見出し画像

人を寄せないような深い森の中で

森の奥深くある建物。人を寄せないような深い森の中で、夜な夜な煌めく灯が灯るその建物では、行われているのか、誰も知らない。 、人の気配は感じないが、明りは灯る。 もののけの集まる建物と噂されるが、中に入ってみようと思うものは誰もいなかった。

森の奥にひっそりと佇むその建物は、昔から「もののけの館」として知られていた。村人たちは誰一人として近づかず、忌み地として語り継がれてきた。しかし、なぜ明かりが灯り続けているのか、誰もその理由を知る者はいなかった。建物は、道が途絶えた先、獣道をさらに進んだ場所にあり、車も馬車も通れない。たどり着けるのは、ただ徒歩だけだ。だが、噂では森に迷い込んだ者が時折その明かりに引き寄せられるという。

建物に入る者はいない。なぜなら、そこに何かが潜んでいると皆が信じていたからだ。それは人ならざる者たちの住処。もののけたちは夜な夜なその館に集まり、人知れず何かをしている。外から見ればただ静かに立っているだけだが、扉の向こうでは人の理解を超えた何かが動いているのだと。

ある夜、ひとりの若者が道に迷い、偶然その建物を目にした。昼間から彷徨い続け、日が沈む頃にはすっかり途方に暮れていた彼にとって、その明かりは救いの光のように思えた。疲れ切った彼は恐怖を押し殺し、ゆっくりと建物へと足を進めた。遠くで聞いた村の噂が頭をよぎるが、疲労と寒さで思考は鈍っていた。

建物に近づくにつれ、彼は違和感を感じ始めた。森は静まり返り、風も止み、ただ明かりだけが明瞭に建物を照らし出している。鳥や虫の声すら聞こえず、まるで時間が止まってしまったかのようだ。何度も足を止め、引き返そうかと思ったが、戻る道も見当たらず、結局は建物の玄関までたどり着いた。

目の前にそびえる扉は、重厚で古めかしく、まるで長い年月をそのまま閉じ込めているかのようだった。だが奇妙なことに、その扉には鍵がかかっておらず、ほんの少しだけ開いていた。微かに中から漏れ出る光と、何かが動いている気配に彼の心はざわつく。冷たい汗が背中を伝い、息を飲んだ。

「入るべきか…?」

彼は考えた。しかし、もう引き返すことはできない。背後の森はまるで口を閉ざし、再び彼を迎え入れることを拒んでいるかのように感じた。彼は心を決め、静かに扉を押し開けた。

中に広がっていたのは、まるで別世界だった。広間の中央には古びた長いテーブルがあり、その周りには無数の影が、彼に気づくことなく動き回っていた。人のような形をしているが、顔は影に覆われ、まるで実体がないかのようにぼんやりとしていた。彼は息を呑み、足が震えるのを感じた。

そして、影たちの中に、ひときわ強い存在感を放つものが立っていた。それは明確に彼を見つめていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?