闘う日本人 11月 木枯らし1号
このショート小説は、約5分で読める
ほんとにバカバカしいショートショートの物語です。
毎日、日本人は頑張っていつも何かと闘っている。そんな姿を面白おかしく書いたものです。
今月は11月の闘いで『木枯らし1号』がテーマです。
昭和生まれの林先輩とZ世代の新入社員・鈴木とはどうも歯車が合わないようです。
それでも林先輩は時代と闘うのです。
「うー、寒!今日は北風が強いな。たぶん、木枯らし1号が発表されるぞ」
林はコートの襟を立てて、顔を覆うようにして言った。
林と後輩の鈴木は、新企画のプレゼンの為に新規取引先の会社を訪れていた。その会社でプレゼンを行ったのは林たちの会社だけではなく、ほかにも5社あったため、時間が長引き夕方になった。プレゼンの結果は、後日に連絡するとのことだった。
今日のプレゼンは上手くいったと林は思っていた。なので意気揚々としていたが、この強い北風を受け、今までの気持ちも吹き飛んでしまった。
「木枯らし1号ですか?」
鈴木は林に聞き返すように言った。
「そうだ、木枯らし1号だ。まさか鈴木、木枯らし1号を知らないんじゃないだろうな」
林がそう言うと
「ええ、聞いたことはありますが、それが何なかはよくわかりません」
知らないものは知らないという態度は非常に感心だ。それが社会人としての第一歩だと林は思った。そして、コホンと一つ咳をして
「木枯らし1号というのはだな。この時期に吹く強い北風のことだ。これが吹くと冬が来たなって感じるんだよ」
すると鈴木は
「でも、強い北風ってこれから結構吹きますよね。すると木枯らし2号とか3号4号・・・・・・って続くんですか?」
「いや木枯らしは1号だけだ。この時期の最初の風速8m以上の北風が吹けば木枯らし1号ということで、2号3号などはないそうだ」
すると鈴木はどうして?と言う感じで、
「どうして2号以降はないんですか?台風なんて2号以降ずっとありますよ」
そう言われても、林にはどうしてそうなのかはよくわからない。そういうものだと気象庁の方とか、あるいはほかの偉い人たちが決めたのだから。
それでも林はなんとか説明しようとした。
「それはだな。つまり・・・・・・そいうもんなんだ。2番目3番目はとりあえず無視をされるんだ」
その答えに鈴木は納得がいかないようで、
「それじゃ、2番以降が可愛そうですよね。やっぱり2位じゃダメなんですね」
「それ、どこかの政治家が言ってなかったか?」
林がそう言うと鈴木はキョトンとしていた。その言葉が流行ったのはまだ鈴木が小学生の頃だった。そして
「やっぱり2番目は注目されませんよね。僕なんか次男だから、兄ほどチヤホヤされた記憶がないんですよ」
林は、なんで木枯らし1号の話しが鈴木の兄弟の関係の話しになるのかと感じつつも
「2番目だっていいぞ。ほら特急なら『あづさ2号』は歌になったが1号は歌にならなかったし、鉄人なんて28号が主役だ」
「先輩、何の話しをしているんですか?特急だの鉄人だのって?」
鈴木には、昭和に流行った歌やアニメの事はわからないようだった。
林としても、とりあえず2番目以降の言葉を思いつくまま言ったものの、話しに収拾がつかない。
「いや、つまりだな、言いたいのは何番目でも主役になれると言うことだ」
林は自分の言葉をなんとか繕うように言った。
「何番目でも主役ですか・・・・・・。良い言葉ですね」
林は、自分でも良いことを言ったなと思い、胸をなで下ろした。
「そうだよ。何番目でも主役なんだ。ちなみに俺は長男だけどな」
そう言って二人は、北風の吹く街中を歩いて行った。
数日後。
「林先輩。さっき、あのプレゼンをした会社から連絡があって、我々の会社は次点だったそうです」
「何!次点?」
「そうです、2番目ですよ。採用されたのは朝日商事の企画ですが、そこの納期が間に合わなければ、次はうちになると言うことでした」
林は愕然とした。あのプレゼンには自信があった。そしてあれが取れなかったら、今月の売上げは最下位だ。林は膝から崩れ落ちた。
「先輩、大丈夫ですか。でもこの前言ったじゃないですか。何番目でも主役だって」
膝をついた林は鈴木を見上げて言った。
「これは1番目じゃないとダメなんだよ」
会社の窓からは、先日に続いて強い北風が吹いるのが見えた。これをあえて言うなら、木枯らし2号だ。
鈴木は愕然としている林を見て言った。
「やはり2番じゃだめですね」
すると林は
「場合によるんだよ」と言ってうなだれた。
10月の「闘う日本人シリーズ」
ハロウィン 闘う日本人 10月 ハロウィン|Akino雨月
寒露 闘う日本人 10月 寒露|Akino雨月
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