老いを感じた瞬間の話
私は今はアラフォーだが、かつては若かった。
私が高校生の頃、男子はみんな腰パンにしていたし、女子はルーズソックスの時代が終わり紺ハイソを履いていた。まだガラケーをパカパカさせて、いろんなデコレーションを施すのがオシャレだった。
私はギャルではなかったので、ギャル文化には疎い。アイドルも若い頃から詳しくなかった。それでも、小学生時代はKinKi KidsやV6、モーニング娘。も名前と顔は知っていたし、曲も大体知っていた。
特別ファンのアーティストはいなかったが、邦楽の流行りはある程度は知っていたと思う。そんな中、大人たちはよくこんなことを言っていた。
「全員同じ顔に見える」と。
そんなわけないでしょ、とかつての私は思っていたのだ。全然顔も声も違うのに、と。そんな大人になりたくないと、かつては思っていた。若い人が好きなものを若い人たちといつまでも楽しみたいと、思っていた。だけど今は思う。
「みんな同じ顔に見える」と。
私は若い頃から既に流行に疎かったが、今では誰が人気なのかすらわからない。テレビに出ている人を見てもアイドルなのか俳優なのか歌手なのかもわからない。そもそも、テレビも見ないのだが。
だが、決して若者文化にを否定しているわけではない。あくまで、一切合算興味がないのだ。
そう、若者文化に興味がなくなった。若者に人気のコンテンツ自体に触れる機会がなくなった。
思えば、私は高校時代、洋楽にハマっていた。パンクやポップパンクが好きだった。いわゆるカウンターカルチャーだ。ライブハウスにも行ったし、アーティストが来日した時にはライブを見に行っていた。
私から見れば大人だった周りの観客も、今の私から見れば全員若者だ。その中にアラフォーが混じっていたらかなり目立っていただろう。若者しかいない空間だからこそ、のびのび楽しめたのだ。アラフォーが若者に混じってヘドバンしていたら、若者は遠慮してしまったかもしれない。そもそも今の私がそんなことをしたら間違いなく倒れる。若者向けコンテンツは若者たちで消費をするべきなのだろう。
さりとて、好きに年齢は関係ないとも言えり。
私より年上の女性が若い男性アイドルに熱を上げていても、さしてなんとも思わない。もちろん男性が若い女性アイドルを推していても何とも思わない。
ただ、私は心が動かなくなってしまっただけなのだ。
知らないことが当たり前になり、自分と若者世代にハッキリとした線を引き、人気の誰かの話を楽しそうにしている若者を見ても、ほのぼの眺めるだけになってしまった。
子どもがいる同世代の人たちは、私より遥かに若者文化に詳しい。私より上の世代もやはり子どもを通じて若者文化に触れているのか音楽などは、私よりずっと詳しい。そのことに、全く何も思わなくなってしまったのだ。あらあら、みんな詳しいのね、といった心境だ。これを、老いと呼ばずして何というのだろう。
私は運良くまだ老眼にもなっていない。仕事だってまだまだこれからだ。油物だってまだ食べられる。
だが、なんとなく、隠居した老人のような気持ちになってしまった。
もう少し若者文化を学んでみようか、と考えては見たものの、将棋の棋士や力士の見分けはつくから、まぁいいかと悩むのをやめた。若者文化に迎合するだけが若さではないはずだ。自分らしく楽しめるコンテンツを年齢なりに見つけて、年齢なりに楽しんでいこう。