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比較可能性な財務情報を提供することは企業にメリットがあるのか?:Accounting Comparability and Corporate Innovative Efficiencyを読みながら考える

財務情報の比較可能性が高いことがどういった意味を持つのでしょか?利害関係者からは明確です。A企業とB企業のどちらに投資しよう!と思う場合、比較可能な情報があった方が投資の判断がし易いことは明らかです。

比較可能性は二つの意味があります。

①一つは同一企業の時系列分析ができること。

②もう一つは企業間の比較ができること。

『比較可能性』を考えた場合に①と②のどちらも両立している方が望ましいでしょう。

実は①、②にも一定の限界があります。

一つは会計基準の改訂、環境、経済などの外的な変化により時系列の比較に限界があります。

最近で一番影響あったのは金融危機ですね。

この時期の情報は、業種によっては業績が下振れしすぎて比較が難しいです。あと、日本では震災による影響もありますね。

また会計基準の改訂の影響も受けます。日本でいえば、会計ビッグバン以前と以後では全く会計基準の環境が異なります。

遡及的に財務諸表を作成し直してくれればよいのですが、さすがにそれも限界があります。

②の企業間比較ですが、これまた難しいものがあります。というのも企業によって選択する会計処理が異なっており、厳密には比較できないということがありえます。そもそも同じ企業というのは存在しないわけですから、企業間の比較というのも一定の限界がある、と思いながら比較しなければなりません。

こうした限界も踏まえながらも財務報告には、情報の質だけでなく比較可能性も重視されます。その背景には、財務報告の比較可能性が一定程度担保されないと投資判断が難しい、ということがあるでしょう。

IFRS Standards bring transparency by enhancing the international comparability and quality of financial information, enabling investors and other market participants to make informed economic decisions.
IFRSは、投資家とその他の市場参加者が、見識のある経済的な意思決定をするために、財務情報の質と国際的な比較可能性をもたらす

IASBが設定するIFRSでは財務情報の質と合わせて国際的な比較可能性も意識されています。投資家にとって比較可能な情報が有用であるのは言うまでもないかもしれません。

その一方で、企業側はどうでしょうか?比較可能性が高まることで何かメリットはあるでしょうか?むしろ会社の情報が比較可能でない方がメリットがありそうです。

・・・と思っていた私にとって面白い論文がありました。

AジャーナルでありAAA、アメリカ会計学会の学会誌であるThe Accounting Reviewに掲載されている論文です。


Justin Chircop, Daniel W. Collins, Lars Hele Hass, Nhat (Nate) Q. Nguyenらによって執筆されたAccounting Comparability and Corporate Innovative Efficiency.

です。 Accounting ReviewのJul2020, 巻 95, 号 4

に掲載されています。

本論文の貢献点は、比較可能な財務情報を提供することが企業にどういったアドバンテージをもたらすのか、ということにあります。

同業他社との比較可能性がどのように影響し、比較可能性が同業他社の革新的効率にどのように影響するかを研究しています。

この論文では、1992年から2006年までの研究開発投資で特許を取得した米国企業のサンプルを用いて、同業他社との比較性可能性が高い企業ほど、イノベーションの決定要因をコントロールした上で、研究開発投資1ドルあたりの特許取得数と被引用数が多いことを示しています。比較可能性の標準偏差が 1 つ増加すると、サンプルの平均的な企業の革新的な効率が約 12%増加すると推定しています。

イノベーションを何で測定するか?は難しいところがありますが、一つは特許取得数、もう一つが被引用数でしょう。この論文ではその二つをフォローしています。

財務情報の比較可能性は、同業他社のリスクの高い研究開発投資のポートフォリオが将来のキャッシュフローにどのように反映されているかの理解を容易にし、対象企業がより効率的な研究開発の意思決定を行うことを可能にすると考えられる、としています。

この論文、モデルや変数の取り方があまりなじみがなく読むのは時間が掛かりそうです。*例えば比較可能性をどのように測定するのか、など。

この論文の革新的なところは、研究開発費の情報開示のインセンティブに着目している、という点にあります。当然のことですが、情報を開示している企業にとって利点がなければ、開示の動機づけは低くなります。

同業他社との研究開発費の比較可能性を高める、ということは結果的に自社における研究開発の情報の比較可能性も高めることになります。つまり、他社の研究開発情報と比較可能なものを提供することを通じて、自社の効率的な研究開発を実現する、というロジックは面白い、です(本当にそこまで言えるのか?はやや懐疑的に思っていますが)。

もちろん、わざわざ外部に報告される媒体である意味はあるのか?なぜそのように言えるのか?用いている研究手法やモデル

などについてはまだ熟読して検討する必要がありそうです。

この結果の面白いところは、同業他社と比較可能性な情報を提供することが自社の経営にとってもプラスをもたらす、という点にあるでしょう。外部に公開されている情報に基づいて、企業が意思決定をどのように行っているかは分かりませんが、外部と内部の情報をインテグレーションする、つまり統合されたものにして、比較可能な情報にすることが、結果的に企業にプラスをもたらす、という結果が他の実証分析でも積み上げられれば、本論文の貢献は計り知れない、といえそうです。

また詳しくレビューしていたいですが、この辺でとりあえず。

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