10月

『ざんねんなスパイ』一條次郎 (新潮社)

(ザザザ、キーン、あーあー、本日は晴天なり。)

新宿の皆さんこんにちは!今月もやってまいりました「街頭書評」大変長らくお待たせいたしました。え?待ってない?はーい、ありがとうございまーす。まずは表紙を開いてこの真ん中の人物に注目。スーツ姿でサングラスの男が振り向きざまに右手で銃を構え、ネクタイが翻って格好良く、あズボンが短いです、ざんねん、老人臭が漂ってしまいました。しかしこの男こそが小説の主人公、長い清掃員勤務を経て73歳にしてニホーン政府当局のスパイに任命されたコードネーム〈ルーキー〉なのです。

彼にはとても悲しい過去があります。スパイ養成施設〈オーファン〉のクリスマス会で、危険なダンス〈フリースタイルオクラホマミキサースペシャル〉で技を競い合った結果、大親友のハロルド・ホイが〈ロッキン肺炎ブギウギ流感〉で死んでしまったのです。10歳の彼に大きなトラウマを残しました。

〈ルーキー〉の任務はとある軍事的要所である街の独立をもくろむ市長暗殺。しかし、やって来た街は人口4388人、失業率80%、密造酒〈フライイングスノーマン〉が蔓延する、独立してどうかなるの?って場所でした。しかも市長の顔さえ知らないのでした、ざんねん。

とりま、年金暮らしの老人を装い目立たぬように暮らすことにした彼に、忍び寄る事件。〈イエス・キリストです。福音を届けにまいりました〉〈あー福音ならまにあってます〉と断っても家に侵入してくるキリストと揉み合いになるうちに、生来のダンサブルな血が騒ぎキリストと華麗なるダンスを披露カッコよくフィニッシュを決めたと思ったらキリストは誰かが投げたペーパーナイフが刺さり息絶えてしまい、またダンスで人が死んでしまって、スパイなので警察は呼べず、墓地まで引きずって行き穴を掘り賛美歌を30分歌い、十字架を作って淋しくないように電飾で飾って手厚く葬って、家にはキリストの子馬が残されたので干し草をやり可愛がっていると、隣に住むマダム・ステルスに、それは〈ロバね〉と言われ、ロバかもしれないけど、どうやらマダムはルーキーがショッピング・モール〈ワリダカ〉で3000円で買った車のエンジンを狙ってるみたいだし、自称泥棒だし油断ならないが、なにしろ可愛いロバが逃げ出したので、足跡を追って行くうちに人ほどに大きい巨大リス〈リョリス〉、巨にか略してないのに会ってしまうは、やっとロバを見つけたらついでにこの街の悪の巣窟とも言える〈密造酒工場〉を偶然発見、ロバと一緒に新聞に乗りスパイなのに有名人になってしまい、市長ミッキー・チャンの祝賀会に呼ばれ、踊りながら登場した市長にまた血が騒ぎ出しパンダのヌイグルミも巻き込んで市長と一緒に踊り〈アイヤー、ルーキーさん、ダンス上手だったネー!〉とスパイなのにますます有名になって、それはもうフォークダンスの輪で目まぐるしく相手が入れ替わるように、その後も色んな人々がやって来て、何故だか分からないけど、大きな飛行機の中の海に浮かんだ船に〈キョリス〉と乗っていたりで、任務の市長暗殺はどうなっちゃうのかと言うと、それはアラスカマラミュートのですねー、あ、もう書店に走り出した方!左はブック○オフ、右が紀伊○屋書店、左ノー右イエス!

痛い、誰?おまわりさん?客引き?違います、客引きキャッチじゃないです、私はただの新宿地下の清掃員73歳です、この「ざんねんなスパイ」をですねー、スパイ?いえ違います!あれ?歳のせいで重要な任務を忘れたとか?まさかそうなの?やめて、連行しないでーあ、レインボーマンさん、いつも配達ご苦労様ですー、助けて、あー皆さんまた来月—。(ピーガガガー)

(投稿動画:新宿の中心で書評を叫んだ男)

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