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【小説】店主の嫁のひとりごと
窓の外にあるヤマボウシの木から早くも茶色く色づいた葉が落ちて、アスファルトの上をかさかさと転がっていく。
猛暑が続くと落葉が早まるとラジオで言っていた気がするけれど、まだ10月になったばかりでこの光景をみると、頷くしかない。
そんな日の午後、小屋のドアが開きカランカランと鐘が鳴った。
「あ、いらっしゃ〜い」
「どうも〜」
入ってきたのは、私と同世代の男性だ。
私たち夫婦がこっちに引っ越してきてすぐに知り合ったから、この店を始める前からの旦那の友人、ということになる。
「はいこれ、差し入れのチョコレート。秋の限定商品だって。……恵(けい)さんはまだ休憩時間?」
彼は来る時、こうして必ず差し入れを持ってきてくれる。この店がオープンする前からずっと。
「ありがと〜。うん、もう少しで戻ると思うよ。先に一杯どうです?」
旦那が始めたこのお店『COFFEE-K』ではコーヒー豆の販売をしていて、旦那の恵さんが焙煎メイン、私が接客メインというスタイル。
来店したお客様はその日のラインナップから選んで試飲できるようにしているから、販売店にしては一人当たりの滞在時間は長め。
だから複数のお客様が同時にいるとお喋りが始まって、ちょっとした社交場みたいになるときもある。
「そうだねぇ……、じゃあ、ニカラグア、いいかな?」
「は〜い、ちょっとお待ちくださいね〜」
コーヒー豆を挽いて丁寧にドリップしていくと、小さな小屋の中はコーヒーの香りに包まれていく。
「修(しゅう)さん、最近は調子いかがですか?」
「ん〜〜、まぁ、ぼちぼちかな?いつも通りさ」
修さんはお母様に似て身体が丈夫ではないのだそう。なのでお母様を気遣いつつ、実家で出来る仕事をしているとのこと。
結婚して助け合ってくれる人がいればいいのにねと言ったこともあるけど、介護のために結婚してくれる人なんぞおらんわと返されたことがある。
そんなことない、咄嗟にそう言おうとしてそれはあまりに無責任だと反省した。良い相手がいるのならもう既にそうなっているだろうから。
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