財務会計の面白さ:情報提供のニーズは時代とともに変化する
私は会計とは、人生を豊かに生きるためのツールであり、お金に対する説明力である、捉えています。
さて、そんなことを考えている私ですが、専門は、会計学の中でも「財務会計」になります。
財務会計とは何でしょうか。
財務会計は、外部の利害関係者に説明するためのルールを定めていて、最適なルールを追求する分野である、と捉えています。
どのようなルール、取り決めが良いか、ということを提案していくというのが王道的な財務会計の研究でしょう。
財務会計の研究には2つの見方があると考えています。
一つは、ルール自体を変更することを働きかけていくのか、もう一つは、ルールに関するより最適な解釈を提供していくのか、の2つです。
何をもって最適な会計ルールとするか、については財務会計の目的に依拠しています。
つまり、今は意思決定有用性アプローチ、つまり財務諸表の利用者が最適な意思決定を行う為の情報提供機能が重視されています。
意思決定に有用な情報提供を行えるような財務会計ルールにすべきでしょうし、また利用者が正しい理解に基づきルールを解釈し、財務諸表に記載されている情報を読み取る、ということが望ましいと言えます。
意思決定に有用な情報と言いましたが、これもまた「誰にとって」有用な情報であるべきか、によって見方が変わってきます。
株式投資家でしょうか。それとも債権者でしょうか。またまた一般市民、従業員でしょうか。
利害関係者が変われば、どの情報が有用かどうかについても変化します。また、利害関係者の情報ニーズによってもまた変わってきます。
つまり、財務情報で求められる情報の量、質は時代とともに変化する、ということです。
財務会計論の現在の考え方では、想定される利用者は株式投資家であるとされています。
これはなぜでしょうか?その理由について、考えてみましょう。
そのために、大事な質問を1つしたいと思います。
Q1. 株式投資家と債権者と比較して、より多くのリスクを背負っている、不確実性を有しているのはどちらでしょうか?
この答えは、株式投資家になります。
株式投資者は、企業が生みだす将来キャッシュフロー、つまりリターンを期待して投資を行います。ですが、このリターンが想定されたように生まれるかどうかについては不確実、です。
一方で債権者は企業が倒産しない限りにおいては予定されたリターンが約束されています。
つまり、株式投資家と債権者は背負っているリスクに違いがあるのです。
必然的に株式投資家に対する情報提供が必要である、と考えられる理由が分かってくるのではないでしょうか。
もちろん、財務会計が株式投資家のためにある、というのは言い過ぎですし誤りです。
財務会計の関連研究が市場との価値関連性と結びつく形で発展してきたということは間違いないと言えます。
株式投資家のニーズが変われば、提供される情報にも変化がある。
このことを表しているのがESG(環境、社会、ガバナンス)関連の情報でしょう。
例えば、こちらの記事です。
ファーストリテイリング(ユニクロ)が、ウイグルの人権問題について「ノーコメント」と発言したことで株価が下がった、評判が落ちたという話です。
業績がいくら良くても、今後の将来の見通しが明るかったとしても、ESG、つまり環境、社会、ガバナンスなどの要素を無視して経営を進めることは出来ません。
財務会計のルールの枠組みだけではなく、こうした関連情報のニーズもまた出てきているということです。
さて、これを財務会計のルールの枠内のものとして捉えるのか、全く別物の情報として捉えるのか。
これについては、財務会計の中で明確に答えが出ているわけではない気がします。
企業報告の未来~財務・非財務の境界を越えて~第2回:国際財務報告基準(IFRS)の策定を担うIASBを傘下に持つIFRS財団は、グローバルに統一されたサステナビリティ報告基準の設定に対する要望の高まりを受け、IFRS財団が国際サステナビリティ基準審議会(SSB)を設立し、その役割を担うべきか、意見募集を開始しました。
こうした動きもありますね。非常に興味深いです。
時代が変わればニーズが変わり、それに対応してルールも変わる。
そんな時代の変化を財務会計の研究から感じられるかもしれませんね。