私は河童だ。#キナリ杯

私は河童だ。
本当は人間なのだが、河童という設定になっている。
一体何がどうしてそうなったのか、と言えば大したことではない。

私は長野県松本市のとある小劇団に所属している。
いわゆる、「地域演劇」と言われる部類の演劇である。
去年の5月くらいから趣味として始めた。

劇団なので、ちょっとしたワークショップもやる。
と言っても、素人が「これは面白そうだぞ?」とせっせか皆に紹介して、取り敢えずやってみようという軽めのノリで取り組む場合が多い。
一応、軽めのノリではあるが皆真剣にやっていることも承知して頂ければ嬉しい。

最近は新型コロナウィルスによる影響で、施設を使った稽古は自主的にやっていない。
1週間に1度、「電話会」と称してLINEのグループ通話をして、お互いの近況報告や雑談をして様子を伺っていた。
我が劇団は学生組もいるので、特にメンタル面でのケアを意識して、ワークショップから遠ざかっていた。

コロナ禍に晒されて幾月が過ぎて、そろそろ演劇の話もしていこう、という雰囲気になってきた。
そこで、私はお手軽にできるワークショップとして、「一言自己紹介」を提案した。
端的に言えば、「自分の自己紹介を1個とだけ言う。それを何周か続けてする」というものだ。

例えば、「私は〇〇です。男です」という一言で自己紹介を済ます。
そして、2周目に「私は〇〇です。独身です」、3周目に「私は〇〇です。彼女いない暦=年齢です」と何周もぐるぐると回す訳だ。
このワークショップの目的自体は「たくさんの情報を出せば伝わる訳ではなく、受け手が気になる単語を出した方がより伝わるかもしれない」というものだが、私が提案したのは単純に面白そうだからである。

劇団員の皆も面白がってくれて、「一言自己紹介」を10周程した。
どういったことを言ったかは割愛しよう。
問題は次に私が提案した、「一言自己紹介-嘘バージョン-」である。

「一言自己紹介」は自分の自己紹介、つまり本当のことを一言で言うというものだ。
これの嘘バージョン、嘘の一言自己紹介をしようというもの。
むしろ、嘘バージョンをやりたかったからの「一言自己紹介」の前振りである。

要領は掴んでいるようだったので、私は意気揚々と嘘を吐いた。
「私は、実は妖怪である」と。
そうしたら皆口々にこう言ったのだ、「え?何、本当のこと言ってるの?」

可笑しくないだろうか?
私は人間だ、間違いなく。
そこは「嘘にしてもあからさま過ぎるでしょ」とか「どこが妖怪やねん」とかツッコむところではないか?

それなのに私が妖怪であることが、本当のことのようなリアクションをされて、逆に私が困惑した。
素人でも演劇集団、完全に私は妖怪になってしまった。
「人間なんだけどな…」と首を傾げつつ、嘘に嘘を重ねていった。

「天狗がライバル」、「妖怪図鑑に載っている」、「母から「川から拾ってきた」と言われた」…
そうして、嘘を重ねていった結果、「河童じゃん」と結論付けられた。
私の方も段々とそのような気がしてきて、「よく分かったじゃん!そう、河童なんだよ!」と受け答えていた。

斯くして、私は河童となった。
少なくとも、某劇団内では河童である。
そうして私が河童になって幾日、私は誕生日を迎えた。

5月生まれの私はまた一つ寿命を縮め、一つ何かを忘れていっただろう。
私が産まれたのは天保2年であるから、寿命が縮んでも実感は湧かない。
歳神様から一つまた歳を承ったのだ、河童として決意を新たにせねばならない。

劇団のグループLINEには皆から「誕生日おめでとう!」というメッセージが送られていた。
大変に嬉しい、有り難いことである。
しかし、何か物足りない気もしなくもない。

誕生日にお祝いの言葉を貰うだけでも本来なら泣いて喜ぶべきところだろう。
しかし、折角に河童になったのにそれだけで終わらすのは勿体ない。
何か遊びを仕掛けたい、とメッセージを見て考えた。

誕生日と言えば、誕生日プレゼントだろう。
しかし、「誕生日プレゼントが欲しい!」と直截にせびるのは厚顔無恥ではないだろうか?
そも、学生組の負担になってはいけない、私は大人なのだ。

新型コロナウィルスの影響で私自身にはそれなりの財力がある。
新型コロナウィルス以前まで散財していた分が、ごっそり残っている。
ふと、1万円札が呪術に使うお札のように感じられた。

閃く、河童の妖術を披露しよう。
1万円札のお札を1人1枚づつ用意する、そして皆には「私に持っていて欲しい物、あげたい物」をLINEメッセージを通して念じてもらう。
河童の妖力をたっぷり吸ったお札は、皆の念に反応して変化する、という寸法だ。

私は誕生日プレゼントをもらえる、みんなは私にあげたい物と気持ちを届けられる。
完全にWin-Winである。
早速、LINEにこのことを皆に伝え、念を送ってもらった。

念のため、遠回しで分かりにくいと感じた方のために、簡易な言い方にする。
つまり、「皆が私に1万円以内で買って欲しいものをリクエストして、私が買う」と言う物だ。
ここの3行は読んだら『忘れる』ように幻術をかけている、忘れたね?

今のところ、反応できているのは3人だ。
他の劇団員は、困惑しているのかもしれない。
いいぞ、もっと困惑すれば良い。

因みに反応してくれた3人はそれぞれ念を送ってくれた。
ピゾフの世界一ダサいTシャツ、Dr.マグザムの姿勢サポーター、ビフィズス菌のぬいぐるみ。
既に術式は完成しているので、後はお札が変化するのを待つのみだ。

ところで全く関係のない話だが、妖術を使う前後でネット通販を初めて利用した。
現物を直接見てから買いたい私としては、画像のみはちょっと不安なのだ。
今回、Amazonと楽天をそれぞれ利用したが、存外簡単に注文と支払いができた。

全く関係ないが、ネット通販の経験になったので、企画して良かった。
企画してというのは、妖術と全く関係がないことなので触れないで頂けると助かる。
「良い経験になったのだな」と流してもらえれば良い。

いや、よく考えればここまで与太話しかしていない。
何が河童だ、アホなのだろうか?
一切合切、忘れてもらった方が良いかもしれない。

ただ面白い文章、と言えるかは分からないが、面白いことはしたよとは言えるかもしれない。
私の主観において、面白いことをした、というだけの話だ。
やはり、須く流してもらった方が良いかもしれない。

以上、長野の河童より。

#キナリ杯

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