クレイジーインアラバマ
『クレイジーインアラバマ』
マークチャイルドレス/著 村井智之/訳 産業編集 センター
〈1965年の夏、アラバマで誰もがクレイジーになった夏だった〉。
12歳の少年ピジョーの夢は葬儀屋になる事。その時の為に葬儀場の間取図を書いている。犬小屋やプールもあるスゴイやつ。墓掘人だった祖父は、葬式中にクスクス笑いをしたのが遺族にバレてスコップで頭を割られて死亡。両親は墓場協議会の帰り父の居眠り運転あっけなくで死亡。2歳年上のクールな兄ウィリーと、大好きな祖母ミーモーとアラバマ州で3人暮らし。しかし平和な毎日は、突然、終わってしまった。
やって来たのは父の妹ルシールおばさん33歳。ハリウッドに行って女優になるからと、6人の子供を預けに来たのだ。子供は皆ハリウッドスターの名前を付けられてるし。おばさんはちょっと美人だし。でも夫のチェスターはどうなるのかと訊ねるミーモーに、〈殺したの〉と取り出したのは半透明の緑色のレタス保存用タッパーウエア、出てきたのはおじさんの生首。髪の毛を掴んで振り回すルシールに、正当防衛だから、正当防衛!と混乱したミーモーは娘可愛さに口走り、子供たちは泣き叫び、ピジョーはおじさんと目が合ってしまい散々なことに。なんとルシールはおじさんを連れてハリウッドへと車で逃走。この時、おじさん殺害の真相を打ち明けられたのはピジョーただ一人。おばさんの無事を祈るピジョー。
家が狭いのでピジョーとウィリーはインダストリーで葬儀屋を営むダブおじさんに預けられた。葬儀場にウキウキするピジョーにまた事件が起きる。
ウィリーと行ったプールでのこと。入場を拒否された黒人少年が仲間を集め、座り込みを始めた。ピジョーは少年たちに加勢しようとするが、保安官に阻まれ、揉み合いになりリーダー格の少年が死亡。黒人社会権運動勃発。プールに入りたかっただけなのに何で?と心を痛めるピジョーにまたまた事件が。
一方、ルシールおばさんは逃げる逃げる。先々で女優なのと触れ回るが周囲の反応は冷たい。とあるバーでは売春婦呼ばわりされ、これにはルシール怒り心頭、銃をぶっ放しレジの札束を強奪、ついでに車も拝借し逃走。追って来た警官を色仕掛けで骨抜きにし裸のまま放置、運が味方しラスベガスで大儲け一夜にして大金持ちに。高級ホテルの若いベルボーイを次々誘惑ベットイン。夫の首を肌身離さず持ち歩き、ハリウッドのオーディションに見事合格。国民的コメディドラマ「じゃじゃ馬億万長者」に出演、一躍新進コメディ女優の座へと躍り出た。夫の首は幸運アイテムなのか?ブツブツとチェスターおじさんの首が話し出す話し出す。〈ルシール、愛している〉。
ピジョーに起きた事件は彼から右目を奪ってしまった。老婆の庭の芝刈りの手伝いで、機械が跳ねた石が目あたり大出血。それを見た老婆はショック死。しかし報道では先のプール黒人少年死亡事件と結びつけられ、包帯でグルグル巻きのピジョーの写真が、黒人をかばって名誉の負傷を追った有名な白人少年として、世界的雑誌ライフ誌の表紙を飾ってしまいー。
2段組み540ページ超え、物語の後半は、人種差別問題、法廷劇要素が色濃く描かれ、最後には大団円かと思われたところに、またもやブラックコメディ要素が、ひとつふたつではなく詰め込まれ驚愕必至。しかも登場人物皆んながクレイジー。
ルシールは分かっている。この幸運は限りある時間だと。とびきりの美人じゃない、アラバマ訛りを嘲笑されていることも。賢い女性なのだ。その血はピジョーに受け継がれている。残った片方の目で2倍世界を見なくっちゃと思える心、一つ目小僧だミイラだぞモンスターだぞヒーローだ!と夢へと邁進できるしなやかでタフ血が。それがひと夏に滾った熱いアラバマの血なのだ。