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1.2 Web取り扱い範囲の拡大とツール・サービスの増加

まずはWebの進化による、Webサイトやスマホのアプリで対応する業務範囲の拡大についてみていきたいと思います。Webは90年代に登場しましたが、最初はWebサイトといえば、Yahooのようなポータルサイトのほかは会社のホームページ(会社HP)や自治体の観光情報サイトなどをはじめとする各種団体の運営する情報サイト、あるいはECサイト程度でした。会社HPもお問い合わせフォームなどはありましたが、その他は本当に静的なWebページだけから構成される情報提供サイトであることがほとんどだったと思います。

2000年代前半 KDDI社HP
2000年代前半 三井不動産 会社HP

それが近年では、会社HPでも各種コンテンツの量と種類も増えてきて、社員のインタビュー動画のような動画コンテンツからホワイトペーパがダウンロードできるようなサイトも多くなっています。また、ホワイトペーパをダウンロードするためにはメールアドレスなどを記入する必要があって、ダウンロード者にはフォローのメールが送られるだけでなく、会社HPへの再訪回数や動画コンテンツなどの視聴実績などもスコアリングして、一定程度以上の興味をもっていると思われるユーザは見込み客としてインサイドセールスに連携して、個別にメールでの案内を送付するなど、広報目的の情報サイトからマーケティング活動の一部を担う存在になってきています。

2010年代になると増えてきたのがSaaS (Software as a Service) です。営業・経理・総務・採用・あるいはプロジェクト管理など、さまざまな業務をWebやアプリで行うことが増えてきました。営業日報を紙に書いて上司に提出するのではなく、営業管理のSFAツール: Salesforceに毎日の営業アクティビティや顧客の反応を入力するとともに、見込み案件の金額・見込み確度などを入力するのが珍しくなくなりました。見積もりや請求書を作成するのも、昔は営業事務の人が作成していたりしましたが、営業がEXCELで作成してプリントアウトした上で捺印してもらう形態になり最近はクラウド請求書作成ソフト: BOARDで営業が作成して見積もり申請・請求申請すると上司に承認依頼が届き承認されると捺印されている見積書や請求書のPDFが出力可能となるようになりました。そのほかにも、人事管理などのバックオフィス向けのクラウドサービス: JINJER、クラウド人事労務ソフト: SmartHR、クラウド会計ソフト: freee、プロジェクトの工程管理・タスク管理であればタスク管理ツール: backlogなどさまざまなSaaSのサービスを利用して業務をこなすのが普通になってきています。これらはみなWebシステムです。

また、さまざまな業務のさまざまなSaaSをみなが使用するようになり、それぞれのSaaSが外部連携するためのAPIを標準的に用意することも増えてくる中で、Web制作会社などでも手掛けることがあるのが、複数のSaaSを連携したシステムやSaaSと連携させたWebサイトの構築、あるいはSaaSでは実現できないUIの入力フォームなどをSaaSの外部に構築してSaaSと連携させるなどの案件です。それらの案件では、営業・会計・生産管理・物流などの各種業務を効率化するためのシステムを取り扱っており、Webサイト・Webのシステムが取り扱う範囲が情報提供・広報・マーケティングからさまざまな業務に広がってきつつあるのがわかります。Web制作会社や開発会社のWeb担当部署が取引するクライアント担当部署も広報から営業・経営管理などさまざまな部署に広がってきています。

SaaSとSaaSの連携 / Webサイトとの連携

 また、Webサイト構築・Webシステム構築を容易とするシステム・ソフトウェアの種類も増え続けています。CMSはだいぶ昔からありましたが、MAやノーコードツールなど、Webの利用が増えるにしたがって、そこでよく使われる機能については、出来合いのソフトウェア・サービスとして製品が提供されるようになってきているということだと思います。

a.     CMS (Contents Management System)
会社HPのページ数や更新頻度が増え続けるのに対応してCMS (Contents Management System) としてWordPress, Movable Type, NORENなど各種CMSソフトウェアが登場しましたが、最近では無料ホームページ作成ツール: WixやペライチなどのSaaS形態のサービスもよく使われるようになっています。

b.     MA (Marketing Automation)
2000年代に登場して2010年代に広まってきたのがMA (Marketing Automation) ツールのHubSpotやMarketoなどです。これらのツールはCMS機能も保有しているので、画面テンプレートをツール上で設定して各画面を制作してしまいWebサイトを作ることもできるわけですが、Webサイト上の各ユーザのアクティビティを集計してスコアリングし、そのスコアに応じたアクションを実行させることもできるのが特徴です。「Webサイト上の資料をダウンロードした人にメールを送る」「3回以上Webサイトを訪問しており資料もダウンロードした人のリストを営業部著のメールエイリアスに見込み客一覧として送る」のようなことが、ツールだけでできてしまいます。

c.      ノーコード・ローコードツール
2010年代の後半から聞くようになったことばが「ノーコード」「ローコード」ツールです。htmlコーディングやプログラム開発しなくてもWebサイトができるツールということなので、CMSやMAも一種のノーコードツールですが、CMSが静的なWebページのサイトを対象としていて、MAがWebサイトでのマーケティングモデルをベースとしたツールであるのに対して、ノーコード・ローコードツールというと、フロントエンドだけでなく多少であればバックエンドやデータベースも構築できたり、スマホのアプリが構築できたり、各種SaaS・クラウドサービスを連携してワークフローを作ったりすることができます。CMSやEC構築ツールのより進化したものも含めて紹介されることも多いです。


Webディレクタとして次のステップをさがしている方たちへ

これからのWeb構築・Webディレクションとして、業務にまで踏み込んでディレクション/プロデュースすること、それが近年のバズワードであるDXにもつながること、そしてWebの進化とともにWeb構築の各種ツール/サービスやSaaSが広がってきていることにしたがって、業務とシステムの両面からWeb構築・運用していく人間が求められていくこと、そのためにどのような知識や能力を身に着けていくとよいかについて解説している「マガジン」です。