闘う日本人 2024年の勤労感謝の日
11月「2024年の勤労感謝の日」
このショート小説は、約5分で読める
ほんとにバカバカしいショートショートの物語です。
毎日、日本人は頑張っていつも何かと闘っている。
そんな姿を面白おかしく書いたものです。
今月は11月の闘いで「2024年の勤労感謝の日」がテーマです。
昭和生まれの林先輩とZ世代と新入社員ではどうも歯車が合わないようです。
それでも林先輩は時代と闘うのです。
「先輩、今月の24日って勤労感謝の日で祝日ですよね」
鈴木は少し不満そうに言った。
すると先輩の林は
「そうだな。11月24日は勤労感謝の日だな。われわれ労働者に感謝する日だ」
「労働者に感謝する日なんですか?」
「いや、労働者と言うより勤労に感謝だから・・・・・・」などと考えていると
「いや、そんな事はどうでも良いんですよ。問題は24日が土曜日だって言うことですよ」
「24日が土曜日?」
「そうですよ。せっかく24日が祝日なのに、これが日曜日なら月曜日が振替休日でしょ。24日が金曜日なら金土日と3連休ですよ。なのに24日が土曜日なら、普通どおりじゃないですか。祝日の意味が全くないですよ」
林は鈴木にそう言われると、机の上の卓上カレンダーをまじまじと見た。
「確かに。そう言われると損した気になるな」
「でしょ。なんとかなんないですかね。この土曜日祝日問題」
「土曜日祝日問題?」
「そうですよ。土曜日も、日曜日と同じように祝日が重なったら月曜日が休みにならないですかね」
すると林は
「鈴木の世代だと、土曜日も休みって言うのは当たり前なんだな」
「先輩は違うんですか?」
「俺が子供の頃は、土曜日は半ドンだった」
「半ドン?」
「そうだ。半ドンだ。もしかしてお前『半ドン』を知らないのか」
そう言われると、鈴木は少し考えるようにして
「たぶん“半”というのは半分と言うことなんでしょうが、その“ドン”ってなんですか?まさか丼物でも食べるわけじゃないでしょう」
「そんな事を俺に聞くな。とにかく昔は土曜日は半ドンと言って半日出勤、または半日出校だったんだよ。だから土曜日が祝日だと全日休みだから嬉しかった。だが、ちょっと損した気にもなったけど」
「なんか中途半端なシステムですね」
そう言われればそうだが、当時はそれはそれで満足していた。
「国会で『土曜日と祝日が重なると、翌月曜日は振替休日』と言う法案が出ないですかね。それを公約した党が選挙に出れば、僕は絶対その党に入れますけどね」
「お前は単純だな。そんな事よりもっと経済とか福祉だとか外交を重視するだろう」
「だって、そんな事言われても全然わからないですから。絶対『土曜日祝日振替法案』の方が受けますよ」
「まったく今の若い者は勤労意欲がないな。俺が若い頃なんてもっとバリバリ働いていたよ」
すると鈴木は少し嘆息を漏らすように
「今はそんな時代じゃないですよ」と言った。
その言葉に林は納得しかけたが、何かを振り払うように
「いやしかしだな、そんなに休みばかり増えてもしょうがないだろ」
そう言うと、鈴木は
「そんな事ありませんよ。休みが増えれば行楽や買い物で消費が拡大する。ついては日本経済の拡大に寄与します」
本当に鈴木はわかって言っているのだろうか?経済のことがわからないという割には、なんだかもっともらしいことを言う。
「そもそも勤労感謝とはな、働く喜びに感謝するっていうことなんだ。鈴木みたいに休むことばかり考えていたんじゃ、人として成長しないぞ」
林は鈴木にピシャリと言った。
それを聞いた鈴木は、頭を傾けながらよくわからない表情をしていた。
その時、
「林君、ちょっと」
林は課長に呼ばれた。
何の用事だろうと思いながら、林は課長席に行った。
すると課長は、
「今度の土曜日なんだがね。取引先の山木商事でイベントがあるんだよ」
「イベント?」
「ああ、なんでも勤労感謝の日だからと言う事で、社員の慰労という目的で社員家族を含めて運動会をするのが恒例になっているらしい。そこで人手が足りないと言うことで、取引先から少しずつ手伝いを出すことになっている。すまんが今年は林君にお願いしたいんだ。もちろん、休日出勤扱いにはなるよ」
「はあ・・・・・・」
林は少々不満だったが仕事なら仕方ないと思った。
「課長も行かれますか?」
「いや、私は行かないよ。その日から3連休にするから」
「3連休?」
「そりゃそうだろ。土曜日が祝日なんだから、月曜日に振替休日を取ってもおかしくないだろ」
「はい?」
「考えてもみたまえ。なんで日曜日に祝日が重なると月曜日が振替休日なのに、土曜日に祝日が重なると振替休日がないんだ。おかしいだろ。だから私は月曜日に有給をとることにしたんだ」
まさか年上の課長までそんな考えとは・・・・・・。林は固まってしまった。
「それじゃよろしく頼むよ」
林は席に帰ると呆然としていた。
「どうしました、林先輩?」
鈴木は呆然としている林を見ていった。
「お前が言うことは、案外正解かもな」
林はふと『もしかして自分の感覚は時代の流れに取り残されているのではないだろうか?』と感じた。