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廃墟の町に

廃墟の町に一人の女性がいた。冷めた目は、人なのかそれ以外のものなのか・・・その女性が言った。「ここは人間が来るところではない。すぐに戻れ。興味本位で進むな、来るな。進めば二度と戻れない。ここは過酷な本能と煩悩の怪物があふれているところ」。

その女性の警告に耳を傾けるかどうか、主人公は一瞬、迷った。しかし、彼の心の中には何かが引っかかっていた。まるでその廃墟の町が、何かを語りかけているかのように感じたのだ。

彼は一歩を踏み出した。その瞬間、冷たい風が吹きつけ、周囲の空気が重く淀んだ。女性の姿はかき消されるように霧の中へと消えていくが、その目だけが暗闇の中で彼をじっと見つめているような気がした。

進むにつれて、廃墟の町は生気を失った無数の建物が並ぶだけではなく、何か生々しい存在感を帯びているように思えた。壁に刻まれた不気味な模様、道端に散らばる見覚えのない道具、そしてどこからともなく聞こえる低い囁き声。彼は自分の好奇心が、あまりに危険なものに触れ始めていることを感じずにはいられなかった。

突然、道の先から大きな影が動いた。彼は足を止め、息を潜めてその影を見つめた。それは人の形をしているが、異様に大きく、そして不自然な動きでこちらに近づいてくる。その影の正体を確かめようと、彼は意を決して近づこうとしたその時、耳元で先ほどの女性の声が響いた。

「進むな、戻れ。ここは、まだ人間の領域ではない。」

彼の心臓は激しく鼓動し、体が凍りついた。しかし、その警告を振り払うかのように、彼はさらに一歩を踏み出した。そしてその瞬間、周囲の景色がぐにゃりと歪み、現実が崩壊するような感覚に襲われた。

彼が目を開けると、そこはもう廃墟の町ではなかった。暗闇に包まれた広大な荒野、空には異形の月が二つ浮かび、不気味な光を放っている。その荒野には、巨大な怪物たちが闊歩していた。彼らは人の形をしていながらも、明らかに人間ではない、獣のような姿をしていた。

「過酷な本能と煩悩の怪物」とは、まさにこのことだったのだ。

彼は恐怖に震えながらも、再び元の世界に戻れる方法を探すため、足を踏み出す。だがその時、彼の背後から何かが忍び寄ってくる気配を感じた。振り返ると、そこにはあの冷めた目の女性が立っていた。

「もう遅い。あなたは選んでしまった。進むしかない。」

彼女の言葉は冷たく響き、彼の運命が決定的になったことを告げていた。廃墟の町に一歩踏み入れた瞬間から、彼の帰り道はすでに閉ざされていたのだ。

彼は息をのむような恐怖と絶望の中で、荒野に潜む怪物たちと向き合うしかなかった。果たして彼は、この異形の世界から生還できるのだろうか。それとも、永遠に迷い込んでしまうのか――。

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