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下書き供養漫才|コーネンキー
本田すのう氏の下書き
『ぜんぶ、更年期のせいだ』に捧げる
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晩夏の寝苦しい夜だった。
暦の上ではSeptemberだろうが、絶賛温暖化中の惑星の、四季を失った国の夜は、下がらない温度と寝汗に溢れていた。
誰も彼も、健康を失い、正常な精神では生きられない、そんな時代の入り口に立っている。
ピロン。
スマホの通知の音が鳴る。
午前二時、新月、宵闇の丑の刻。
誰だよ。
わたしは渋々スマホの画面を開く。
▶︎本田すのう
わたしの相方だ。説明が前後するが、わたしは彼女と『カルピスボーズ』という名の漫才コンビを組んでいる。
_いつかM1王者になって、あたしたちの漫才で日本中を笑いの渦に巻き込もうや、およー!
ふたりでそう誓った城址公園での夜。
あれからすでに十五年。
わたしたちは鳴かず飛ばずの下積み生活を続けている。
芸人の稼ぎでは食べていけない。
彼女はwebライター、わたしは宅配ドライバーとして日銭を稼いでいる。
_もう、これで、終わりにしよう。
その言葉を何度飲み込んだことか。その度に、わたしは、あの夜の誓いを思い出す。誰よりも、何よりも、美しく輝いていた彼女の最高の笑顔とともに。
あの日のおもいでとともに、渇いた口の中に苦みが広がる。わたしは、相方から届いたメールを開く。そこには、
_あたしたちは、まだ、始まってもいない。
M1を獲りにいく。
文字とともに漫才の台本が一本、添付されていた。
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U「どうもどうもー、カルピスボーズですー」
すのう&U「すのうとUでやらさせていただておりますー。お願いしますー」
U「あー、ありがとうございますー。今100倍濃縮カルピスをいただきましたけどもね。こんなん、なんぼあっても良いですからね!」
すのう「うちの家族、スタンディングオベーションですわ」
U「有り難いですよ、ほんま」
すのう「いきなりですけどね」
U「はいはい」
すのう「うちのおかんがね」
U「ほー」
すのう「困ってる体調の変化があるらしいんやけど」
U「ほら、心配やね」
すのう「その名前をちょっと忘れたらしくてね」
U「ほー。体調の変化の名前、忘れてもうてんの」
すのう「でまあ色々聞くんやけどな」
U「おー」
すのう「全然分からへんねんな」
U「分からへんの?」
すのう「およー」
U「いや、ほなおれがね、おかんの体調の変化の名前、一緒に考えてあげるから、どんな特徴ゆうてたかってのを教えてみてよ」
すのう「あんな、なんもしてへんのにな、毎日夕方になると顔が異様に火照ってな」
U「ほーほーほーほー」
すのう「歳をとるに連れて酷くなるんやて」
U「おー、コーネンキーやないかい。その特徴はもう完全にコーネンキーやがな」
すのう「コーネンキーなぁ」
U「こんなん、すぐ分かったで」
すのう「でもこれちょっと分からへんのやな」
U「何が分からへんのよー」
すのう「いや、あたしもコーネンキーと思うてんけどな」
U「いや、そうやろ?」
すのう「おかんが言うには 死ぬ前の最後の原因にもなるらしいんや」
U「あー、ほなコーネンキーと違うかぁ」
すのう「あー」
U「人生の最後がコーネンキーでええ訳ないもんね」
すのう「そやねん」
U「コーネンキーはね、まだ寿命に余裕があるから感じていられんのよ。寿命の余裕が大事」
すのう「そやねんな」
U「な?」
すのう「あー」
U「コーネンキー側もね 最期の死因に任命されたら荷が重いよ、あれ。『死因、コーネンキー』、医者も書きづらいよ」
すのう「そやねん、そやねん」
U「コーネンキーって、そういうもんやから。ほなコーネンキーちゃうがなこれ」
すのう「そやねん」
U「ほな、もう一度詳しく教えてくれる?」
すのう「あんな、女性ホルモンのバランスの変化で起こるらしいんや」
U「コーネンキーやないかい。『きょうの健康』の婦人科特集の最初のページに書かれとるよ」
すのう「およー」
U「でもおれはね、あれは色々な症状をかき集めた結果やと睨んでんのよ」
すのう「およー」
U「おれは騙されへんよ。おれを騙せたら大したもんや」
すのう「まあねー」
U「ほんで、あれ、よー読んだらね。他の合併症含んだ上での記載になってんねんな。ほらあ、トップページに特集されるよ」
すのう「およー」
U「おれは、何でも、お見通しやねんから」
すのう「ほーなー」
U「コーネンキーや、そんなもんは」
すのう「分からへんねんでも」
U「何が分からへんの、これで」
すのう「あたしもコーネンキーと思うてんけどな」
U「そうやろ」
すのう「おかんが言うにはな、毎晩の夜の営みには良いって言うねんな」
U「ほなコーネンキーちゃうやないかい」
すのう「およー」
U「コーネンキーなったら夜の営みしとる場合あらへんで。誘われようもんなら、無言でぐるんと反対側に寝返り打って、完全拒否や」
すのう「はいはい」
U「コーネンキーはねー、まだ微かに残ってる乙女細胞と、老化をもたらす悪魔の活性酸素が、毎晩、命懸けで闘っとるのよ。そんな暇も体力もあらへんの」
すのう「そやねん、そやねん」
U「な? 闘ってるうちにだんだん目が覚めてくるから、毎朝、ちょっとだけ早く起きてしまうねん。まだ五時やないの、やだわーって」
すのう「そやねん、そやねん」
U「そういうカラクリやから、あれ」
すのう「そやねんな」
U「そしたらコーネンキーちゃうがな」
すのう「およー」
U「ほなら、もうちょっとなんか言ってなかった?」
すのう「二十代後半の頃」
U「ほーほー」
すのう「何故かみんなその時期が訪れるのを恐れてたらしいねん」
U「コーネンキーやないかい。コーネンキーとシミーとホーレイセンは二十代後半から⤴︎て感じで大きくなる恐怖の対象よ」
すのう「およー」
U「あと、タルミーも怖いです」
すのう「およー」
U「コーネンキーよ、そんなもん」
すのう「分からへねんだから」
U「なんで分からへんの、これで」
すのう「あたしもコーネンキーと思うてんけどな」
U「そうやろ」
すのう「おかんが言うには」
U「ほー」
すのう「お坊さんが修行して体得する悟りの境地やゆうねん」
U「ほなコーネンキーちゃうやないかい」
すのう「およー」
U「お寺の修行で得られる悟りのメニューにコーネンキーなんかないのよ」
すのう「せやねん」
U「コーネンキーはね、朝から楽して化粧を済ませたい、いや、むしろ化粧なんかしたくない、なんなら、ムダ毛も処理したくないという煩悩の塊やねんから」
すのう「せやねんせやねん」
U「あれみんな煩悩に化粧水かけとんねんで」
すのう「せやねんせやねん」
U「コーネンキーちゃうがな。ほな、もうちょっとなんかゆうてなかったか?」
すのう「青年団の」
U「ほー」
すのう「カサ増し要員に使われてるらしいで」
U「コーネンキーやないかい。あれ法律スレスレぐらいの人数が密かに記名されて入団されとんやから」
すのう「ほよー」
U「な? 限界集落の惨状はもう国難よ? 青年団という名の中年団よ、あれ。下手したら老年団もあるよ。ほしたら、もはやそれは老人会よ。予算審議しとる場合ちゃうで」
すのう「ほよー」
U「コーネンキーや、絶対!」
すのう「分からへんねんでも」
U「なんで分からへんのこれで」
すのう「あたしもコーネンキーと思うてんけどな」
U「そうやて!」
すのう「おかんが言うには」
U「ほー」
すのう「受診科ジャンルでいうたら小児科やっていうねん」
U「ほなコーネンキーちゃうやないかい!」
すのう「ほよー」
U「そもそも受診科ジャンルて全く分からんけど、小児科だけはないねん、あれは」
すのう「およー」
U「な? 待合室を走り回るこどもらの中にコーネンキーで受診するおかん居てたら、もう、国民総コーネンキー時代や。オール・コーネンキー・ジャパンにってまうやん。日本の医療制度、崩壊するで」
すのう「そやねんそやねん」
U「ほなコーネンキーちゃうやないかい」
すのう「およー」
U「ほななら、もうちょっとなんかゆうてなかった?」
すのう「食べてる時に」
U「ほー」
すのう「えずくらしいねん」
U「コーネンキーやないかい」
すのう「ほよー」
U「コーネンキーは飲み込む力も弱まってくるから、やたら、えずくの。水飲んでもえずくんやから」
すのう「およー」
U「ね? なんなら揚げものを目の前にしただけでも、えずくんよ」
すのう「そやねんそやねん」
U「えずかんで食べられるのは衣を剥いだ中身だけ。あとは、たまごボーロ。口入れたら瞬間に溶けはるの。えずく暇なし。ノーえずきーよ。コーネンキーで決まり、そんなん!」
すのう「でも分かれへんねん」
U「分からへんことない!おかんの体調の変化はコーネンキーや、もぉ!」
すのう「でもおかんが言うには」
U「およー」
すのう「コーネンキーではないって言うねん」
U「んん? ほなコーネンキーちゃうやないかい」
すのう「およー」
U「おかん本人がコーネンキーではないと言うんやから、コーネンキーちゃうがな」
すのう「そやねん」
U「先ゆえよ」
すのう「およー」
U「おれが家庭の医学やきょうの健康調べてる時、どうおもててん?」
すのう「申し訳ないよだから」
U「ホンマに分からへんがなこれ」
すのう「およー」
U「どうなってんのよ、もう」
すのう「んで、おとんが言うにはな」
U「おとん?」
すのう「いぼ痔ちゃうかー?って言うねん」
U「いや絶対ちゃうやろ!もう、ええわー」
すのう&U「ありがとうございましたー」
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_パクリやないか!
心のなかで、大声で、ツッコミをいれる。
これが、相方への最後のツッコミになる。
わたしは、相方にずっと伝えられなかった想いを画面に打ち込み、送信する。
いままでありがとう。
すのうとコンビを組めて良かった。
おれたちは、最高で、最強で、最笑だ。
けど、
もう、これで、終わりにしよう。
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わたしはスマホをステージという名の床に置いて起き上がる。
パジャマのズボンとパンツを一緒にぬぐ。
足にひっかけて投げ縄のように洗濯カゴに放る。はずれる。
チッ。
私は思わず舌打ちする。
些細なことで苛々する。
脇汗がひどく出てくる。
顔が異様に火照ってる。
ぜんぶ、更年期のせいだ。
お後がよろしいようで。
ー了ー
更年期|こう-ねん-き
イヤイヤ期、思春期に次ぐ、人の生のなかで、精神的および身体的な不調を来たし、時に、悪量が憑依されたかのごとく、人格変容を来たす、ある一定の期間のこと。期間には個人差があり、元に戻らないまま、生涯を終える者もある。稀に、森の奥深くへと消え去り、帰らぬ人となる。
更年期?
いや、
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(リリン♪)
秋の夜長の虫の声
人の晩秋これに在らず
こちらの企画に参加しています。
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