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高校現代文教材論③「『ふと』と『思わず』」多和田葉子(高1・国語総合)

対象学年:高校1年生

使用教材:評論(随筆)「『ふと』と『思わず』」多和田葉子

使用教科書:明治書院 「新 精選 国語総合 〔現代文編〕」

①現代文における「言語」への意識づけ

明治書院では、高校入門教材として位置付けられているこの教材。作者は、小説家として著名な多和田葉子さん。日本語と独逸語という二つの言語を学んだからこそ分かるまなざしと表現は、読みごたえがある。もう少し詳しく言うと、日本語で普段行われないような描写を日本語で行うことで得られる効果を感じさせられる。是非一度読んでみて下さい。

「水の東西」で文化論、そして「『ふと』と『思わず』」で言語論を学ぶこと。分かりやすいという理由だけでなく、実は大きな枠での「現代文」を方向付けるものとして設定されていると思います。読みやすいし分かりやすい入門教材。確かにそうなんですが、この2つには高校現代文、ひいては評論という分野の礎となる部分を秘めていると感じるのです。

日本で書かれた評論における根底は、まぎれもなく「日本」という国の考え方。分かりやすい構造としての比較文化、そして用いられる言語。この観点を意識すれば、評論というものがどのような目的で書かれたのかが分かります。一見、難しいと思われる評論にも、実は通ずる思想があるんだなと。

②日常との接続

「ふと」も「思わず」も、私たちが普段何気なく用いている言葉です。そこに何か意味を見出すことに意味があるとは思っていません。日常において、現代文、ひいては言語は同じ言葉が通じる者同士のツールとしての側面が強いためです。毎日日本語を使って会話する中で、「ふと」とか「思わず」の意味なんか考えませんよね?それを敢えて考えてみる。そうすると、面白いことに気付く。

現代文を「難しい」と生徒が感じてしまうのは、自分たちが生きる現実の世界をかけ離れているという思いがあるからです。内容について、普段考えることがない。だから意味がない。そうやって苦手意識が育ってしう・・・。

そんなのつまらない!自分が知っていることだからこそ、知らないかった世界を知る喜びを感じさせたい。「ふと」と「思わず」という言葉がもたらす効果を説明すると、生徒は「なるほど」「考えたことなかった」と言います。日常の中で感じる「ふと」「思わず」に含まれる意味を考える。すると、日本語の用いている私たちとその行動が言語によって規定されていることが分かる。

③日本語→日本への発展

日本に暮らし、日本語を使う日常において、客観的に自分たちを眺めることは非常に難しい。例えば、コロナ禍の報道。ガラパゴスとまでは言いませんが、他国と比べて特異なやり方であることは疑いようもない。そこに気付くヒントになり得る。自分たちはどういう考え方を根底に生活しているのか。大切な視点だと思います。教科として現代文が設定されていることの意味をしっかりと考えていきたい。独逸語との比較によって、日本語の特性が明らかになる。私たちがどのような考え方をしているのか、外から把握できる。「穴あきチーズ」と言う比喩はまさしくその通りです。さらに言えば、私たちのチーズはどのような味か。考えさせるきっかけになります。

高3で扱う「猫は後悔するか」の中で説明されますが、私たちの世界は言語によって分断され、認識されています。では、どのような分断か。その違いが「穴あきチーズ」であり、特徴がチーズの味です。

日本語というチーズの味はどんな味か。独逸語との比較によって自身の生活をもっとよく知ることが出来るのです。

多和田さんは、小説を書く立場からこの論を展開します。まさしく、日本語を生活の中心としている職業である小説家の言葉であることを説明すると、生徒の反応は大きく変わります。

特に、「ふと」の効果については、まさしく日本語としての「ふと」の意味を実感しやすい。何気ない日常→日本人としての日常というメタ化が可能になるのです。国際化が進む社会において、自身の立ち位置を知ることで世界は拡がる。そして、この視点が将来に繋がると信じています。

④メモ

短いですが、言語論としての教えがいはとても高く、生徒たちが実感をもって日本語の特徴を感じることが出来る教材だと思っています。「ふと」「思わず」という二つの言葉は、普段全く意識しない日本語です。しかし、小説表現として考えると、この言葉を実感する。不思議な気持ちを体験させてくれるのです。この体験は、現代文でないと恐らく感じることが出来ない。しかも高校でないと。豊かな言葉。と言う表現が正しいのかは分かりませんが、豊かな言葉を持っていると、人間は豊かな生活を送ることができるのはないでしょうか。

本文終了後、まずはカフカ「変身」(ドリヤス工場)と多和田葉子さん「カタコトのうわごと」で引用と論の補強を行った後、今回は、発展としてFormsでの共有・プレゼン(発表)を基にしたテーマ「日本語の特徴について、他言語との比較を行う」を実践しました。まず、形式についての説明。

①各自がFormsに「日本語の特徴」と「具体例・根拠」を入力

②教員が集約し、クラスチームで共有。

③各自が自身の意見をプレゼン。

意図と方法を説明し、いざ実践してみると生徒の呑み込みの早いこと!

生徒からの指摘。一人称の多さ、主語や述語の未使用、曖昧表現、へりくだり表現、身分の意識、SOV問題、などなど。興味深い意見がたくさん。

与えることで、生徒が大きく成長する姿を目の当たりにしました。ICT機器の利用にも役立ち、効率よく話し合い活動を行うことも出来ました。コロナ禍にあって、移動や対面が制限される世界にあって教育を進めること。方法はもちろんのことですが、テーマとして現代文に求められることを改めて実感した。ただやらされるのではなく、自分たちで考えて学んでいけるような仕組みを構築したいです。次はパワーポイントに挑戦。

個人的には日本語の特徴について。ネイティブの先生と日本語の特徴について話したら「お疲れ様って便利だよね。」って言われました。うーん確かに。いつでも使えるし。しかし、英語にこのような意味の言葉はないらしい。曖昧表現でお茶を濁しているところもあるけど、相手を気遣うのが日本語の特性かな。



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