コンセプトアーティストとは②
こちらの続きから。
プロジェクト内での、アートの関わり方と工程毎に制作するアートの種類について。まずは大きくコンセプトアートとプロダクションアートの2つに大別されます。
コンセプトアートについて
コンセプトアートは開発初期段階(プリプロフェーズ)で制作されるアート全般の事を指します。代表的なものに、企画提案時に使用される作品の世界観を一枚で表現するキーヴィジュアル(KV)やイメージボード、他にアイデアスケッチ/ピッチコンセプトやストーリーボードなどがあります。
映画作品での、主要カットのシーンコンセプト(スタイルフレーム)やカラーキーなども、大きい枠組みとしてコンセプトアートの一部と考えて良いかと思います。
一般的に、コンセプトアートという言葉から連想されるような壮大な一枚絵のアートは作品のキーヴィジュアル、イメージボード(世界観・背景コンセプト)に位置づけられるものになります。
ここで求められるのは、一枚絵としての精度や描き込み、絵の巧さよりもまずはアイデアとしての面白さや、デザイン性(アイデアが落とし込まれているか)と映像作品であれば作品ヴィジュアルの方向性やトーンなど、ヴィジュアル面での作品価値の最大化を図る役割が求められます。作品のKVであれば、一目でこの作品を観たい!世界観に入って遊んでみたい!と思わせるものになっているかが、ここでは重要になります。
コンセプトアートサンプル【KILLTUBE】より
このフェーズでは監督やプロデューサー、アートディレクター含め、各セクション間、チーム内でのアイデアの受け渡しやコミュニケーション、イメージの共有が優先されるので、場合によっては参考用の写真資料を取りまとめたものや、上記スケッチよりも、更にもっと荒い殴り書きのようなものまで様々な方法が取られます。
学生の方でも、最近ではblederなど3dツールを使うケースもありますが、複雑な都市群や母艦など、よほど込み入った機構でない限りはアイデア出しのフェーズでは個人的には3dツールの使用は推奨はしていません。紙とえんぴつ(ペンタブ)のインタラクションによるアイデアの想起もあり、その微細な感覚や偶発性によって新しいイメージが作られる事(ハッピーアクシデント)も少なくないので、スピードもそうですが、その感覚が研ぎ澄まされるハンドドローイングに勝るものはないと考えています。このあたりもいずれ詳しく。
ここでは1枚の絵に対して、じっくり時間をかけて完成させるよりも、同じ時間でもまずは荒くても10枚、20枚とアイデア毎に絵を起こすスピードと提案力(デザインバリエーション)が求められます。
元々コンセプトアーティストはビジュアルデベロップメントーアーティストとして呼ばれており、不思議の国のアリスやイッツァスモールワールドのデザインを手がけた事で有名なメアリーブレアが、元祖と言われています。(ブレードランナーやトロンで有名なシド・ミードも同時期)
20世紀中盤以降から、映画、アニメーション産業が発展し大規模なチーム開発の中で、監督や美術チームの中で共通ヴィジョンとアイデアをイラストやスケッチで表現する役割として、コンセプトアーティストというポジションが徐々に確立されていきます。
ヴィジュアルガイドラインの重要性
90年代後半から2000年代にはいると、ゲーム業界が発展していき映像面でも高度なグラフィック表現によって、IP毎に独自の世界観表現と緻密な描画が出来るようになりました。近年のオープンワールドゲームを始め、膨大な数のキャラクターや背景エリア、アセットからイベントシーンを扱えるようになった事で、デザイン制作物が大量に必要になり、コンセプトアート含めたデザイン領域に関してもセクション毎に専門化してきています。(背景コンセプトアーティスト、プロップデザイナー、キャラクターデザイナー、メカデザイナー、エフェクト・UIデザイナー…etc)
プロダクションアートについて
プロダクションアートは開発後期(ポスプロフェーズ)で制作されるアート全般の事で、デザイン設計図やキャラクター3面図、最終的に3Dに落とし込み、再現するデザイン物の事を指します。
このフェーズでは1枚の絵に対してじっくり丁寧に時間をかけて向き合います。背景アートだと1週間~1か月、ものによっては数か月以上かけるものもあります。(主要キャラクターデザインやPUB用アート)
競合タイトルとの差別化を図り、デザインを詳細に落とし込む為の画力やイラストレーションスキル、横断的な知識と正確な技術。特にハイエンド開発系プロジェクトでは3Dオペレーションスキルや使用するエンジンやモデリング工程にかかる作業負担などを考慮したデザインに仕上げていくスキルが求められます。
プロダクションアートサンプル【KILLTUBE】より
プロダクションフェーズでは表面的なデザインだけではなく、内外観の整合性のとれた構造デザインであったり(演出上、人物配置等で必要になる)、映像やゲーム内の演出でその機構がどのように変形していくかを説明する、機構・機能デザインや背景に置かれた装置がどのような仕掛けで起動するのかといった、インタラクションデザインが求められます。また更にストーリーテリングを含めた総合的な視点で検討デザインしていく必要があり、ここはなかなか生成系AIでは代替しづらい領域でもあるかと考えています。
まとめ
業界や働く国や地域、プロジェクト状況や予算にもより、一概に言えませんが、特に日本におけるコンセプトアーティストに求められる役割としては、細かくロール毎に専門化されている海外と比べると、ヴィジュアル全般に係る事が多く(アートディクター不在のプロジェクトなど)またゲームでは更にデザイン物が多岐に渡る為、よりジャンル毎に必要な知識や情報を獲得する能力が必要になってきます。あるフェーズではリサーチャーやプロダクションデザイナーとしてのスキルが求められ、あるフェーズではプランナーやファッションデザイナーとして、あるフェーズでは3dデザイナー、ライティングアーティスト、マットペイント、コンポジターと複合的なスキルを組み合わせながらプロジェクトをヴィジュアル面で伴走サポートしていく役割を担います。陸上競技でいうと、総合点で積み上げていく10種競技選手に近い職種であるとよくセミナーでは伝えています。
コンセプトアーティストとして、ただ一つの事を極めるというのは難しいかもしれないですが、個人的には世界観を創り上げる、唯一無二の楽しさのある職業でもあると思うので、学生の方にも是非目指してほしいです!
次回、アートの種類についてもう少し解説してみます。