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未解決問題?持分法(関連会社)の会計処理

1.関連会社の会計処理

連結の事例は、オールオアナッシング。つまり1か、0かということでした。しかしながら、その中間の会計処理が会計ではあります。

いわゆる持分法の会計処理です。

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関連会社は企業が戦略上の理由から出資している企業です。

目安として20~49%の議決権を所有している、ないし、何らかの関係性が確認できた場合(企業の経営方針への影響力がある場合)に関連会社と判定されます。20%未満でも、15%以上の議決権を有し、一定の影響力を有していれば関連会社と判定されます。IFRSでは下限の指標の目安はありません。仮に関連会社と判定されなければ、保有している有価証券は金融商品会計で処理します。

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持分法は難しそうで、シンプルな会計処理です。

上の図は関連会社(20%の事例です)。100の利益を関連会社が稼いでいたとすると、

(借方)投資有価証券20 (貸方)持分法による投資利益20

として、保有している関連会社の価値を増加させつつ、関連会社の利益を持分比率の分だけ当期純利益に反映させます。


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こちらは日産の事例です。ご存知の通り、日産とルノーは資本関係があり、ルノーを関連会社として処理しています。

先ほど説明した通り、持分法による投資損益が反映されていることが分かります。コロナ禍の状況で2020年第一四半期においては損失が発生していることも分かります。

もう一つ事例を見てみましょう。

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ソフトバンクGです。持分法による投資損益が大きく、かりにこれがなかったとすると2020年3月期(右側)に計上された純損失はより拡大していたことが分かります。

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ソフトバンクは多種多様な関連会社を保有していますが、中でも影響しているのは、つまり業績を押し上げたのは、Alibaba Group(アリババ)でしょう。

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アリババは世界の時価総額ランキング(2020年7月末時点)でも、7位につける企業です。この株価を初期の段階、つまりまだ駆け出しの時から保有していたのがソフトバンクにとっての貴重な財産になっています。

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それは二つの側面からいえます。1つ目は利益の観点から、です。関連会社としてのアリババは、損益計算書上、継続的な巨額の利益をももたらしてくれます。赤字幅を圧縮することができたのは同社の持分法による投資益が反映されているためです。

そしてもう一目は、含む益の売却して当期純利益を嵩上げできる、かつ現金を手に入れられる、です。

ごく初期のころに買った株なので、

取得原価<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<時価

という状況であるといえば分かり易いでしょうか笑。

関連会社の株式は時価評価されませんので、取得原価で資産計上されています(投資損益の結果として帳簿価額は上昇していますが)。

その結果として売却時には多額の売却益を計上できます。これにより当期純利益を押し上げることができます(先ほど示したP/Lにアリババの売却益も計上されています)。

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こちらみれば、アリババ株の売却により1,218,527百万円が計上されています。これは以下にニュースとなっている。1.2兆円の数値と一致することが分かると思います。それだけではなく、実際の現金入手手段としても使えます(実際にその側面の方が強いかもしれません)。

ソフトバンクGにとって、困った時のアリババ株!といったところでしょうか。ただ、出資比率は今、25.1%ですから、これ以上の引き下げは望んでいないかもしれませんし、そう何度も使える手ではありません。

ただ、アリババ株が関連会社ではなく金融商品で評価されていれば、こうした処理は不可能だったわけなので、強かな財務(会計)戦略がうかがえます。

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こちらをみると保有しているアリババ株が如何に上昇しているかがわかりますね。2014年から時価総額を倍近くまで伸ばしています。その結果として、ソフトバンクGの保有株式価値も、アリババが目立つ形になっています。

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おそるべし、アリババ株、というところですね。ソフトバンクにおけるこうした関連会社の評価を利用した含み益の拠出は褒められたものではないでしょう(本業の利益は一体・・・と思いませんか?)。

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アリババ株が持分法でどの程度、帳簿価額が積み上げられているかをみてみると、3,240,361百万円(3兆2403億円)と時価総額の4分の1もないことが分かります。

つまり、持分法により積み上げられた投資有価証券(持分法で会計処理されている投資)では、時価との乖離が著しく生じていることが分かります。

2.関連会社の会計処理は問題だらけ?

関連会社の会計処理は、ジョイントベンチャーなど共同出資しているケースにも適用されます。この場合も含めて考えると、関連会社は使われる機会は幾つか想定されます。

ただ、会計処理自体の質は高いとは言い難いです。たとえば、利益の計上方法です。

持分法では関連会社の『毎期の当期純利益(純損失)×持分比率の額』が営業外収益に計上されます。

違和感を感じた人もいるかもしれません。

この処理では、計上された利益をキャッシュとして獲得しているわけではないです(その見込みもありません)。

企業は関連会社に対して稼いだ当期純利益の請求はできるのでしょうか(株主ではあるので配当は受けることができます)?

そもそも、持分比率に応じて関連会社の業績が反映される仕組みは経済的単一体説と整合的といえるでしょうか

その答えはノーでしょう。この点はIASB(国際会計基準審議会:IFRSを作成している団体)も認識しているもののほかに代替手法がない、として現状放置されているのが現状です。

ソフトバンクGのアリババの含み益計上や持分法による投資利益は、結果としてソフトバンクGの当期純利益を押し上げていますが、実態が伴ったもの、つまり同社の企業業績を表した結果といえるかといえば、疑問です。

こうした問題を発生させる関連会社の会計処理は、未だに未解決な問題になっています。

ただ、大きなプロジェクト(収益認識、保険契約、金融商品など)を終えてIASBも比較的余裕が生まれてきた可能性もあり、ひょっとして取り組むべき課題として取り上げられるかも、しれません。

ですが、企業全体でみれば、関連会社が企業業績に著しく影響を与えることはそう多くないかもしれません。たとえば、のれんと比べるとその影響は限定的でしょう。そう考えると、もうしばらくこのままで放置されたまま、基準が変わらない可能性の方が高い気もします。


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