20世紀ラテンアメリカ短篇選

『20世紀ラテンアメリカ短篇選』野谷文昭 編訳

さあ行こう 君と僕と。

大地を踏みしめ 沸き立つ水蒸気の その ゆらゆらの向こう とうに死んだ先祖たちの 目覚めを告げる やまない 深い深い吐息の くらいくらいの その。

さあ行こう。

地面から生えた たくさんの腕を掻い潜り つぎつぎと 亡者の腕が月を覆い たちまち密林となった その鳥の啼き声 その光る獣の目 その奥へ奥へと その。

行こう。

君が《青い目の花束》をねだったから 闇に踊る衣 熱い地面を蹴り 遠い物語の旅人の きれいな 青い目玉を 僕は抉りとった《夜は瞳の園だった》。

もちろん 黄色い目の若者は 難を逃れて 国へ逃げ帰ったさ。

抉られた青い目玉たちは

棺桶の中の溺死した男の 大切な《チャック・モール》生贄を捧げる祭壇としてのマヤの仰臥像を/殺した女の魂が胸の骨に棲みつき いつしか愛し合うようになった男の 秘密の名前を/ 見た。

そのまま

小さなまりになって 敬虔な修道士を狂気に駆り立て/女の白いドレスにこびりついた血となり 死んだことさえを忘れさせ/道に迷う男に《日蝕》が起こるよと囁いた/蛇に噛まれた男の 気分を良くし/決闘で闇に光る白い刃を揺し/家の扉に 巨大なウミヘビを釘付にし 幼い兄弟を怖がらせ ヘビを料理して食べさせる/くらいできる くらい青い青い その。

行こう。

物語の書き手が殺される/暗がりで陥没した頰を撫でさする/聖母像のマントに潜んで自分を慰める/やって来る《雲をつくような庭師》をただ待っている/骨董の磁器はその生きた時間を巻き戻し/目をつぶって歩くと嫌が良いになり/5人の尼僧がローラースケートで国境まで行く 悪夢/それは

遠い遠い古から 繰り返されていたくらい 亡者どもが 耳障りに笑いたてるくらい くらいの その。

さあ行こう 君と僕と。

首長竜さえ 棲みはしない 冷たい湖で 鱗だらけの 2匹の鮭になり その くらいくらい 《水の底で》空に花束を放り上げて。

16個の青い目玉が見ている。

全ての生命が途切れても 語って聞かせてくれないか。

その 青い青い その。

(現代詩手帖)

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