「これからのWeb構築・Webディレクション」サマリ
Web制作・Webディレクションというと、サーバなども関係はしますがどちらかというとクリエイティブな分野としてスタートしました。既存のマスメディアに存在した紙面や放映時間の制約や制作締め切り後の修正ができないなどの制約をなくし情報発信をマスメディアだけでなく個別の企業や個人にも可能にする新しい技術を活用してWeb・ネットはどんどん広がってきました。
このWebという新しい技術を活用して、コンテンツ企画・記事ライティングやグラフィックデザインなどの既存メディアにも存在するクリエイティブ作業とともに、Webに特有の新しいクリエイティブとしてUIデザイン・UI設計も進化してきました。
パソコンが普及しスマホをみなが持つようになり、Webがカバーする領域もどんどん広がってきました。ネットショッピングだけでなく、Uberで食事をもってきてもらったり、ライブのチケットの購入だけでなく入場するときにもQRコードを表示するようになったり、美容院や病院の予約など、さまざまな業務をパソコンやスマホを使ってWebを操作するようになりました。
それにともないWebサイト構築も単純な静的なWebページを制作するだけではなく、なんらかシステム開発がからんでくることも多くなるとともに、Canva・WixやShopifyなどのクラウドのサービス (SaaS) で構築してしまうことや、基本的にはSaaSで構築しつつSaaSに用意されているAPIを利用してほかのSaaSと連携したりカスタマイズするようなWeb構築がどんどん増えてきています。
一方で、Web/ネットの普及と浸透とともに、Web制作といっても会社HPや製品サイト・キャンペーンサイトやランディングページの制作などにとどまらず、社内の営業業務・承認業務・プロジェクト管理業務・会計業務などの各種業務をその業務分野向けのSaaSをベースにしながらWebフォームでUI拡張をするなどの、業務関連のWeb構築なども増えてきています。
関連するトレンドとして、スマホのアプリやWebサイト・ECサイトなどをプログラミングやhtmlなどがわからなくても簡単に作成することができるというCanvas, Wix, Shopifyなどの「ノーコードツール」がどんどん登場してくるとともに、企業内の総務・人事・営業・マーケティング・プロジェクト管理などのそれぞれの業務用のSaaSもさまざまなものが登場してきています。
ひと昔前であれば何千万かの費用をかけてシステム開発しないとできないような業務システムが、できあいのSaaSを利用することで可能になったり、定期購入のECサイトもShopifyやBASEなどを利用することで以前よりずっと簡単に構築することができるようになってきています。
もちろん、できあいのSaaS・ツールを利用するだけではなく、一部はカスタマイズしたりシステム開発部分も追加するような形態で実現される場合もよくあるわけですが、このようなWeb構築に求められる内容の変化は、Webディレクタの業務として求められる業務内容・スキルの変化にもつながってきています。
マーケティングをはじめとする業務要件として求められる内容とUIやシステムの両面に関する知見をもとに、どのようなSaaSを利用するか、どこをシステム開発するか等、どのような実現方法とすればどこまでの業務要件を満たすものができるのか、案件の提案段階・初期段階にどこまで詳細に描くことができるのかが今後ますます求められてくると考えています。
いちからシステム開発するのか、要件にマッチしたSaaSで作れてしまうのか、ベース部分はSaaSで対応するもののUI拡張するためにSaaSの外にWebフォームは開発して作るのかなど、システム実現形態によって必要となる予算・期間が大きく変わります。一方で、概要要件のみをヒアリングしてその要件であればあるSaaSで対応できると判断してプロジェクトを開始したものの、詳細を詰めていく中でSaaSではどうにもならない部分がいろいろ必要であることがわかるとプロジェクトが破綻してしまう場合もあります。
そのために案件の提案段階・初期段階にどこまでクライアントにヒアリングできるのかがベンダとしては重要になりますが、
詳細までヒアリングできるかどうかは、構築しようとするWebで対応する業務についての一般的な知識をどこまでもっているかが重要になります。B to B マーケティングのためのWebであれば、B to B マーケティングであればどのようなプロセスが一般的に必要となるかがわかっている人間であれば、その知識をベースにクライアント企業に特有の業務形態や要件をヒアリングできても、B to B マーケティングにはあまり詳しくない人間であればやはりヒアリングできる内容も限られたものになりがちです。
B to Bの製造業クライアントの受注決裁フローに原価情報を取り込んで期待利益や原価構造などを画面に表示させるようなシステムを構築する場合であれば、一般的に製造業の原価というとどのような科目を取扱い、各原価項目はどのように計算するものかもともと知っているか知らないかはヒアリングできる範囲に違いを生みます。
Web担当者(Webディレクタ)に求められる能力が「業務理解」(マーケティング・営業や会計などの各種業務に関する理解) の面でより求められるとともに、「システム」の面でもより求められるようになるわけですが、もちろんUI設計やWebデザイン・HTML制作に関する知見が不要になるわけではなく、Webというものづくりが好きなWeb担当者 (Webディレクタ) が一生の仕事としてWebディレクションを選ぶに足る内容に進化しつつあるととらえてほしいと思っています。
Webが企業のマーケティングをはじめとするさまざまな業務を担うようになる面が強くなってきて、WebディレクタもWebサイトを作るだけでなくそれらの業務にまで踏み込んだ役割をになうことになると、WebディレクタもWebサイトを構築・リリースして終わりではなく、必然的に継続的な安定運用も責任範囲に含まれてくるので、運用や体制構築などに関することも対応が必要となってきます。
外部に一部の業務を委託する際に、特に初めていっしょに仕事をする委託先との間で注意すべき点、ひとつの開発案件でのドキュメント管理とはまた異なる視点が必要となる継続的な運用がされるシステムのドキュメント管理などについても本マガジンではふれています。また、何年も運用していくシステムの場合、担当するメンバも入れ替わっていくことにも対応する必要がありますが、ある程度以上の規模のシステムとなった場合に、初期構築にかかわっていなかったメンバが既存機能の仕様をどのように把握していくのかなども安定してシステムを運用していくには重要なポイントのひとつです。
デザイン、技術などの特定の専門分野のエキスパートになるというよりは、誰かが必要としているもの・それを作ることによってクライアントやユーザが喜ぶものを仲間と作っていくことが好きで、新しいものがこれからも次々と生み出されていきそうなWeb/ネットの世界が好きな方たちへ。
まずはWebやUI設計・システム開発の知識はさらに蓄積していくことはやめず、新しいものの吸収を続けるにしても、Webによって改変しようとする対象の業務側にも興味を広げてもらい、より高い付加価値を生める存在を目指してほしいと思います。
また、より高い付加価値を生めるようにと考えると自然と一個人でできる範囲の限界を意識するようになり、組織としてより高い付加価値を生むものを作る必要性にも直面していくと思います。そして、組織としてより高い付加価値を生む活動をしていけば、Webがより付加価値を生む仕組みとなるための新しいサービス・ツールや仕組みについてもいろいろ考えるようになるはずです。安定した運用を提供できる体制や仕組みの構築やソリューション化などの商品化プロセスについても同様です。
困っているクライアントを助けて喜んでもらえる仕事ももちろん充実感を感じられてたのしい仕事です。業務まで踏み込んだWeb構築にも取り組んでもらうとともにWebという世界を一段レベルアップするような活動にも興味を感じていっしょにやりというという方はぜひいっしょにやっていきましょう。
Webディレクタとして次のステップをさがしている方たちへ
これからのWeb構築・Webディレクションとして、業務にまで踏み込んでディレクション/プロデュースすること、それが近年のバズワードであるDXにもつながること、そしてWebの進化とともにWeb構築の各種ツール/サービスやSaaSが広がってきていることにしたがって、業務とシステムの両面からWeb構築・運用していく人間が求められていくこと、そのためにどのような知識や能力を身に着けていくとよいかについて解説している「マガジン」です。