『華氏119』トランプだけじゃない、彼が憂うのは民主主義の終焉だ 11/2~公開中
原題:Fahrenheit 11/9 ★★★★☆
今回のマイケル・ムーアは、トランプ大統領を糾弾するだけではなく、彼という“怪物”を生み出した世界、社会システムそのものを問い、そして民主主義の崩壊と専制化、独裁化する世界にも踏み込みます。
まるで人ごとではないの、これ。
ブッシュ政権を猛烈に批判し、カンヌでパルムドールを受賞、全世界2億ドル、日本では興収17億円を叩き出した『華氏911』、コロンバイン高校の銃乱射事件を発端にアメリカの銃社会に風穴を開けた『ボウリング・フォー・コロンバイン』、“国民皆保険のない先進国”アメリカの医療問題にメスを入れた『シッコ』など、これまでも突撃アポなし取材、過激なパフォーマンスなどで世界に一石を投じてきたドキュメンタリー作家マイケル・ムーアの最新作。
今回のムーアのターゲットは、アメリカ合衆国第45代大統領ドナルド・トランプ。タイトルの “119“とは、トランプの大統領当選が確定し勝利宣言をした2016年11月9日を意味し、『華氏911』に呼応したタイトルとなっています。
あなたも“トランプ慣れ”していませんか?
注)大きな警告音が鳴ります!
実はトランプの娘婿クシュナーは、思いっきり『シッコ』が描いた国民皆保険の支持者だったりとか、ブラックジョークすぎて吹き出してしまうところが今回も多々。
マイケル・ムーアのすごいところは、根深く、一筋縄ではいかない問題を、彼にしかできない手法でユーモアに転嫁させてしまうことでしょう。
特に、流石にあくどいわよ、あれはという展開に後半はなっていきます。
トランプの勝利を、マイケル・ムーアが予言していたことは耳にしていました。その“勝因”について語るとき、彼が自身の映画の中で何度も描いてきたラスト(錆)ベルトと呼ばれる故郷ミシガンにクローズアップしていきます。中でも彼が迫ったのは、アフリカ系が数多く住むフリント、まさに彼が生まれ育った町です。
ここでは、かなり深刻な身体被害を伴う水質汚染が発生しており、トップダウンでその隠蔽が行われてしました。
そこに救世主のようにやってきたオバマ氏は何をしたのか。何をしなかったのか。
トランプにも、ヒラリーにも投票しなかった人が1億人もいる、という事実と、その原因がそこにはあります。
日本でも選挙のたびに投票率の低さが取りざたされますが、あの大統領選もまさにそうだったのです。
あの指導者のもとに、いの一番に駆けつけてゴルフ自慢をしたのは、誰なのか。この国もどこへ向かおうとしているのか。我々もよく考えたほうがいいころです。マイケル・ムーアも、うちの国の首相はトランプの親友の1人のように見える、と明かしているようですし。
ムーアの言葉を借りるならば、そろそろアクションを起こす時なのかも。
また、ムーアは、フロリダ・パークランドで起こった銃乱射事件から声を上げた高校生たちを象徴的かつ、効果的に取り上げて私たちに問いかけます。
いくつかの印象的な言葉が登場しますが、
彼女たちの1人が「SNSに育てられた」と語っていたのが印象的。
これは1つの希望でもあると思います。
悪しきことばかりが、拡散するのではないのです。