所在等不明共有者持分取得制度で持分移転⁈|登記・相続・供託
隣接する土地が欲しいけど、土地の所有が二人の共有になっていて、その内ひとりの共有者の行方が分からない…。
これは、2023年4月から始まった「所在等不明共有者持分取得制度」を利用して持分を移転しようとしたところ、別の方法で自分ひとりで供託金なしで持分を移転することができた実際の話です(すでにややこしい)。
1|状況
隣接する土地(以下、隣接地という)を取得したく、登記を調べたところ、AさんとBさん、2人の共有(持分1/2ずつ)であることがわかりました。
Aさん宅を訪れ、話をすると、使用してない土地で管理も大変ということから、快く、Aさんの土地の持分を売っても良いと言ってくれました。
一方、Bさんは登記上遠方にいる方で、訪れることができず、手紙を出しましたが届かずに返送されてしまいます。AさんにBさんのことを聞くと、Bさんは姉妹だけど、もう何十年も連絡を取っておらず、音信不通とのこと。
つまりBさんは「所在等不明共有者」ということになります。
通常、隣接地を購入するには、AさんとBさんに土地の売買契約や登記手続きに協力してもらう必要があるので、このままでは土地を取得することができません。
2|所在等不明共有者持分取得制度
① 制度の概要
この制度は、共有状態にある土地や建物といった不動産について、共有者が、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合に、裁判所に対し、当該所在等不明共有者の持分を申立人に取得させる旨の裁判を求める手続のことです。
裁判所から当該所在等不明共有者の持分を申立人に取得させる旨の判決が出れば、その謄本の写しを添付資料として、所有権移転登記を単独ですることができます。
今回のケースで言えば、Aさんが、Bさんの持分をAさんに単独で所有権移転登記することが可能(登記識別情報通知や土地の権利書がなくても)です。
隣接地を取得するには、この制度をうまく利用することが必要です。
② 申立の流れ
申立の流れについては、自分で行う場合の話をさせていただきます。
申立書の作成は早くとも1~2か月かかると思います。不動産鑑定士に土地の鑑定を依頼したり、共有者の探索等に関する報告書を作成したりと、報告書よりも添付資料の方が用意するのに時間がかかると思います。そして、費用も発生するので、少なくとも高額な不動産鑑定を行う前に一度裁判所に申立の相談をしてみるのが良いと思います。
申立が認められれば、予納金を裁判所に納め、官報に「所在等不明共有者の持分の取得の裁判に関する異議の催告」という題名で掲載されます。内容を要約すると「Bさんの持分をAさんに取得させるので、異議があれば、〇月〇日までに申し出てください」というものです。掲載から3か月以上の期間を設定しなくてはならないので、裁判所の掲載準備などを含めて4か月はかかることになります。
ここで異議がなければ(基本的に出ない)、裁判所から供託金の決定通知が来るので、指定された方法でその金額を供託所に納めます。あらかじめ裁判所は道筋を立てているので、異議がなければ決定通知は数週間で送られてくるはずです。
供託金を納めれば、数週間で裁判所から決定謄本(「申立人は、別紙物件目録記載の不動産の共有持分を取得する。」というような内容)が送られてくるので、それを用いて登記を行います。
この決定謄本があれば、所在等不明者(この場合Bさん)の印鑑等は一切いらないので、自分だけで移転登記ができます。一般的には司法書士に頼みますが、5万円~かかるので、ネットで調べながら自分でやるのがおすすめ(私はお金がないため)です。提出前に法務局の相談窓口を予約し、一度見てもらった方が良いと思います。2023年4月から始まった制度ですが、申立件数はまだそこまで多くないので、実際に取り扱うのが法務局によっては初めての場合もあるからです。
これが一連の流れですが、最短でも8か月はかかるものだと思っておいた方が良いと思います(長いと思いませんか…)。
③ 申立人
申立人は、対象となる共有不動産について持分を有する共有者(民法262条の2第1項)です。今回のケースでは、私ではなく、Aさんとなります。
私が申立できないため、AさんにBさんの持分を取得してもらい、Aさんが完全な土地の所有者になったところで、Aさんから土地を購入することを目指します。
④ 供託金
申立人は、同手続の中で裁判所が所在等不明共有者の持分の時価相当額を考慮して定める金額を供託することになり、所在等不明共有者は、その供託された金額の還付を請求することができるため、申立人は、持分価格に関する資料の提出と供託書原本の保管が必要となります。
例えば、隣接地を不動産鑑定したら200万円だったとします。この場合、AさんとBさんは持分が2分の1ずつなので、Bさんの持分の価値は100万円ということになります。Bさんの土地の持分をAさんに渡すということは、Bさんの100万円をAさんに強制的に渡すということと同じなので、いくらBさんの所在が不明だからと言って、それはBさんにとって酷ということになります。
そこで、BさんのためにAさんが100万円を供託(裁判所が決定した金額を法務局等へ提出)し、Bさんが現れた時に、Bさんはこの100万円を還付請求して手に入れることができるので、これで見た目は差引ゼロということになります。Bさんが100万円という金額に不服があれば争うこともできるので、Aさんは隣接地の価値が200万円だったという根拠資料を保管し続けることになります。
結局、この条件が後々隣接地を取得するにあたり、私の首を絞めることとなります。
⑤ 申立時期
所在等不明共有者の持分が共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に属する場合には、相続開始から10年以上経過していることが必要です(民法262条の2第3項)。
隣接地は、AさんとBさんが姉妹で、親から相続したのでこの状態に当たります。Aさんの話や、登記を見る限り10年は軽く経過しているので、申請はできるということになります。
⑥ 申立にかかる費用
申立にかかる費用については、主に次のとおりとなります。
・申立手数料(印紙)|1,000円×申立ての対象となる持分の数×申立人の数
・郵便切手|6,000円(共有者等が1名増えるごとに+2,178円)
・予納金(官報公告費用等)|7,134円~
・不動産鑑定書(簡易)|10万円~
・固定資産税評価証明書|300円
・登記事項証明書|600円
・弁護士費用|15万~(自分でやることも可)
・登記費用(司法書士等)|5万~(自分でやることも可)
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・供託金|不明共有者持分の土地の評価額
弁護士費用、不動産鑑定費用、その他もろもろで、最低でも35万円ほどかかるイメージでしょうか。そこに供託金として、その土地の価格の不明共有者持分分の費用がかかるので、土地の評価額が高ければ、その分供託金も高くなります。この供託金は返ってきませんので、申立人にとっては土地の評価額は低い方がありがたいということになります。
3|所在等不明共有者持分取得決定申立方法
弁護士に依頼する場合はすべてやってくれるので問題ありませんが、この申立はひとりで行うこともできますので、方法を簡単に記載します。
① 申立書
申立ては、「申立書」を作成し、管轄裁判所へ提出することで行います。この申立書は、下記の最高裁判所のホームページに様式があります。
この様式に必要事項を入力し、印紙を貼り、必要な添付資料を用意し、管轄裁判所に提出します。
様式に出てくる「所有者・共有者の探索等に関する報告書」や、各種目録など、以前掲載した下記の記事に共通する部分が多々ありますので、よろしければ参考にしてください。
申立をすれば、2-②申立の流れのとおり進んで行くので、裁判所の指示に従って手続きを進めます。
② 登記は誰がするのか
ここで注意したいのが、登記についてです。
弁護士に依頼する場合は、登記の費用まで入っているか確認した方が良いと思います。私は弁護士に依頼したわけではないですが、他の申立を通して弁護士と何人かやり取りをしましたが、皆さん登記は繋がりのある司法書士に依頼しています。総合的な事務所ならわかりませんが、自分ではやらないです。
例えば、この制度の申立を弁護士に依頼して、報酬は15万円+実費と言われたら、登記費用はどちらに入っているのか、そもそも裁判所から決定をもらうまでで、登記は自分で司法書士に依頼することを前提にしているのか、はっきりしておいた方が後々トラブルになりません。
私みたいに素人が弁護士に「登記は別ですよ(笑)」と後になって常識のように言われたら、そういうものなのかと思うしかないと思います。
4|他の方法の検討
① Aさんの拒否
前述したとおり、所在等不明共有者持分取得決定申立の申立人は、共有者であるAさんです。Aさんに費用等はすべて負担するので、申立に協力してほしいと伝えると、断られてしまいました。
理由は、Bさんとの間に遺恨があるからというものでした。相続をきっかけに姉妹の溝が深まり、修復が不可能で、疎遠になってしまったのもそれが原因とのことなのです。
つまり、Aさん発信でこの申立を行うと、Bさんが現れた時に「なぜ勝手にそんなことをしたのか!」と新たな争いの火種となる可能性があり、その不安を持ったまま生活していくことはできないとのことなのです。
Aさんの気持ち、とてもよくわかります…。
供託金はBさんに還付されますが、例えばBさんが現れ、それを「安すぎる!」と言った場合、法廷闘争まで行く可能性があります。
Aさんは土地を売ってくれる気満々でしたが、「この申立てをしないといけないなら話は別です。売れません。」このように言われてしまいました。
② 他の方法の発見
私の他の記事を読んでいただいた方ならわかると思いますが、大体こんなものです。すんなりうまくいくことはまずありません。
ある意味この段階で断られて良かったです。下手に先走って不動産鑑定などをしていたらその費用が水の泡になるところでした。
Bさんの行方が分かればいいのですが、遠方のため調査する時間もお金もなく、弁護士に調査を依頼するにもお金がなく(結局お金がない)、方法が見つけられず、途方に暮れていました。
そんな時、突如としてあるアイデアが浮かんできました。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!
結論から言いますと、「所在等不明共有者持分取得制度」とは別の方法で、Bさんの持分をAさんに移転すことができました!
弁護士に依頼はせず、不動産鑑定も行わず、最終的にかかった費用は約18万円でした。更に、この方法は供託金(土地代)が発生しないので、Bさんの持分をAさんに所有権移転登記するまで込みでの、約18万円でした。
正直、関門はいくつかあり、最大の関門はAさんにこの方法で納得してもらえるかというところでしたが、なぜかそこはあっさり了承を得られました(Aさんの考え方が鍵)。
ここからは有料記事とさせていただきますが、その分、実際の資料を基に詳細に説明していきたいと思いますので、ご興味のある方は購読をお願いいたします!
なお、後出しじゃんけんになっては申し訳ないので先にお伝えするのですが、これ以降の記事で、以前掲載した下記の記事(有料部分)の内容を参照することが多々ありますので、よろしければそちらの購読もお願いします。
③ 他の方法とは
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