第107回薬剤師国家試験と禁忌肢について
(3/28)実際の禁忌肢について、Twitterなどで検索した範囲で分かったものを記載しました。禁忌肢だった可能性が高いものは太線にし、禁忌肢でないものは横線で消しています。
また、情報をTwitterか質問箱に投げていただけると幸いです。
(3/29)問67-3について追加しました。
恐らく受験者みんながほんのちょっとだけ気になっている薬剤師国家試験の禁忌肢について、あらためてまとめてみることにしました。
またTwitterなどで候補が乱立していることもあり、必要以上の不安を少なくする意味合いも込めて書いてみました(2/22追記)。
ただしあくまで一個人の考えであることをご了承ください。
そして非常にデリケートな話題であるため、意見等がありましたら忌憚なくTwitterに送っていただけると幸いです。
禁忌肢とは
まさに冒頭の引用した通りの基準で、毎年数問入れてある選択肢のことです。合計3つ以上選んでしまうと即不合格となるようですが、禁忌肢で不合格になったというのを未だ直接見たことはないです(言いづらい、というのはあるかもしれませんが…)。
分かりやすい例として、過去問だと104回の311の4は恐らく禁忌肢です。
これは「倫理的に誤った解答」にあたる上、問題の"識別指数"が高いだろう、ということが理由として挙げられます。
識別指数とは第100回の必須問題の補正に使われているものであり、
とするものです。(107回の採点でも正答率2%程度の問題において識別指数が低かったのか、補正が適用されました)
冒頭の引用にあった、"偶発的な要素で不合格とならないよう出題数や問題の質に配慮する"というものは恐らくこうやって考慮しているものだと思います。つまり、差がつくちょうどいい問題でなければ禁忌肢っぽくても除外される可能性がある、ということです。
例として106回の325をあげてみます。
この中で1と3は「公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容」にはっきり該当します。しかし両方とも禁忌肢ではなかったようです。つまり、この問題の識別指数がそれほど高くなかった、そのため禁忌肢の優先順位として低くなり選ばれなかった、という解釈ができます。
つまり、禁忌肢を考えるにあたっては優先順位をつけていくことが必要なのでは、という風に個人的には考えています。
さらに予備校の模試の例を挙げます。予備校は膨大な回答データを持っており、そのため禁忌肢の発見が容易であることから、予備校が出す模試の例はまさに国試の禁忌肢を参考に作られたものであることが考えられます。
詳細は省きますが、薬ゼミ統一3では以下の6つでした。内訳は法規が1つ、実務が5つです。括弧内は該当問題の正答率です。
・食事運動療法に対し、患者の意見は聞かず、薬剤師が奨めた内容のみ実践してもらう(96.6%)
・過テクチニウム酸Naを投与するときに放射線被曝を考慮する必要はない(86.6%)
・HIVの治療で免疫機能が改善したらただちに薬剤投与を中止する(47.2%)
・心不全への薬物投与で呼吸困難を伴う顔面や喉の腫れが出た場合でも、症状は一過性として投与継続する(83.9%)
・インスリンの自己注射を忘れたときは気づいたときに2回分注射する(90.1%)
・高血圧へのアジルサルタンの服用を忘れてしまった場合、翌朝に2回分服用する(89.7%)
ちなみに禁忌肢の数は薬ゼミ統一1が6つ、薬ゼミ統一2が8つでした。なので国試でもだいたいそれぐらいの数だと考えられます。これらの模試でもだいたい禁忌肢の内容は2回服用系などが主流であり、またほぼすべてが実務の問題でした。
第107回薬剤師国家試験の禁忌肢候補
これらの前置きをしたうえで、今回の国試の禁忌肢を優先度別に考えてみます。理由は以下それぞれA~Dで記載します。
A 公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容
B 倫理的に誤った内容
C 患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容
D 法律に抵触する内容
ただし、あくまで合計で6~8つくらいの選択肢の可能性が高いです。よって以下に記載するもので、優先度中のうちの半分くらい、優先度低はほぼすべてが(禁忌肢っぽいけど)実際は禁忌肢ではないと思います。ただ、Twitterなどで禁忌肢候補が多いなか、これらに心配される方も多いのではと思い記載しました。繰り返しになりますが中以下のものは1つ選んでいてもほぼ大丈夫だと思います。
また、以下に挙げたもの以外が禁忌肢になることはまず無いと思います(理論以降全ての選択肢に目を通したうえでリストアップしています)。そのため、リストにない選択肢が禁忌肢にあたりますか?という質問に対しては「まず無いと思います」というお答えしかできないことをご了承ください。
(2/22追記)
優先度: 高
禁忌肢の可能性が非常に高いことがはっきりと判別でき、また問題の正答率も高そうなもの。
問142-2: D 疑義照会したくても処方医と連絡が取れない場合は照会せず調剤できる。
→法規の問題。法律に抵触する、かつ正答率および識別指数が高そうなので可能性は高いと思います。
問293-1: A 風疹患者に対し、他の医療機関受診時に風疹感染を伝えないよう勧める。
→実務。今回の国試で一番禁忌肢に近いと思います。時事ネタ的にも。
問307-5: B,D ビンクリスチンによる副作用救済対応において、医薬品と患者情報を病院のホームページで公開して注意喚起する。
→実務。個人情報的に非常に問題があるので、293-1の次に禁忌肢に近いと思います。→禁忌肢ではありませんでした。正直これは意外でした…。
問340-1: A 食中毒の下痢が続いている間は、経口補水液の接種を控えるよう助言する。
→実務。下痢では重篤な脱水症状を起こすことがあるため、健康相談会でのこの発言はNGである可能性が高いです。
優先度: 中
禁忌肢の可能性が高そうなものの、高に挙げたものよりははっきりと言えないもの。
(3/29追加)問67-3: B,C がん終末期の呼吸困難にスキサメトニウム投与。
→必須問題からはないだろうと思ってチェックしてませんでした…。確かに致命的な投与になります。これを選んだ人が禁忌肢を踏んでいるという情報を頂いたので掲載します。
→実際にアンケートを取ってみたところ、選んで禁忌肢があったという方が多かったのでほぼ確定だと思われます。必須でも禁忌肢になり得る、というのは気を付けるべき事項かなと感じました。
これが(推測ですが)禁忌肢であった理由として、がん終末期へのいわゆる積極的安楽死に筋弛緩薬が使われるということがあり、現在の医療倫理において積極的安楽死がNGであるということが大きいように思えます。
問208-4: C (誤答選択問題)ロスバスタチンとコレスチミドの処方に対し、お腹の痛みや張りを感じた時はすぐに医師か薬剤師に連絡するよう言う。
→実務。副作用の重さより、「副作用が出ても医師や連絡しないよう言う」という選択をするのは患者さんに重篤な障害を招くと言えると思います。
問235-5: C 低Ca血症にデノスマブ投与。
→実務。デノスマブによる低Caはブルーレターになっています。これを選ぶ選ばないの識別度からしても、優先度低のものよりは禁忌肢の可能性があると思います。
問250-5: C (誤答選択問題)メトトレキサートとインフリキシマブ投与時、風邪症状が出た場合にはすぐに医療従事者に連絡するように伝えた。
→実務。風邪症状でも伝えなくていい、というのはまずい気がしますが、誤答選択形式の問題なので優先度を下げています。
問254-5: C アダリムマブ投与直後にふらつきや息苦しさを感じても安静にすると自然に治まると伝える。
→実務。アナフィラキシーの可能性があるので禁忌肢の可能性はかなり高いと思います。ただ記事公開後圧倒的に問い合わせが多かった選択肢であるので、選択率の高さから除外される可能性があると思い、高から中に移しました(3/1)。
問259-4: C チアマゾール投与後に発熱してもそれはバセドウ病の症状であり、副作用ではないと伝える。
→実務。無顆粒球症の危険がありますが、問題の識別指数がそれほど高くなさそうな感じなので優先度高よりは禁忌肢の可能性が低いと思いました。
問260-5: C 緑内障の点眼液に対して十分効果が得られない場合は1回2滴まで点眼可能だと伝える。
→実務。重篤度からするとそれほどですが、薬ゼミ模試がことごとくこれ系を禁忌肢としていたので。
問288-5: C 関節リウマチへのメトトレキサート投与を毎日行うよう伝える。
→実務。これは実際に事例があったこと、問題の難易度から中にしました。
問314-3,5: C 服用を忘れた時に2回まとめて服用するよう説明。/ 服用が面倒なら服用量を自己調整していいと伝える。
→実務。どちらも薬ゼミ模試の禁忌肢の定番なので。
問315-3: B,C,D Do処方の場合は服薬指導を省略することにした。
→実務。対応としての不味さが多岐にわたるので、優先度は結構高めだと思います。
問322-5: A アスベストの健康被害を疑った人への対応で、一過性の炎症反応のため心配いらないと説明。
→実務。公衆衛生上の問題としては大きく、また典型的だと思うので、優先度低のものよりは可能性があると思います。
優先度: 低
禁忌肢の基準に該当はするものの、分野が実務・法規以外であったり、識別指数が高くなさそうなもの。
恐らく優先順位的に実際はほぼすべて禁忌肢ではないと思います。
問108-5: C (誤答選択問題)妊婦にセンナ投与は早流産の恐れがあるので注意する。
→生薬の問題。流産は赤ちゃんの重大なリスクであると思いますが、誤答を選べという形式、また生薬の問題で正答率はそれほど高くなさそうなことからこの位置にしました。問159-1,3: C 房室ブロックにアミオダロンorランジオロール投与。
→病態の問題。禁忌であり命に係わりますが、房室ブロックが近年では初出題であり正答率・識別指数がかなり低いことが予想されるため、仮にあったとしても外れると思います。
→どちらも禁忌肢とは違うようです。推測になりますが、やはり問題の難度が高いと重篤なものでも外されるのかもしれません。問212-5: C リセドロン酸服用で便が黒色になっても心配ないと伝える。
→実務。重大な疾患の見落としに繋がりますが、相対的に優先度としては高くないと思います。
問218-1: C クリゾチニブ後の肝障害に対して同一用量のまま継続、多剤追加なし。
→実務。重大な障害とはいえるものの問題の難度が高く、優先度としてはかなり低くなると思います。
問276-3: C 速効型インスリンの注射を忘れた時、空腹時でも注射する。
→実務。低血糖の恐れがありますが、優先度中のものよりは識別指数が低いと思いました。
問301-1: C 凝固亢進してきたDICにヘパリンを中止しトラネキサム酸を投与するよう提案する。
→実務。凝固亢進のDICにトラネキサム酸は禁忌ですが、線溶亢進型には使われることもあり、問題の難易度的にも禁忌肢にはならないと思います。
問309-4: A 要指導医薬品であるフルチカゾンの点鼻薬を売るときに10箱をまとめて販売した。
→実務。公衆衛生上問題かもしれないですが、重大な問題とはいえないこと、またこの選択肢を選んだ人はけっこういそうなので、禁忌肢を考慮する際に外されると思います。
問312-4: A 経口避妊薬の服用で妊娠を完全に回避できると説明する。
→実務。これも公衆衛生上問題ですが、新傾向問題だったので優先順位的にとても低いと思います。
問338-5: C サルブタモール吸入後に咳がひどいようであればもう1回吸入してもよい。
→実務。2回服用系ですが「咳がひどいようであれば」という条件付きなこと、2回吸入しても他の選択肢よりは重篤でないこと、また問題の難度が恐らくそれなりに高いことから禁忌肢の可能性はかなり低いと思います。
→338-3(痰が出なくなったら中止してもよい)が禁忌肢の可能性あり?