『フェアウェル』“おばあちゃんには絶対言うなよ”のミッションや、いかに!? 4/10(金)~公開
英題:The Farewell ★★★★☆4.8
『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』など、みんな大好きオークワフィナの新たな顔が見られる『フェアウェル』。ご存知のとおり、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞をアジア系女優として初受賞、2月8日発表のインディペンデント・スピリット賞では、作品賞と“おばあちゃん”役のチャオ・シュウシェンが助演女優賞を獲得しました、イエス!
『ハスラーズ』のジェニファー・ロペスや『アス』のルピタ・ニョンゴらとともに、<オスカーよ、なぜ選ばなかった!?>作品・俳優たち。インディペンデント映画のいわば最高賞を受賞したわけです。
ルル・ワン監督自身の実際の嘘から生まれた物語であり、なんと、おばあちゃんの妹役を、モデルとなったワン監督のおばあちゃんの実の妹であり、大叔母にあたる方がご本人役で登場しています。
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両親が移民で、N.Y.で育ったビリーは大好きなおばあちゃん・ナイナイが末期がんで余命3か月と知らされ、中国に帰郷します。本人に病状を伝えるべきと彼女は考えますが、ほかの家族は“助からない病は本人には告げない”という中国の伝統を守るべき、という考え。医師もそれは「good lie」(いい嘘)なのだと言います。
そこで、いとこの結婚式という名目で久々に家族を勢揃いさせ、ナイナイとの貴重な時間を過ごすことになるのですが…。
ご本人が高齢な場合など、告知しないケースは日本でもあるかと思います。
ビリーは昔から亡きおじいちゃんとおばあちゃんのことが大好きで、移住のために離れてしまっても日ごろから連絡を取り合っていて、これはもう絶対に、本人のためにも伝えたほうがいいと最初は突っぱねるのですが、ほかの家族や親戚と対立、葛藤を抱えながらナイナイと向き合うことに。
だから、逆におばあちゃんから「どうしたの?」と言われてしまい、ビリーの父である実の息子(『ムーラン』パパでもあるツィ・マー)の憔悴ぶりを「飲み過ぎなのね」なんて心配されてしまうのです。
おばあちゃんて、基本
自分のことより人のことじゃないですか。お節介で、情に厚くて、励まし上手で、何でも先回りして考えていて、時に真理を突いて、あとやたらと声が大きくて。
そんなおばあちゃんと孫の話なので、思い当たるところがある方は今からも鼻の奥がツンとしてしまうはず。
また、いとこの結婚相手が日本人女性なので、日本ネタも少々登場します。
あくまでも優しい嘘の傍らには、優しいユーモアもあって、エンドロールではまさかの爆笑。
見終えた後も、あの家族のことが気になっています。『パラサイト』とはまた違うものではありますが、近似性のある思いを抱き、あの家族が大好きになっています。
果たして、彼らの“おばあちゃんには絶対言うなよ”のミッションの行方は、いかに!?
ルル・ワン監督によれば、アメリカの制作者からは白人のキャラクターも入れたらどうかと言われ、中国の出資者からはストーリーがアメリカ的すぎると言われたそうな。
でも、ルル・ワン監督も、オークワフィナらもアジアとアメリカの2つの文化を礎にしているわけじゃないですか。
その作品としてのアイデンティティーを貫いた姿勢もまた評価を受けている理由の1つなのでしょう。全米4館での限定公開から公開3週目には135館となり全米ランキングベスト10入り、最終的には891館まで拡大公開されたといいます。
2019年のサンダンス映画祭で絶賛された後、Netflixやアマゾン・スタジオ、フォックス・サーチライト・ピクチャーズなども配給に名乗りをあげたそうですが、ルル・ワン監督は「家が数軒買えるオファーをもらったけど、(配信ではなく)劇場でお客さんと語り合う体験をしたかった」ことから、『ムーンライト』『レディ・バード』などで知られる気鋭のスタジオ「A24」に委ねることに。
「A24」はやはり、安心印です。