税効果会計を理解するための第一歩:課税所得と当期純利益の違いを理解する
テーマとして難度のランクをつけるとすると・・・一番難しい単元としては、繰延税金資産はトップクラスに上がると思います。
なんでも難しいのか?
そもそも、繰延税金資産を算定する上での根拠となる税効果会計について知る必要があると思います。
税効果会計とは何ぞや?
【ポイント】
税効果会計とは、会計上の利益に見合った税金費用が計上されるように、『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)を調整し、適切に期間配分する手続きをいいます。
この説明を読んで、なるほど!と思う人はまぁいないと思います。
今回は税効果会計における前段階として、企業会計と法人税(税務会計)の違い、に触れたいと思います。
1.企業会計上の利益と税法上の課税所得の差
まず前提条件として、企業会計上の利益と税法上の課税所得計算に差がある、ということを認識しておく必要があります。
企業会計上の利益は、
収益―費用=当期純利益
法人税上での課税所得(法人税法上で計算される利益)は、
益金―損金=課税所得
で計算されます。
益金≒収益、損金≒費用、なわけですが、実際には≒なので、「この一致していない部分をどう考えるのか?」が重要になっています。
日本は確定決算主義を取っています。
確定決算主義では、収益―費用=当期純利益で求められたものを、調整して、課税所得計算を求める、という考え方です。
え!
そんなやり方でいいの?と思われるかもしれません。
本来、利益と課税所得との差は小さいものでしたので、わざわざ別に、「益金―損金」としなくても、求められた当期純利益から調整したらいいよね!という発想が、確定決算主義の発想です。
これが成り立ちうる前提条件としては、
・企業会計上の利益と法人税法上の課税所得との差が小さい
ことがあります。その差の部分についてということがあった訳です。
ところが!この差が「小さいとはいえない」という事態が起きてきました。
国際的な会計への準拠によって会計基準が改訂されました。その結果として、会計基準は新設され、ドンドン改訂が重ねられていくわけですが、それに合わせて税法が変わるわけではありません。
なぜか?
企業会計と法人税ではそもそも目的が異なります。
企業会計は利害関係者への情報提供、利害調整といった意味合いがありますが、法人税法は課税目的であり、時の政権の動向によって変わりうるものなので、税法が企業会計に合わせて動くわけではありません。
もちろん、ある程度の調整はします。それは収益認識においてはさしもの国税庁も対応しています。
差が生じやすいものをいくつか紹介しましょう。
一つは減価償却です。
こちらにありますように減価償却の償却方法や年数については法人税法上、定められています。
すぐに皆さんこう思うのではないでしょか。
「法人税法上の減価償却と企業会計上の減価償却を一緒にすればいいよね?だって、償却方法や年数は企業側で決められるから!」
そうなんですが、そうではないのです。
実は、IFRSにおいては、
IFRSでは、減価償却方法を「資産の将来の経済的便益を企業が消費すると予測されるパターン」と合わせないといけない、と定められています。
日本基準はこうした定めはないので、じゃ、税法基準でいいか!となるのですが、IFRSではこうしたことが決められている(明文化されている)ので、そうはいきません。
日本基準:法人税法上で定められた償却年数と償却方法を選択(定額法、定率法など)
IFRS:資産の使用による経済的便益のパターンに応じて選択
となるわけです。
経済的便益のパターンとか分からないのでは?という人も多いと思います。なので、とりあえず、説明のつきやすい定額法に切り替える企業が多い、というのが実情です。
やや古い記事ですが、実際にこうした現象は現在においても観察されています。
世界的にもこうした傾向にあるのですが、資産を購入してその経済的便益を受けるパターンを説明する際に、各年度同一の費用発生であれば説明しやすいですが、他のパターンでは説明にしにくというところでしょうか?
突出した会計処理はしにくいという同調圧力があるとしたらそれはそれで一つの研究対象となりえますね。
ともあれ、「説明のしやすさ」から会計選択を行うのも何だかおかしな気はしますが、減価償却の償却パターンの予測を事細かにすることに企業はそれほどの意義を見出していない、というところかもしれません。
減価償却の意義とは?という点からも考えてみるべき話かもしれません。
*そもそも突き詰めれば減価償却は会計理論上説明しにく事象である、と思います。
以下の動画で減価償却に関する謎?について説明してますので、流し読みでも視聴いただけると嬉しいです。
2. 固定資産の減損は損金算入できない。
あともう一つは固定資産の減損損失は課税所得上の損金としては認められません(一部例外あり)。
またそんなバカな!とか言われそうですが、本当です笑。
税務上、減損損失について直接の規定はなく、類似する取扱いとして「評価損」に関する定めが設けられています。資産の評価損は未実現の損失なので、原則として損金不算入とされ、例外的に一部のケースで損金算入を認めています(法法33②、法令68①三)。
益金と損金のバランスでいえば、課税所得計算の観点からいえば、一部の特例的なものを除けば、なんでもかんでも損金にすることは認めたくない!というのが課税する側の立場であることは理解できると思います。
一部の特例というのは、例えば政策的に、投資を加速することを促すために、一部の資産については加速償却を認める(ドンドン投資してくれれば、その分税金安くするよ!ということです)ことを行っています。
そうした例外的なものを除けば、「安定的な財源確保」のために税金をしっかり取っておきたい、というのが基本発想だと考えておくとよいと思います。
ただし、先ほど言及したのは「固定資産」の減損のケースであり、「有価証券」については認められる場合もあるようです。
いずれにしても見解の相違で課税所得の計算が異なってしまう案件が多くなりそうですね笑
例えばこちらですね。ソフトバンクの事例はまさに有価証券の評価損における見解の差によって生じたものです。
これも申告納税制度の宿命、といったところでしょうか。
3.企業会計と税務の距離感は永遠のテーマ
企業会計と法人税(税務会計)の溝は永遠のテーマですね。
企業会計が逆に税務に合わせてしまうことを逆基準性といわれる現象です。
税務に企業会計が合わせてしまうことで起こりうる弊害は何でしょうか?
企業会計として開示される情報に歪みが生じてしまう(本来選択された最適な基準を選択しない)ということが起こりえます。
ですから、企業会計は税務に引っ張られないようにしないといけないわけですが、一方で乖離が大きくなると確定決算主義を維持することは難しくなります。
税務会計は企業会計を全く無視していいのか?
といえばそうではない側面もあります。
確定決算主義をとっていないアメリカやイギリスなどにおいても、当期純利益に基づいて誘導的に課税所得を求める点では変わりません。
つかず離れず、一定の距離を保ちながら大きく乖離しないようにするのが課税所得計算と当期純利益、法人税と企業会計、なのかもしれません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?