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tinder交友録【22歳:原宿アパレル店員の場合】
3年ほど前の話。
僕はお洒落な女の子がタイプである。
「お洒落な女の子」の定義もなかなか難しいところだが、
・イケてる美容院で働いている美容師
・古着屋の店員
そのようなイメージを持っていただくと近いかもしれない。
今回会うことになった女の子は22歳のアパレルショップ店員。
僕にとっては25人目となるtinder女子だ。
普段は東京の原宿にあるショップで店長をしているそうだが、1ヶ月の間、僕の住んでいる街の百貨店でポップアップショップを開くことになり、店長である彼女が1ヶ月の出張となったようだ。
短期で借りることができる社宅アパートに住み込んでの出張らしい。
彼女のtinderプロフィールには写真がちゃんと載っていた。
僕の掲げている理想の「お洒落な女の子」で、さすがはアパレル店員と感動した。
お洒落なコーディネートの写真が複数載せてあり、スタイルも良く、顔も遠目ながらしっかりと載せていた。
後から聞いた話だが「東京だと知り合い多いけど、こっちだといないから顔載せちゃった〜」とのことである。
ただ1つ、プロフィールの自己紹介に、
「ヤリモクNG」
と書かれていたのが気がかりだった。
いつものプラン通り「仕事終わりにお酒飲もう!」とアポを取り付けた。
待ち合わせ場所は、彼女のポップアップショップが出店している百貨店の前がご希望で、「なかなか堂々としている女の子だな」と感心した。
待ち合わせ場所に早く着くとすでに1人の女の子が立っており、一目で彼女だと分かった。
その理由は服装がまさに、
「お洒落なアパレル店員のそれ」
だったからだ。
柄物スカーフをバンダナのように頭に巻き、髪色もピンクか黄色かそうではないのか・・・
僕には判断できないが綺麗な色で染められていた。
これが「原宿」・・・かわいいものが集まる「日本の中心」か・・・
勿論「かわいいだけではだめ」なのだが。
華奢でスタイルが良い彼女はとても身長が高く見えたが、
実際には153cmしかなかった。
勝手に高身長だと思い込んでいたので、小さくおさまっている彼女はちょっとしたギャップがあり可愛く思えた。僕はギャップに弱いのかもしれない。
僕の顔は当時tinderに載せていたので、彼女もすぐわかってくれた。
彼女も写真通りの顔だったので安心した。鼻が綺麗でショートカットがよく似合っていた。似ている芸能人は思いつかないが、犬顔のマルチーズみたいな女の子だ。
マルチーズは褒め言葉である。
「写真より全然本物の方がいいです!!」と言ってくれて、優しくて気を遣える子だなとまたも感心した。
この
「写真より全然本物の方がいいです!!」
は本当に良い褒め言葉と思い、僕も初対面で会った第一声近く、上位打線で採用することが多い。
相手と対面し、お互いのことを今日会う人だと認識した瞬間、僕は先制攻撃で相手の容姿をとにかく褒めるようにしている。
「めっちゃ可愛いですね〜〜〜〜〜」
「写真より実物の方が良い〜〜〜〜」
「おしゃれすぎる〜〜〜〜」
なんでもいいのだ。実際に思ってなくても言わなければならないのである。
これも僕の「自分ルール」だった。
「うわ、写真と違って可愛くない・・・」
と思うことも勿論あるが、その時でも開き直って褒めるのだ。
それは女の子が悪いのではなく、自分自身の観察眼、選球眼が誤っていたのだと、
よい失敗だったと開き直り、その日は全力で女の子を楽しませることに専念するのだ。
会話が進むにつれ、次第に可愛く見えてくるかもしれない。
写真通りに可愛かった場合は
「芸能人に会ったよう気分になってる、ずっと写真見てたもんで。へへっ」
とでも馬鹿っぽく言うのだ。とにかくなんでもいいので褒めるのである。
褒められて喜ばない人はいない。
仮に褒められて喜ばない人は、捻くれているので相手にしない。
実際に男側も「かっこいい!」「写真より良い!」と言われたらどうだろうか?
僕は嬉しい。
待ち合わせ場所からすぐ近くの僕がよく行く大衆居酒屋に入った。
「お洒落なお店よりこういう居酒屋が好き〜」と彼女は言っていた。
どこまでも良い子だな、この子は。
待ち合わせは19時で、彼女のショップはまだ営業時間であったが、
「バイトの子にレジ締めお願いしたから大丈夫!」
とのことだった。
彼女は茨城出身、働き出してから東京に出たようで約3年で店長を任されているようだった。
今の彼女と同じ、22歳当時の僕は、だらだらと過ごし、就活もスローペースな大学生をしていたので、バリバリ働く彼女は22歳と思えないほどしっかりしていて、大人に見えた。
ただ大変なことも多くあるようで、お酒が進むにつれて、仕事の愚痴も吐き出すようになっていた。
僕は、
「大変だねえ、頑張ってるんだねえ」
と、適度の質問をしながら聞き役に徹していた。
とにかく愚痴は聞いてあげることだ。
「それは君が間違っているんじゃない?」と思う愚痴が出てきても、tinderの場ではとにかく肯定して、聞いてあげることを心がけていた。
彼女はあくまで「tinderで今日会った人」であり、彼女にとって初対面の僕は会社の先輩でも、社会の先輩でもない。
お酒も進んでいたところで、彼女のiphoneに電話がかかってきた。
「ごめん、出てもいい?」
と聞くので、「いいよ」と答えたら、彼女はそのまま通話を始めた。
話の内容をなんとなく聞く限り、電話の相手はショップのバイトの子のようで、
「レジ金が合わない・・・」
と言うあるある問題が起きていたようだった。
酔いも多少まわっていただろうが、彼女は的確にそして優しく電話で指示を出していた。
「流石、店長!」
と、心の中で思いながら、彼女の電話をつまみにハイボールを飲み、僕は大人しく待っていた。
電話は終了したが、問題は解決してなさそうだったので、
「お店に戻ってもいいよ」と伝えたが、「明日でも解決できるから大丈夫」と彼女は言った。
この電話があったことで、僕は彼女のハードワークを再認識した。
このポップアップショップに東京から来ている社員は彼女ただ1人で、バイトの子達は1ヶ月限定のこちらに住んでいる短期バイトである。
その中で彼女は日々の接客業務、バイトの教育、店舗の運営をこなしていたのだ。
1ヶ月という期間限定ではあるが、知り合いもいない、慣れないこの地で、
若き22歳の女の子はたった1人で戦っていたのだ。
彼女は誰かに愚痴を聞いて欲しかったのだ。
好きなお酒を飲みながら、話を聞いてくれる人が欲しかったのだ。
だからtinderを入れていたのだとわかった。
そして今の僕はまさしくそれを叶えているのでは・・・?
「みんな会う前からヤリモクばっかりで嫌になる」
彼女ははっきりそう言った。だからプロフィールの自己紹介に、
「ヤリモクNG」
と書いていたのだ。
聞くと、
「会う前からヤリモク、下ネタ全開の男が多すぎる」
「そう言う人は相手にしなかった」
「私は会ってすぐそういうことはできない、警戒しちゃう」
とのことで、あくまで彼女の第一目的は、
「好きなお酒を飲みながら、話を聞いてくれる人が欲しい」
だった。
僕の「居酒屋からのワンチャンを狙うスタンス」
は、ここで力を発揮し、他の大多数のヤリモク全開の男たちと差別化ができていたため、彼女は会ってくれたのだった。
「じゃあ居酒屋からの流れでそういうことをするのも嫌?」
とストレートに聞くと、
「そんなことない。だってtinderってそういうアプリでしょ?」
と彼女は言った。これが本音である。
実際に男と会って話をし、警戒を解く。
それで「この人は変な人じゃないな」と思えたら、NGはなくなるのだ。
もうここまできたら言うことは決まっている。
伝家の宝刀、自分の体にルフィを憑依合体させ、
「二人になりたい!ホテル行こう!!!」
をど真ん中に投げ込んだ。見事にストライクだ。
彼女は、
「借りているアパートがすぐ近くだからそこでもいいよー」
と言ったので、そちらに向かうことにした。
期間限定の棲家なので家具等もなく殺風景な部屋だった。
その後のことは割愛するが、「やることはやった」とだけ記しておく。
「ヤリモクNG」と書いていたが、実際のところは全てNGではなかった。
「会う前からヤリモク前提で話してくる男はNGですが、一度顔を合わせ、話をして、私の警戒心がなくなれば、OKです」
これが本音だったのだ。
しかし、こんなことをtinderのプロフィールに書く女の子はいない。
tinderで学ぶことは多々ある。
今回伝えたいことは、
記されている言葉をそのままの意味で汲み取るのではなく、その裏側にある本音を見極めることが重要である。
と言うことだ。tinderは探り合い、疑い合いの場である。
その後の話、
彼女がこちらにいる期間は1ヶ月と決まっていたので、予定が合う時は家に何回かお邪魔させてもらった。
ポップアップが終わると簡単には会えなくなることもお互いわかっていたが、それでも1ヶ月の間は楽しく過ごした。
期間限定営業が終了し、東京に戻る際、
「またこっちでポップアップやることあるかも!」
と言っていたが、彼女はしばらくして転職したので、店長としてくることはなかった。
しかし、2024年4月にこちらに来る用事を作ってくれた。
約2年ぶりに再会した僕と彼女は、お酒を飲みながら近況報告をして、今度は僕の家で一晩を一緒に過ごした。
インスタグラムも繋がっているので、彼女の生活を垣間見ることができるが、最近は東京で恋人ができたようで、幸せそうだ。
もう会えることはないかもしれないが、
我が生徒が巣立ったような謎の気持ち
で彼女を微笑ましく見ている先生面の自分がいる。