見出し画像

飲みイベントに参加したら、脚本を書くことになった。

人生、何がどう転ぶか分からない。
塞翁が馬、何が幸いして、何が禍いになるかも分からない。その時々で判断していくしかない。

2019年5月の私と今の私では、大分違う。
まさかこう転ぶとは予想できなかった。
端的にまとめると、次の1行となる。

飲みイベントに参加したら、脚本を書くことになった。

順を追って話そう。

2019年5月某日、私はだらけていた。
多分、だらけていた。
ここら辺の記憶は定かじゃないから、だらけていたことにする。

私は何かイベントはないか?とFacebookのイベントページを見ていた。
今でもそうだが、片っ端からイベントページの「興味あり」だけを押す癖が私にはある。
イベントに参加できるかどうかは、当日考えるスタイルだ。

ただ、なるべくイベントに参加したい、という欲があった。
当時は、私個人が企画していた「2000円分の楽しいことを教えてください。」を展開していた。
簡単に言えば、その人が考える「2000円分の楽しいこと」を教えてくれたら、私が2000円を支払う企画だ。
話は逸れるので、「2000円分の楽しいことを教えて下さい。」の詳細は省く。

話を戻す。

この日は夜に「上土劇場で何かやる」というイベントの打ち上げ及び決起集会をするとあった。
いわゆる、飲みイベントだ。
「上土劇場で何かやる」は前々から目に付けていたイベントだった。
「何かやる」というのが気持ちだけで突き進む感じが実に私好みだ。
内容をさっと読めば、事前予約なし、場所も近場の松本市、別にママさんでもなくて良し、と行ける感じだったので、さくっと参加することにした。

イベント会場に着いて、ゆったりとイベントが始まるのを待っていた。
すると、私に声をかけてくる人がいた。
別イベント「安曇野朝活」で知り合ったHさんがいたのだ。

Hさんは東京に行ったり来たりして、精力的に活動している方だ。
Facebookでは朝から動いているようなことを書いていたように記憶していたので、夜遅くまでやる飲みイベントにHさんが参加していることに驚いた。
「こんな所で会うなんて、奇遇ですね」など立ち話をし始めたら、ようようHさんの知り合いが加わってきた。

かおりんと名乗ったその女性は生き生きと喋り始めた。
彼女は「上土劇場」の名目から、演劇関係のイベントだと勘違いしていたようだ。
実際は格安で借りられる上土劇場を使って色々な催しをする人たちのイベントなのであるが、確かに「上土劇場」だけではそういう風に勘違いしても仕方ないかもしれないな、とうすらぼんやりと聞いていた。
「かおりん」と言う名前も役者名とのことで、役者として色々と頑張っているようであった。

その時、不意に彼女が私に尋ねてきた。

「ねえ、演劇をやったことないの?」
「はい、生憎演劇はやったことはありません」
「じゃあさ、私が入っている劇団に見学に来ない?」
「良いですね、行きましょう」

という訳で、さくっと見学に行くことが決まった。
詳しい話を聞いてみると、「ぴかぴか芝居塾」という演劇をかじった程度の人や、演劇に興味がある人など、主にはじめての人を対象にした演劇のワークショップがあって、その17期生が「まつもと演劇祭」に出演するために即席の劇団を作った、とのことであった。
劇団の名前は「ぱすてる」、中々に色鮮やかな印象であった。

見学に行った日、あがたの森文化会館で稽古がある、と言われて行ってみた。
文化会館は「旧松本高等学校」の建物を活用している。
指定された部屋は元教室をリフォームしているものであった。

そっと中を覗くと、緊張感を迸っている美人がパイプ椅子で座っていた。
更に奥には色とりどりの女性が5人、座っていた。
緊張感を迸っている女性の脇には、わちゃわちゃしている人たちもいる。
しかし、私を誘ったかおりんが居ない。

実に入りづらい、しかし、入らなければ話にならない。
恐る恐る、声をかける。
緊張感を迸っていた女性は、私に気付くと「あ、どうぞ。好きな所に座って」と軽く声をかけてきた。

今回は見学だけ、と私は考えていた。
これから劇団として活動するとは言え、私は完全に部外者だ。
「ぴかぴか芝居塾」に参加せずに来た人間だから、もし稽古に参加するならば、「まつもと演劇祭」が終わってからだろうな、と高をくくっていた。

かおりんが遅れて参加して、ミーティング、が始まった。
緊張感を迸っていた女性は演出を担当するようで、話し振りからもこの劇団の陣頭指揮をする人、と見受けられた。
話を聞いていると、どうやら今回はどんな脚本を書くか考える会、ということであった。
事前に書きたいアイディアを考えてもらい、発表するということであった。

部外者気取りであった私は、単純に面白そうだな、とか考えて聞いていた。
それぞれ、色々なアイディアを発表してきた。
成る程ね、そうくるか、と1人ふんふん言いながら聞いていた。
1人目、2人目、3人目、と終わり、3人目の方が席に戻るのを待っていたら、私の所へひょこひょこと来て「はい」とペンを渡してきた。
「はい」とペンを渡されたら、発表するしかないか?と考えて、前に出る。

事前に考えていた訳ではないから、昔考えていたアイディアを出した。
「無関心」をテーマにした話で、ばぁーっと話した。
最初はふーん、という感じであったが、「左にしか曲がれない男」が出てきて急に盛り上がった。
キャラ設定が面白かったようだ。
緊張感が迸った女性は、「社会派だね」と言ってくれた。

後から、男性が1人加わって、さて、この脚本を誰が書くか?となった。
そうしたら、「左にしか曲がれない男」が舞台に出したい、という要望が飛び出た。
そう言われると存外にやる気になる。
緊張感が迸った女性が「どう、書ける?」と聞いてきたので「はい、書けます」と応えた。

ここまでノリである。
ノリで脚本を書くことになった。
今まで脚本を書いたことなど一度もないのに、脚本を書くことになった。
人生、何があるか分からない、幸か不幸か、これが始まりである。

その後、緊張感が迸った女性が「みんなのアイディアが面白いから1つづつ取り入れて」という無茶が決まったり。
「脚本を書く人が3人いるから、3人体制で書いていって」となったが、1人は設定はごりごりに作れたが会話が浮かばないと頓挫し、もう1人は私より入るのが遅かったために脚本作りが参加見送りとなって、結句私1人で書くことになったり。
初めて書いた脚本なのに、ガシガシと注文が飛び計5回の書き直しをすることになったり。
「頑張った」という言葉をあまり使いたくない私だが、この件に関して言えば「頑張った」と言って良いだろう。

どうにかこうにか、脚本を書き上げ、舞台に乗せ、上演までこぎつけた。
因みに、私も役者として出ている。
しかも、台詞が2番目に多い役だ。
ワークショップに参加していない部外者に台詞が2番目に多い役、可笑しくないだろうか?

私が脚本を書き上げたのは、私にとっていい経験になった。
今にして考えれば、である。
今の私は「劇団ぱすてる」に所属して、せっせと脚本を書き、どう見ても演劇沼にどっぷりだ。
これで良かったのか分からないが、楽しく、悩ましく、この指は動くことだろう。

新しい物語を書く、その時その時を噛み締めながら。

いいなと思ったら応援しよう!