぶりものはいらないんじゃないのか?お前のそのゾンビのメイクだけで十分だろ」

 話しを仮装の方に持って行った。

「そうっすかねぇ。この被り物からゾンビが出るのがいいのかなって思っていましたけど」

「いらない、いらない。被らないくていいんだよ。そのままがいい。だいたいなんで被るんだよ。そんなもの邪魔だろ」

 林が大声でそういうと、林を見ていた鈴木は少し顔色を変えて黙ってしまった。

「どうした鈴木?被らなくていいて言う俺の意見があまりにも正しくて言葉にならないのか?」

 と、林は満足げに言うと、後ろから

「林君。私は被らなくてもいいのかい」

 と、やや野太い声がした。

 その声に林は、ゆっくりと後ろを向くと、

 例の山田部長が仏頂面で立っていた。

「ぶ、部長」

 そう言ってもう一回反対を向き、鈴木の方をみると「あ~あ、言っちゃった」という顔をしていた。

 林は慌てて「いや、今日はハロウィンで、こいつが変な被り物をしていて、決して部長の事では・・・・・・」

 そこまで言って林は固まってしまった。

 すると山田部長は

「そうか、君はわかっていてくれてたんだな。今夜は、先日取引先とのミスをした専務の責任を代わりに被りかぶりに行くということを」

「はい?」

「そうか。確かに君のいうとおりだ。私が被るのではなく、本来は専務が被るべきなんだ。わかったよ。ありがとう。君のおかげだ」

 山田部長はそう言うと仏頂面から満面の笑顔になった。

 それを見た林は

「あ、はは、はい」と気の抜けたような返事をしたが、同時に助かったと思った。

 その様子を見ていた鈴木は、

「それじゃ僕はここから|づら・・かりますね」

 と、両手を頭に置くしぐさをして去って行った。


もう一つの11月のショートショート
【寒露】
闘う日本人 10月 寒露|Akino雨月

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