ロシア軍は得意の「恐怖戦略」を実行 抵抗すればするほど殺戮されるウクライナゼレンスキーを国民はどこまで信頼する?2022年3月6日時点 ウクライナ戦争に関する私見メモ2
巻頭写真:"Ukrainian flag in the city of Kharkov." January 24, 2022, iStock.
●正規軍によるテロリズム
ロシア軍はウクライナで「抵抗すればするほど国は破壊され、より多くの市民が死ぬ」という「恐怖戦略」を採用していると思う。相手に恐怖を与え「早く抵抗をやめた方が被害が少なくて済むよ」と誘う。
これは2回のチェチェン戦争(第一次:1994〜96年 第二次:1999〜2009年)でロシアがチェチェン人の抵抗を屈服させた手法であり、既視感がある。
チェチェン戦争でのグロズヌイ、シリア内戦でのアレッポ空爆(2012~2016年。空爆はロシア軍)など、最近の作戦内容から考えて、ロシア軍は市街戦で非戦闘員を殺傷することをためらわない。
市街戦では、地上部隊が突入する前に可能な限りの空爆や砲撃を加え、街を破壊する。そうして、できる限り抵抗勢力を潰しておく。市街地は遮蔽物(隠れる場所)が多い。破壊しておかないと、待ち伏せされて自軍の損害が増える。
キエフの人口は280万人。周辺部含めると400万人で、名古屋市〜横浜市と同じぐらいの人口規模がある。その市街地でロシア軍とウクライナ軍が戦闘を展開すると、非戦闘員が何人が死ぬのか、私には想像ができない。死傷者・破壊とも悲惨なことになることだけは間違いない。
(上はアレッポ包囲戦を内側からビデオで記録したドキュメンタリー映画『娘は戦場で生まれた』=2019年)
恐怖戦略は、非戦闘員がむごたらしく大量に殺戮されるほど効果を発揮する。それがマスコミやネットで世界に流れる。するとウクライナのゼレンスキーに「お前が退陣すれば人命が助かる」という圧力が国内外からかかり始める。いわば正規軍によるテロリズムである。
「恐怖戦略」に該当する英語がなかなか思い当たらない。"Tactics of terror"がそれに近い。この言葉は日本語でいう「テロリズム」「テロ」=Terrorismのことなのだが、英語では「非政府組織が目的達成のために暴力を行使すること」という含意がある。
ロシア軍はロシア政府の正規組織である。「相手に恐怖を与えて自分の望む方向に動かす」のだっから、やっていることはテロリズムそのものだ。が正規軍がテロリズムを行使する例は珍しい。
どこかの時点で(おそらくキエフの包囲戦・市街戦の前)このロシア軍の恐怖戦略に耐えきれなくなったウクライナのゼレンスキーが退陣、西側に亡命する。親露政権がウクライナに樹立され、停戦。非戦闘員の殺戮が止まる。全土制圧。これがロシアの考えているシナリオだろう。
●原発占領は恐怖戦略のひとつ
敵に恐怖を与えて屈服させるのが恐怖戦略の目的だと考えれば、ウクライナ南部の「ザポリージャ原発」の占拠もそのひとつだと理解できる。
ゼレンスキーは「初の原子力テロ」とパニックした。
日本のマスコミもつられてパニックした。
●原発破壊はロシア軍にとって軍事的自殺行為
3月5日の日本の全国紙の見出し「原子力リスク顕在化」という見出しには失笑を禁じえない。ウクライナ側が、原発にあるウランやプルトニウムを「ダーティ・ボム」(核物質を通常火薬で破裂させ被曝や汚染を起こす核兵器の一種)に使うことの方がよほど恐ろしい。「ロシア軍が来た!」と運転員が逃げていなくなるのも困る。原発が暴走してしまう。
ザポリージャ原発現地からの動画を見れば、ロシア軍兵士は原発の駐車場にいる。こんな近距離から原子炉を破壊したら、自軍 が被曝する。周辺が汚染されて占領できない。こんなことは軍事的には自殺行為である。
もしロシア軍が原子炉を破壊するつもりなら、地上軍は送らない。離れたところからミサイル攻撃する。キエフのテレビ塔はちゃんと破壊したので、ロシア軍はやろうと思えばできる。
軍事的には、地上軍の侵攻時に発電所を占領するのは基本的なセオリー通りである。送電を止めて敵を兵糧攻めにするためだ。
もし敵を困らせたいなら、送電線を爆破すれば十分だ。原子炉を破壊してしまったら、汚染されるし電気はないしで、占領統治ができない。
そもそもロシアは世界一の核兵器保有国であり、有り余るほど核物質がある。ウクライナを核攻撃したい、核汚染したいなら、核兵器なりウラン・プルトニウムを自国から持って来れば良いだけの話だ。わざわざ敵の原子炉をこじ開ける必要はない。こじ開けても運転停止直後の燃料棒は崩壊熱を放っていて、数年は使えない。福島第一原発の場合だと、事故から10年後で原子炉内の温度がようやく17〜20度である。
結論として、ロシア軍がウクライナの原子力発電所(=原子炉)を破壊する動機はほぼゼロである。むしろ破壊しない理由が多数ある。
むしろ、ロシア軍が採用している「恐怖戦略」に従えば、原発は占領するだけで良い。
「何をするかわからない」という恐怖をウクライナや国際世論に与え「早く降伏した方がいいですよ」と恫喝できる。国際世論をパニックさせ、ウクライナに「停戦したほうがいい」と圧力をかけさせることができる。そんな目論見通り、日本のマスコミはまんまとパニックしている。
●福島第一原発事故の教訓を学ばない日本
私が驚愕するのは、日本のマスコミや自称知識人が、自国でたったの11年前に起きた福島第1原発事故から何も学んでいないことだ。原子炉を破壊あるいは暴走させたらロシア軍兵士まで巻き添えになる。せっかく軍事占領した場所が汚染で使えなくなる。福島第一原発事故の経緯を振り返れば自明ではないか。
相変わらず、テレビに出てくる原子力の「専門家」「学者」の勉強不足もひどい。民放テレビに出ていた学者が「ウクライナの原子炉にも格納容器があるから、攻撃されても簡単には壊れない」と話していた。これは誤解だ。旧ソ連圏にある原発はソ連が建設した黒鉛炉で、日本の軽水炉のような格納容器はない。
旧ソ連圏にある黒鉛炉は、黒鉛(練炭のブロックみたいなもの)を減速材に使う。日本にある軽水炉は水である。軽水炉は減速材の水が漏れないようヤカン型だが、黒鉛炉の構造は火鉢に近い。原子炉と建屋が一体になった構造をしている。軽水炉でいう、原子炉を封入するカプセル状の「格納容器」はない。
なぜ黒鉛炉に格納容器がないのかと言うと、事故を起こした時には炉心に直接水を注ぎ込んで冷却できる構造にしてあるからだ(ゆえに『黒鉛炉は格納容器がないため軽水炉に比較して事故に脆弱』という説は誤謬)。
実は、日本初の商業原発として1966年に運転を開始した東海発電所(茨城県)も黒鉛炉だった。こちらはロシアではなくイギリス製。日本唯一の黒鉛炉だったが、1998年に運転を停止し、廃炉の途中にある。
2022年現在、日本に運転中の黒鉛炉は存在しない。出力が小さいので、時代遅れになった。運転経験のある技術者も高齢化している。将来建設される予定もないので、研究する人もほとんどいない。
なので「原子力工学の教授」をテレビに引っ張り出してきても、黒鉛炉のことは知らない。「ウクライナの原発にも日本のような格納容器があるから大丈夫」とかトンチンカンなことを言う。
●ロシア軍には原発を破壊する動機がない
ウクライナ戦争に話を戻す。ロシア軍の「恐怖戦略」に従うなら、原発を占拠するだけで良い。破壊などする必要がない。
原発を占拠することによるロシアの軍事的利益を箇条書きにしてみた。
①電力供給を遮断して、ウクライナを兵糧攻めにできる。
②原発の核物質をウクライナ側が「ダーティーボム」(放射性物質を通常爆薬で破裂させ、敵軍を被曝させる)に使わないようにする。
③運転員が逃げて原発が暴走しないようにする。
④原発を占拠したという事実だけで恐怖をウクライナと国際世論に与えることができる。
●テレビ塔だけ先にミサイル攻撃したのは恫喝
市街戦が始まる前に、キエフのランドマークであるテレビ塔だけを先にミサイルで攻撃したのも、こうした「恐怖戦略」のひとつと考えると理解しやすい。
テレビ塔はキエフのどこからでも見える。多数がロシア軍の破壊力を目撃する。見る人に示威行為(デモンストレーション)として作用する。「キエフ市民のみなさん。立てこもって抵抗すると、こんなコワイものを撃ち込みますよ。やめときなさい」という恫喝(善意に解釈すれば警告)である。
ウクライナ国民だけでなく、世界の市民がテレビ塔爆発の瞬間を動画でネットで見た。これは国際世論への圧力として作用した。「どんな形でもいいから、こんな残虐な戦争は早く終わらせたほうがいい」と国際世論は考え始める。ロシアには都合がいい。
●非民主主義国は恐怖戦略でも不利はない
ロシアには西欧型民主主義社会のような「言論・報道の自由」がないので、軍が残虐な非戦闘員の殺戮を繰り広げても、プーチンは選挙で失脚しない。ロシア世論の非難もない。国際世論も相手にしないと決めているように見える。つまり非民主主義国は、恐怖戦略を採用しても何も困らない(下の動画は、ほとんどのモスクワ市民がプーチンを支持している様子を見せている)。
ウクライナ戦争に合せて、ロシア議会は「虚偽報道禁止」法案を可決した。海外メディアを含めた報道管制を議会が承認したということだ。こんなことが可能だという事実だけでも、ロシアが西欧型民主主義社会とはかけ離れた社会文化に生きていることがわかる。
プーチン大統領が「核抑止力部隊を厳戒態勢にする命令を下した」などとわざわざテレビで発言するのも、こうした恐怖戦略を採用していることの表れと見るべきだろう。
ウクライナ戦争に投入されているロシア軍は通常戦力である。政権を転覆させればゴールを達成できる。戦闘に核兵器を使う必要は(今のところ)ない。
ここではプーチンが「(しなくてもいいのに)核抑止力の存在に言及した」ことが重要なのだ。欧米(特にアメリカ)に「こっちには核兵器があることをお忘れなく」と「恐怖」を喚起しているわけだ。
「恐怖戦略」を採用する限り、プーチンの発言は「怖い」内容ばかりになるだろう。
●スマホとネット時代の戦争
1990年代のチェチェン戦争の時には、スマホはなく、インターネットも未発達なうえ、西側メディアがほとんど無視した。恐怖戦略は作動せず、抵抗が長引いた。
その意味では、ウクライナ戦争では「ウクライナ市民が誰でも国際世論にニュースを届ける」「スマホを持つ市民は誰でもジャーナリスト」という21世紀の情報環境を、ロシア軍はちゃんと利用している。
スマホとインターネットが組み合わさったグローバルメディア時代に、民主主義国と非民主主義国民が武力衝突すると、恐怖戦略を採用できる非民主主義国に有利に作動する。ロシアはそれを知っている。
その意味ではロシア軍の作戦・戦術、ロシア政府の戦略もスマホ時代の情報環境にアップデートされている。そしてウクライナ国民だけでなく、国際世論も含めた人々の心に心理戦・情報戦を仕掛けている。
1990年代のチェチェン戦争や2008年のグルジア侵攻など、ロシアの武力侵攻は過去にも例がある。ところが、ウクライナ戦争への国際世論の反応は前二者に比べて激越である。それは、戦闘下にいるウクライナ市民がスマホで撮影した動画や写真がインターネットで世界に流れるため、世界の人々が砲弾が飛ぶ戦地にいるような心理になるからだろう。
こうした兵器による破壊力だけでなく、心理・情報戦(他にはサイバー戦や宇宙空間戦)を組み合わせた戦争を「ハイブリッド・ウォー」(Hybrid War=複合戦)と呼ぶ。ロシアだけでなく、アメリカや中国など、21世紀の軍事大国にとってハイブリッド・ウオーは軍事の当然の前提である。
●恐怖戦略はテロリズムと同義
「恐怖戦略」は、別にロシア軍が元祖ではない。
世界のメディアが集まる中で、できるだけ理不尽かつ残虐な暴力・破壊行為をして、国際世論の注目を集める手法は「テロリズム」すなわち「テロ」の基本セオリーである。残虐で理不尽な暴力であればあるほど、マスコミの扱いが大きくなるからだ。
こうした「テロ」が活発になったのは1970年代である。パレスチナ解放戦線、アイルランドのIRA、スペインのバスク解放戦線など、非政府の武装組織が始めた手法だ。
1972年、西ドイツで開催されていたミュンヘン五輪で、パレスチナ人武装組織「黒い9月」にイスラエル選手団が襲撃され、11人が殺害された「ミュンヘン・オリンピック事件」が歴史的に有名だ。
なぜ五輪が狙われたかというと、世界のマスメディアが集まっていたからだ。インターネットのない時代、事件を起こして耳目を集め、世界に自分たちの政治的な主張を知らせて国際世論を動かすには、テレビや新聞記者の取材を受ける以外の方法がなかったのだ。
ことの善悪は別として、ミュンヘン事件は「イスラエルのパレスチナ占領統治」「それに抵抗するパレスチナ人(イスラエル統治下のアラブ人)」という、それまでまったく無名だった「世界の片隅の問題」を世界に知らしめるという政治的なゴールを達した。
●軍事侵攻と政権転覆は超大国の常套手段
ロシアの場合、それを正規軍がやる点が特異である。
それではロシア軍だけが飛び抜けて残虐なのかというと、そうとは言い切れない。アメリカにイラクに軍事侵攻したイラク戦争では、2003年の開戦から8年でイラクの非戦闘員がおよそ11万人死んだ。東日本大震災の死者のおよそ7倍である。8年間毎日37人強が殺された計算になる。
ロシア軍との違いは、米軍がイラクでは恐怖戦略を採用しなかったことだ。そのかわり長期化し死者が増えた。
これは言うまでもない事だが、他の主権国家に軍事侵攻して政権を転覆し、自国に有利な国に変えてしまう政策は、イラク、アブガニスタン、パナマ、グレナダなどむしろアメリカの常套手段である。秘密作戦も含めるとキューバ、チリなど、まだまだ増える。
つまり、ロシアにせよアメリカにせよ、超大国のやる対外政策に本質的な違いはない。アメリカの方が情報発信力(インターネットを含めたマスメディアと、英語という世界言語)があるので、ロシアは国際世論に非難されるが、アメリカはあまり非難されない。その違いがあるだけだ。
●ポピュリズムの申し子・ゼレンスキー
ウクライナのゼレンスキー大統領は、2019年までテレビタレント・コメディアンだった。2015年の連続ドラマ「Servants of the People」(国民のしもべ)で大統領役を演じて人気を集め、本当に大統領に当選してしまった。日本でいえばビートたけしが総理大臣になるようなものだ。
ゼレンスキー大統領は、テレビとポピュリズムが産んだ、新しい情報環境の申し子政治家である。国際世論への発信はTwitterだ。
一方でロシアはその新しい情報環境を恐怖戦略という軍事に利用している。 良い悪いは別として、どちらも「21世紀の戦争」の雛形になるだろう。
しかし、そのポピュリスト政治家としての経歴が、ゼレンスキー大統領の最大の弱点である。
ロシア軍は非戦闘員を殺戮することをためらわない。そんな戦時下にあって、ウクライナ国民が、3年前までテレビタレントだった政治指導者経験ほぼゼロのゼレンスキーをどこまで「救国の指導者」として信頼するのか、私は予想がつかない。
もちろん、開戦後しばらくはウクライナ国民はゼレンスキーを熱狂的に支持するだろう。外敵がいるときほど、国民は団結するのが常だからだ。まして戦争となればなおさらである。
しかし、戦争が長期化、あるいは犠牲が増えてウクライナ国民に厭戦が出てくると話は変わる。そこでロシア側がゼレンスキーの退陣を停戦の条件にしたら、どうなるのか。案外あっけなくウクライナ国民は「それでいいです」と妥協し、ゼレンスキー政権は崩壊するかもしれない。
●戦争終結に国の「降伏」は必ずしも必要ではない
国際法上の「降伏」は、交戦当事者の一方が攻撃をやめ、武器を相手側の管理に委ねることを指す。
国が「降伏」することは、戦争の終結に必ずしも必要ではない。ましてロシア側は、ウクライナの「無条件降伏」までは要求していない(今のところ、だが)。前回本欄で書いたとおり、ウクライナの「非武装化」「中立化」がプーチンの達成したいゴールだ。
ゼレンスキー大統領が退陣して西側に亡命でもすれば(ロシア軍に補足されると戦争犯罪人として訴追されるかもしれない)親ロシア政権が樹立されるだろう。その上で新しいウクライナ政府がロシアと「停戦」して「平和条約」を締結する。すると戦争は終わる。
NATO加盟などロシアが「敵対的」と考える政策をウクライナ新政権(またはゼレンスキー政権のまま)がやめるなら、ロシアは目的を達するので、戦争を続ける理由がなくなる。
第2のシナリオとして、ウクライナを東西に分割して占領、国土を東西にわけるドニエプル川の東を独立させる「ウクライナ分割」もありうる。
これは「隣国の不安定化によって、国境をはさんだ強国・敵国の出現を防ぐ」(例:朝鮮半島、国共内戦時代の中国、東西ドイツなど)というロシアの伝統的な地政学的利益を満たすので、プーチンにとってはゴール達成である。その場合は、ドニエプル川西側のキエフ占領やゼレンスキーの排除をする必要がなくなる。
2022年3月6日現在、ロシア軍の進軍はウクライナ東側により深く、広い。
●同族文化の国を殺戮破壊する戦争
私はロシア語を理解できないので気づかなかったのだが、堪能に理解する友人に聞いてみたら、マスコミに戦争の惨状を話すウクライナ人のほとんど全員がロシア語で話しているそうだ。
ウクライナ語が出てくるのは、ゼレンスキー政権の声明のような「ウクライナ政府公式」の場面だけなのだという。ゼレンスキー自身、原稿を読むときはウクライナ語、それ以外はロシア語で話している(ウクライナ政府は公用語にロシア語を禁止)。
もともと、ウクライナは1991年のソ連崩壊で「国」になった。それまではソ連の「地方」にすぎなかった。ということはウクライナの「国」としてのナショナル・アイデンティティはまだ30年少々という若さである。
人種的にはもちろん、ロシアとウクライナは文化的にも僅差である。プーチン大統領が停戦交渉の後で「我々が同じ民族であることを確認した」と発言したくらいだ。
いやむしろ、キエフはロシア民族のふるさとですらある。ここで西暦988年に「キエフ大公国」がキリスト教を国教にしたことが、ロシア民族がキリスト教世界=欧州に入った最初である。いわゆる「東方正教会」だ。
ロシア民族のアイデンティティとして今日まで続くロシア正教・ウクライナ正教はこの時に始まった。この「宗教」は、カトリック・プロテスタント世界である「西欧」と「ロシア」を分ける重要な文化的差異だ。
日本語でいう「キエフ大公国」は古東スラブ語で「ルーシ」(英語ではKievan Rus')と言う。実はこれが「ロシア」という名称のルーツである。
その長い歴史と文化・宗教を共有する同族の国に対して、ロシア軍が恐怖戦略を発動する。末端の兵士にとっては「自分や家族とほぼ同じ人々」を殺戮し「自分の故郷とほぼ同じ街」を破壊することになる。これは、民族や宗教がまったく異なる場所にロシアが侵攻した「チェチェン戦争」や「グルジア戦争」とはまったく異なる環境である。
(2022年3月6日 0:55 東京にて)