ぼくのBL 第十九回
「人の手を渡った古い本には、中身だけでなく本そのものにも物語がある。人からの受け売りだが、正しい言葉だと思う」
たまには本の話題に戻ろう(そんなんでいいのか俺)。
先日読んだ『ビブリア古書堂の事件手帖』三上延(メディアワークス文庫)の感想を。
ずっと前から気になっていたけど何故か手が伸びなかった。ようやく手にしたとたん、途中のページから落ちてきた紙片を見て、心が躍った
古書店で入手したこの本。
購入する際にまず確認するのは冒頭。これを立ち読みして、気に入れば最初のハードルクリア。
それから価格。
次に本全体の状態。古書店であればシミ・汚れ・折れなどがないか。
そこまでのハードルをすべてクリアすれば購入となる。
さて、古本には1冊ごとに(隠された)来歴や物語がある。ほとんどの本では見えないが、たまに自己主張の強い古書に出会うこともある。
この本の場合、買ってからしばらく寝かせておいたので(ただの積読ともいう)、いつごろ買ったか記憶にないけれど、せっかくヒントを与えてくれたので、前の持ち主のことについて少し想像を逞しくしてみようかと思う。
別に実像に迫ってストーキングしたいとか微塵も思っていないので誤解なきよう。炎上を恐れるほど有名でもないし、失って困るような社会的地位があるわけでもないが。
さて、ヘッダの画像でわかるように、これは英語の小テストのようだ。
この紙片からわかることを次に列挙する。
1 サイズはA5横
2 文章面が内側に入るように縦の四つ折りにされていた
3 手書きの日付は「10月13日(木)」
4 英語の小テスト(3問各12点、満点は36点)
5 テスト内容から類推するに、中学英語と思われる
6 小テストの持ち主(以下「主」と略)は答えを書くべき下線部分ではなく、テスト用紙の下部空白地帯に回答を記入している
7 この小テストは誰の採点も受けていない
8 大見出しの数字が「3」である
次に、この紙片が挟まれていた親本(?)の情報を以下に。
A 初版2011年3月25日発行、2013年1月18日32版発行
B 古書店に置かれている本の状態としては、優~良(カバー、小口などに汚れ、折れ、ダメージ等なし)
C 本全体に沁み込んだ香りあり(ルームフレグランス、おそらくムスク系のもの)
検証していこう。
まずテストの事実3から。
日付と曜日が記載されている。
では10月13日が木曜だったのはいつか。
ネットは便利だ。すぐに答えがわかる。
直近では2022年、その前は2016年。その前になると2011年だ。
一つずつ可能性を潰していこう。
2011年の小テストだとすると、2013年1月の発行日直後に買った本書に栞として挟むまでに1年半のタイムラグがある。
そんなに時間が経過した、しかも小テスト用紙を、手元に取っておくだろうか。いやそれは考えにくい。ここで2011年説は却下。
では2022年はどうか。今から8か月前。
読んですぐに手放したという可能性はあるが、それを否定できる証拠が残されている。親本の事実Cがそれだ。
紙の質にも依るけれど、そうとう強い香りでなければ数カ月で本に沁みつくということはない。
購入→読書→売却→流通→店頭に置かれていた期間、を考えるとそのサイクルが7か月で収まる気がしない。
よって2022年説も却下。
そうすると、消去法から導き出されるのは2016年だ。
今から7年前。
この小テストを受けた(もしくは受けずに答えだけ書いた)人物は、2016年に本書を読んだ。
親本の事実Aから、本書は激しい勢いで増刷がかかっている事実がわかる。なんせ2年弱で32刷りだよ? ひと月に1回以上増刷されてるのよ? どんな勢いだよ!
というわけで、この本の持ち主は、発行されて間もない頃(2013年)に入手し、2016年の小テストをこの本に挟んだ。
おそらく栞がわりにしていたのだろう。それは小テストの事実2から類推される。
A5用紙の大きさは148×210mmだ。長辺を4等分する形で四つ折りにされているので、畳んだあとのサイズは148×57mm。栞にちょうどいいサイズだ。
さて、中学英語として、これは何年生のレベルなのか? ちらっと調べてみたところ、中学2年レベルのように思った。ということは14歳くらいか……中二病だな、ふふ。
ということは、テストの持ち主≒本の持ち主は、現在21歳くらいか。
多感な時期にコロナ禍を経験してしまったのね。負けずに強く生きてね!
まあ勝手な想像はこのへんにしておきましょう。
本の感想だよな! ごめんよ!
本書は、プロローグとエピローグに4つの短編が挟まれた、連作短編集です。
登場する本は、夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)、小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)、ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)、太宰治『晩年』(砂子屋書房)の4冊。
それぞれの本にまつわる謎を、主人公で読書が苦手な五浦くんと、古書店主で本オタ陰キャの栞子さんが解いていく物語です。
後年の作、京極夏彦の「書楼弔堂」シリーズにも通ずる骨格ですね。
短編の中だけで解決される謎もあれば、連作という形を最大限に活かした縦横無尽の伏線→回収というダイナミックな謎解きもやってのけます。これには驚いた。
慌てて2巻を買いましたよ。
でもすぐには読んでいません。
なぜか。
それは、また次回の話。