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ばあちゃんと、しゃんしゃんしゃいだー。
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夏が来た。
サイダーがほしいと、からだが、いう。
しゅわしゅわしたいと、こころが、いう。
そんなとき、決まって思い出すのが、
ばあちゃんのことだ。
きょうは、ばあちゃんのはなしをしようか。
ばあちゃんと、サイダー。のはなし。
ほら、
あなたのこころもしゅわしゅわして来たでしょ?
そんなしゅわしゅわなはなしをしよう。
そんなわけで、はじまり、はじまり。
ばあちゃんは、わたしの育ての親だ。
わたしが十五のとき亡くなった。
その顛末について語るのは、別の機会にゆずる。
きょうは、ばあちゃんとサイダーのはなし。
ばあちゃんのことをすこし紹介しておく。
大正生まれのばあちゃんは女学校を卒業した才女だったらしい。若い頃のことは、良く知らない。
その後、農家の嫁になって、三女二男を生み、育てた。そのこどものひとりが、わたしの父親になる。人ひとり分の短くない人生が、確かにあったわけだ。
だけど、わたしが知っているばあちゃんは初めからばあちゃんのままだった。いつも静かで、よく働くひと。文句も言わず、怒ることもない。不都合に見舞われても黙って耐える。そんなひと。その頃の農家の嫁は、みんなそうだったのかも知れない。
ばあちゃんは、ふやふやふやと笑う人だった。
ばあちゃんが笑うと、顔がしわだらけになった。
もう、ほんと、しわしわのしわっしわ。
それでいて歯も半分くらいなくてばらばらしていたから、笑う度に口元のすかすかした空間が目立った。
虫歯があるのに歯医者にはいかない。だからか、笑うとすえた匂いが鼻をつく。そこに仁丹の匂いが混ざると、ばあちゃんの匂いになった。
こういう表現が合っているのかどうかわからないけど、ばあちゃんの笑顔は、すごくチャーミングだった。
よく女子校生とかが、ばあちゃんと呼ばれるひとたちのことを一括して「かわいい」とかゆうけど、子どもながらに「ばあちゃんの笑顔はかわいいな」、そう思っていた。
ばあちゃんには好物があった。
あんころ餅、かぼちゃの煮物、ふきのとう、水羊羹と煎茶、うめぼしに梅酒。
あとは、ちょっと、忘れた。ごめんね、ばあちゃん。
特に、あんこには目がなかった。
口にはしないけど、あんこを食べているときのばあちゃんはほっぺたが落ちそうな顔をした。それはそれは、しあわせそうな顔をした。
ばあちゃんが好きなものは、大抵、わたしも好きだったから、隣で見ていると、わたしまでつられてほっぺたが落ちそうになった。
そんなばあちゃんには苦手なものもあった。
サイダーだ。
歯のないばあちゃんが言うと、
「しゃんしゃんしゃいだー」になる炭酸サイダー。
試しに飲ませる。
ばあちゃんは、きゅるるると口をすぼめる。
次の瞬間、ぺっぺっぺっぺっとつばきとともに舌を出す。
そしてぎゅうと目をつぶった後、しばらくシパシパさせてから言う。
「おらぁ、こんなもん、嫌ぇだ」
「へえ、飲まん」
『こんなもんじゃわからんし』
と意地悪く聞くと、
「しゃんしゃんしゃいだー」
と答えるばあちゃん。
それが、こどものわたしには、可笑しくて可笑しくて、何かと理由をつけて、ばあちゃんにサイダーを飲ませようとしたことを覚えている。
サイダーが苦手な人もいるのだ。
いまでこそ、発達障害や感覚過敏やHSPが市民権を得て、ひろく認知されるようになったけど、昔からそうだったわけじゃない。
だから、三ツ矢サイダーを作ってる人にお願いしたいことがある。
どうか、覚えておいてほしい。
はあちゃんみたいにサイダーが苦手な人もいることを。
そして、どうか、
超絶微炭酸あぶくサイダー
(それは、ほとんどミネラルウォーターなのかもしれないけど)を開発してください。
そうなれば、天国のばあちゃんへの恩返しになるかもしれないから。
日本を代表する大企業に、成長著しいnoteの威を借り扇状的なお願いをする小狐のわたし。
恥を脱ぎ捨て、こんこん、とお願いしてみたりする。
「わたしのことは嫌いになっても、サイダーが苦手な人のことは嫌いになりゃちゃはっひぃ!」
┏○)) チャハッヒイ!
(炭酸サイダー総選挙、あるかもしれない)
ちなみに、わたしは、大好きです、サイダー。もちろん、三つの矢のマークのついたやつ。もう、それしか、勝たんと思ってますよ、こんこん。
強炭酸!忖度弾ける炭酸サイダー!
そーかい!おいしー!たのしー!
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雲をみる。
しゅわしゅわしゅわと、形を変える。流れてく。
きょうも暑い。
サイダーが美味そうだ。
コキュッとキャップをひねる。
ぷつぷつぷつぷつと炭酸が踊り出す。
しゅしゅしゅしゅしゅと表面へ走る。
表面で空気にふれるてぷちっと弾けると、サイダーの香りが広がり、こころを刺激する。
すると、わたしのこころはしゅわしゅわと音をたてる。
思わず、ぐびと、ひと口飲む。
しゅわしゅわが舌を跳ね、口のなかを飛びまわり、ぷんと消えていく。
ばあちゃんの顔がパッと現れる。
サイダーが苦手なばあちゃんの顔。
しゃんしゃんしゃいだーと笑ってる。
青い空に、ばあちゃんの顔がぷかと浮かぶ。
炭酸の泡とともに、わたしの胸に清涼な風がすいと吹く。
雲の向こうで空が鳴る。
雲のしゅわしゅわが鳴っている。
ひと雨来そうだ。
夏が始まる。
ぽつぽつぽつの予感がする。
ーおしまいー
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