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AIに雇用が奪われるではなく、AIにより代替可能なタスクがあるという視点で考える

耳にタコが出来るぐらい、よく来る学生からの質問です。

「AIに会計の職業は奪われるんではないですか?」

私の返答:会計の職業の形が変わる(もうすでに変わりつつある)可能性がありますが、奪われるわけではありません。

こうした質問がされるきっかけになったのは、Frey and Osborne(2013)による"THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO
COMPUTERISATION?" 雇用の未来:コンピューター化によって仕事がどのように代替可能か?

で衝撃的な結果が示されたことです。

こちらの話を少しまとめておこうと思います。会計の話、というよりはこの論文の問題点と私たちが考えておかなければならない点について触れたいと思います。

1.Frey and Osborne(2013)

Frey and Osborne(2013)はAIが多くの職業(雇用)を代替する可能性がある、ということを示した論文です。

Frey and Osborne(2013)
THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO
COMPUTERISATION?∗Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne

原文はこちらから取れます。

https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

こちらの論文、二人の名前よりはオックスフォードという名前が先に出てくることが多いです。

オックスフォード、ケンブリッジ、ハーバード、スタンフォード、こうした有名大学に所属する研究者が出した論文は、権威のあるものとして取り扱われる傾向が強いです(特に日本は強いかもしれません)。彼らが大学を代表しているわけではないので注意してください。

これは、一種、有名大学だから信用できる結果でしょう?という前振り、ともいえます。よく書店に並んでいるスタンフォード式○○なども同じですね。スタンフォードが認定したわけではないですよね?

さらに、こちらのTHE FUTURE OF EMPLOYMENTはいわゆるジャーナル化された論文ではなく研究報告書であり、査読を受けている論文ではありません。*科学雑誌でいえば、「Nature」に掲載された!とかがあるでしょうが、そうした論文ではありません。

Frey と Osborneはどういった人なのでしょうか?

二人のプロフィールをみると、Freyは、Oxford Martin Schoolで「未来の仕事」(the Future of Work)に関するプログラムを指揮するフェロー(研究員)であることが書かれています。

Carl Benedikt Frey is Oxford Martin Citi Fellow at the University of Oxford where he directs the programme on the Future of Work at the Oxford Martin School.

そしてOsborneは、機械学習に関する研究者であり、教授であるようです。

そして彼らが所属するThe Oxford Martin Schoolは、2005年に創立された新しい組織です。

オックスフォードは実に多様なカレッジ、研究機関があり、全容は…よく私もわかっていません(在学している人、その組織に務めた経験のある人は分かっていると思いますが)。

The 21st century has already brought astonishing technological achievements. From smartphones to internet shopping, our lives are transformed in many ways, and the world of work is affected in particularly dramatic ways.
The programme will provide an in-depth understanding of how technology is transforming the economy, to help leaders create a successful transition into new ways of working in the 21st Century.

2.THE FUTURE OF EMPLOYMENTの内容とその問題点

FreyとOsborneが2013年に発表した論文では、アメリカの職業分類に基づく702の職種を対象に、将来、コンピュータに代替される確率を推計していて、米国において10~20年内に労働人口 の47%が機械に代替されるリスクが70%以上という推計結果が発表されました。

47%が代替される!という結果と、代替される職業とそうでない職業が分類で、会計が、代替される職業の上位として位置していた!ということが業界内では取り上げられました。

以下、原文から抜き出してきた結果です。

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結果をみますとBookkeeping, Accounting, and Auditing Clerksとあり、

帳簿作成する人、会計、監査人が全部ひとまとめになっていることに気が付きます。

大雑把すぎますよね。

いわゆる、会社の経理担当者と、財務諸表を作成する社内での責任者と会計監査人などがごっちゃになっているようです(米国の職業分類がそうなっているので、この二人のせいでもないとはいえますが)。

そもそも彼らの推定では、「この仕事の職務は、ビッグデータが利用できることを条件として、最新鋭のコンピューター制御機器に代行させるのに十分なほど明確に規定することができるか」という質問を、関連する研究者(その職種の人に対して行ったわけではない)に行い、その結果を織り込んで推計しています。原文には、調査のためにOxford University Engineering Sciences Departmentでワークショップを開いたことも書いています。

具体的な方法がイメージ付きにくいのですが、ワークショップを開催し職業分類について説明し、それから代替可能性についての質問をしたと思われます。

さて、その後、両氏は野村総合研究所と共同で、日本版の研究も行っています。それが、こちらですね。

原文はこちらから取れます。

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/journal/2017/05/01J.pdf?la=ja-JP&hash=6B537BB1EB48465D0AF4A3EA1B1138809F916683

2030には49%の職業がコンピューター(AI?)に代替される可能性、いう結果を発表していて、やはり会計の業務も上位に位置する結果となっています。

これらの結果に基づいて、日本のマスコミの方々が取り上げているのですが・・・。皆さんはどう思いますか?


3. 職業ではなくタスクに着目する

この推計モデルのもとになる数値は各職業の『代替可能性』を『AI研究者』に質問して、代替可能性が判定されています。

となると、将棋も、囲碁も将来、AIが全て代替することになります。

が・・・なってませんよね(なりそうにないですよね?)。

こちらの記事は藤井さんがAIを超えた判断をしたのではないか?ということが騒がれています。

「AIに代替させることが可能である=職業が奪われる」ということではないことを理解しておく必要があります。

たぶん、同じ質問で分類すると大学教員も代替できることになりますね(笑)。そういう時代も来るかもしれまませんが。

ともあれ、「代替可能」ということと「代替させる」ことは意味が異なるということを知っておくべきでしょう。

その辺りは岩本さんの論考が詳しいですね。ぜひご一読ください(関連する論文もあげてくださっています)。

そしてもう一つ。

このやり方では、「技術的な可能性を示しただけ」で多くの職業が代替できることになります。代替に伴う別の問題はすべて抜け落ちしていますし、考慮されていません。

一番代替できそうなのは自動車の自動運転です。ですが、自動運転においても技術的に可能であったとしても克服すべき多くの課題(技術的の未解決な問題、法制度上の課題)があり、完全な自動運転(ドライバーがいなくてもよい)という状態になるまでは時間が掛かりそうです(将来的にはありえるかもしれませんが、すべての自動車が自動運転に切り替わるのが10年以内に起こるかどうかと問われればそれは難しいのではないかと思います)。

さらに、この分析では職業全体を粗く見て、判断しているだけなので、職業におけるタスク(業務)に注目していません。

会計の業務でも自動化できそうな業務とそうでない業務があるはずです(おそらくどの職業でもそう)。

となるとむしろ、どの業務であれば自動化できるか(AIに任せることができるのか)を分類し、必要な定式化を行っていくことが必要です。

ただし、注意が必要なのは自動化することによる別の影響も考えておく必要があるでしょう。

たとえば、自動運転でいえば、運転できるドライバーがいなくなれば、何かあった時に対応できる人がいなくなることに繋がります。

会計の業務も複数のタスク(業務)でなりたっています。各業務とのつながりを意識して、自動化により別のタスクにどのように影響するのか?を考えておく必要があります。つまりタスク間での関係性も注意深く見ておく必要があるでしょう。

最後になりますが、オックスフォード大学が出した○○みたいないい方はやめた方がいいのではないでしょうか。

大学のブランドで研究結果の妥当性を語るのはやめましょうね。


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