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7.1 業務まで踏み込んだWeb構築において付加価値を生むために必要なこと

 これまでの第一章から第六章までにわたって、業務まで踏み込んだWeb構築および運用において必要となってくるタスクやスキルなどについて説明してきました。構築したWebが最終的に付加価値を生むためには、業務として使われ、業務効率を上げることが必要となります。また、そのWebをリリースするまでの期間は短いほど好ましく、費用は安いほど好ましいわけですが、リリースした後も安定してトラブルなく運用されることも業務効率に寄与します。

 業務まで踏み込んだWeb構築を、システム面と業務面の両面の知識をもとに最適なシステムを選択して効率よく行うことは、もちろん高い付加価値を生むプロセスとなります。

 クライアントからシステム要件定義書を提示してもらって、その内容通りのものをきちんと作り上げるだけでなく、業務要件を規定する段階から加わりWebの仕組みやシステムに関する知識をもとにクライアントとともに業務要件定義においてパフォーマンスを発揮するためには、少なくとも当該業務分野についての一般的な知識はもっている必要があります。たとえば会計業務に関するシステム化をするにあたり、クライアント企業独自の事情や要件はもちろんクライアントからヒアリングする必要がありますが、会計に関する基本的な考え方や用語などもわからないようでは業務要件定義段階には加わるのは難しいでしょう。
 
 また、当然Web構築に関する知識/経験は必要となるわけですが、Webディレクタとして特に要件定義段階で重要となるのは、どのようなシステム実現手段がよいか (一からシステムを開発するか、CMSなどを利用するか、SaaSを利用するか、複数のSaaSを組み合わせるか等)というところから始まり、具体的な実現手段としてのツールやSaaSとしてどのようなものがあってどのような用途にはどのように使えるかという知識をもっていること、ユーザ操作としてどのタイミングでどのような画面を設けてどのような操作をしてもらえばよいかというUIについての知見があること、業務要件を満たすユーザI/Fやシステムとしての処理を実現するためには、どのようなデータ項目が必要で、どの処理でそれらのデータ項目にアクセスできる必要があるので、DBからどのようなサーバ構成が必要となって、APIとしてどのようなものを開発する必要があるかなどのレベルの検討が行える能力が必要となります。

 プログラム言語でプログラム実装できる必要はありませんし、サーバのOSやミドルウェアの設定ができる必要もありませんが、Webやシステムがどのように仕組みとなっていて、どのような機能を実現するためにはどのような技術やツール・サービスを利用するとよいか判断できるレベルの広範囲なWebからシステム・技術についての知識が求められます。
 
 基本的には、各種業務についての知識とWeb/システムに関しての広範な知識を両面でもてるようになると、高い付加価値を出せるようになるかと思います。また、より高い付加価値を出せるようになるには、個人のレベルだけでなく組織のレベルでの活動まで必要となってくる面があり、第5章以降の内容はそのような組織レベルでの付加価値を高めるために必要となる内容を記載しています。

 このような業務をこのようなシステムを使って実現できるというパターン化してソリューションという形にして営業的にアピールするようにして、同じようなパターンの案件をより繰り返しこなすようになれば、そのパターンについてのさまざまなバリエーションも含めて知見が蓄積し、チームとしてもクライアントに対して案件のごく初期段階からいろいろな質問をされても即座に実現するシステム構成イメージまで含めて回答できるというパフォーマンを発揮できるようになっていきます。

 また、業務に使われるシステムは安定的に運用され続ける必要がありますが、何年という期間にわたって、システムのさまざまな面が改修なども繰り返し、チームメンバも入れ替わりながら安定的に運用し続けるためには、ドキュメントの整備・管理から新規メンバへの導入手順の工夫まで必要となります。

 さまざまな面で要求されるところがありますが、Webサイトのリニューアルや運用などもひととおりはこなせるようになったWebディレクタとしての経験もある程度積んだ人たちが次のステップとして目指してもらうひとつの方向として十分魅力的な専門性ではないかと思うので、よろしければご検討ください。


Webディレクタとして次のステップをさがしている方たちへ

これからのWeb構築・Webディレクションとして、業務にまで踏み込んでディレクション/プロデュースすること、それが近年のバズワードであるDXにもつながること、そしてWebの進化とともにWeb構築の各種ツール/サービスやSaaSが広がってきていることにしたがって、業務とシステムの両面からWeb構築・運用していく人間が求められていくこと、そのためにどのような知識や能力を身に着けていくとよいかについて解説している「マガジン」です。