会社HPのアクセス解析 ~仮説と検証~
会社HPは、LPやECサイトなどと比較して、サイトを利用するユーザ層 (利用する目的) としてさまざまな人たちがおり、当該企業の業態・規模などによってもサイト内容がかなり変わってくる面もあります。
そのため、会社HPにはさまざまな画面タイプ・UIのものが存在していて、サイト設計の幅も広いため、仮説としてのサイト設計の検証作業としても、さまざまな分析を組み合わせてさまざまな分析を行い、ユーザ動向の確認を行うことが多くなります。
また、サイト内のコンテンツカテゴリの制作が企業内の担当部門別となることが多く、それに対応して担当部門別に求められるアクセス解析の内容が異なる面があります。会社HPのアクセス分析の特徴・具体的な内容を説明するにあたり、Webサイト全体としての検証を広報部門で求められることが多い分析内容として、製品紹介ページ関連での検証としてよく求められる検証作業を製品部門としての分析内容として、また採用ページ関連でよく求められる検証を採用部門としての分析内容として紹介していきます。
1. 広報部門としての分析
広報部門は当該企業の会社HP全体の責任部門という面があり、アクセス解析/アクセス分析に求める内容としては、Webサイト全体のメディアとしての価値、その価値のトレンド (増減) 、サイト全体としての構造・UI設計などの検証、CMSなどの導入したシステム・ツールの検証などが求められることが多いかと思います。
a. 会社HPのメディアとしての価値・パフォーマンスの検証
会社HPというWebサイトは当該企業が自ら運営する、社外に情報発信することのできるメディアです。メディアとしての第一の価値はやはりどれだけの人に見てもらっているのかという「リーチ」となります。従って、広報部門が毎月社内で報告する会社HPの実績報告としては、まずは会社HP全体としてのページビュー数、訪問者数などは必ず指標として含んでいます。
会社HPであれば多くの場合には、広告による流入よりも自然流入の割合が高い場合が多いですが、特定期間のみの広告による流入が一定以上の割合を占めるような場合には、自然流入と広告による流入を分けてWebサイトのリーチを評価することも必要となります。
また、リーチは流入元別の分類検証として、広告と自然流入のほかに、SEO施策を行っているような場合にはSEO施策対象の製品名キーワードでの検索からの流入数などを確認するようなこともありますし、リーチはボリュームをみているので、増減を確認するために月次での推移をモニタすることも多く見受けられます。
b. Webサイトとしての構造・UIの検証
会社HPというWebサイト全体としての構造、ユーザインタフェースの検証は、新規構築あるいはサイトリニューアルから一定期間経過後にはきちんと行うべき検証作業です。たとえば、下記のような事象が発生していれば見直しを行う必要があります。
[サイト構造の見直しが必要な例]
さまざまな情報を掲載していて、ページ数も多くなることの多い会社HPの場合には、情報をグルーピングしてカテゴリ分けした上で、トップページからはじまる階層構造のサイト構造を構築することが多いと思いますが、場合によっては、情報のグルーピングの仕方がわかりにくい場合があります。
そのような場合には、あるカテゴリ内のページを遷移した後にトップページに戻ったり、あるいはグローバルナビゲーションから他のカテゴリに遷移する動きが多くなったりします。アクセス解析の結果、このようなユーザのサイト内遷移が多い場合にはサイト構造・情報のグルーピングの見直しが必要な場合があります。
[ナビゲーションの見直しが必要な例]
Webサイトにはどのような画面でも共通に設置されているグローバルナビゲーション、あるカテゴリ内のページだけに設定されているサブナビゲーションなど、各種のナビゲーションがあります。ナビゲーションはWebサイト内で目的の情報に到達するために重要な要素です。特定のカテゴリ内でのユーザ遷移として、カテゴリトップに戻ったり、サイトトップに戻るような動きが多い場合には、そのカテゴリ内のサブナビゲーションの見直しをしたほうがよいかもしれません。
また、関連ページへの導線 (ナビゲーション) がわかりにくい (目立たない) ために、あまりクリックされていないような場合には、その関連ページへのナビゲーションの設置場合の見直しやデザインの見直しをした方がよい場合があります。
なお、単純にナビゲーションに掲載している「ラベル」が文言としてわかりにくいだけの場合もありますので、そのような場合にはラベルの文言の見直しによりユーザ遷移が変わることもあります。
c. CMSなどの導入したシステム・ツールの検証
会社HPはサイト内ページ数が1,000あるいは1万というサイトもよくありますが、どんどんページが蓄積もして増えていくものですので、CMSのようなツールを導入して運用している場合も多いと思います。
CMSでサイト運用をしている場合、各部門の担当ページの追加・更新は担当部門の人間がCMSを操作して行うにしても、ページテンプレートの用意・設定は技術的なこともわかる必要がありベンダに依頼していることも多いのではないでしょうか。
会社HPに導入しているCMSはひとつであり、ページテンプレートの用意・設定を委託しているベンダも一社となることも多いかと思いますが、そのベンダへの窓口としてはまとめて広報部門となることになります。サイトの構造・UI・ナビゲーションなどだけでなく、CMSのページテンプレートとして適当なものがないがために、適切なページレイアウト・ページ内容を作ることができなかったことによる、ユーザの離脱・伝えたかった情報が十分に訴求できなかった事象などもアクセス解析では意識して発見しようとすべき内容かと思います。
サイト設計時の仮説をもとに、サイト内のユーザ遷移についての想定があれば、アクセス解析ツールの経路分析などの機能によって、その想定通りの動きをユーザがしているのか、確認していくことにより、検証していくことができます。
2. 製品部門としての分析
会社HPの製品やサービス関連ページのアクセス解析について、サイト設計結果としての仮説の検証という観点を中心に解説していきたいと思います。ここでは、B to B の製造業の会社HPで製品ページの目的としては、見込み客に対して当該企業の各製品の内容や特長・他社と比較しての優位性などを理解してもらい、お問い合わせをしてもらうことである会社HPを例として説明していきます。
狙い通りに各製品の情報を理解してもらいお問い合わせをしてもらうところまでどのように機能しているのか検証するという作業は、大きくは、「どれだけの人が会社HPの製品ページを見にきてくれているか」と「製品ページを見にきてくれた人がどれだけお問い合わせをしてくれているか」に分けて考えることができますので、まずは前者のアクセス解析による検証作業についてみていきたいと思います。
a. どれだけの人が会社HPの製品ページを見にきてくれているか
サイト設計が影響を与えるのは「製品ページを見にきてくれた人がどれだけお問い合わせをしてくれているか」であるわけですが、目的としての製品内容を理解してもらいお問い合わせをしてもらう数を増やすことを実現するためには、前提として製品ページを見にきてくれる人の数が十分にある必要があり、訪問者の数がどれだけで、その内訳としてどこからどのような人が流入しているのか確認することは重要です。
製品お問い合わせ数 = 製品ページ訪問者 × 訪問者コンバージョン率
B to B の製造業の会社HP内の製品ページへの訪問者ということであれば、一般的には下記のふたつに分類できると思います。
1. 当該企業の製品について多少なりとも興味をもっていて、製品情報を確認するために当該会社HPにアクセスしてきたユーザ
[入口ページ] トップページなど
2. ある製品/製品カテゴリについての情報をネットで収集していて、検索エンジンからたまたま流入してきたユーザ
[入口ページ] 製品ページ
[参照元] 検索エンジン
[検索キーワード] 製品名 / 製品カテゴリ名
[新規/再訪問] 新規
上述の1. と2. は、製品ページへの訪問者を、会社HPのSEO効果による訪問者とそれ以外に分類しているととらえることができます。2. は、新規の見込み客を増やすという観点では重要ですが、1. の方が当該企業について認識しているので確度が高い見込み客を多く含んでいるともとらえることができます。
イベント出展などを行い、多数のお客様にパンフレットなども配布して製品説明なども行っていれば、その後、そのイベントに来ていた人の中から当該企業の会社HPに訪問してくれる人も増えると思いますが、そのような人は上述の1.に含まれてきます。
会社HPのWebメディアとしての新規見込み客の獲得についても重要視していて、SEO施策やリスティング広告の出稿など行っているようであれば、その施策の検証としては、上述の1.は除外して、2.だけの流入量をモニタすることは重要です。
b. 製品ページを見た人がどれだけお問い合わせをしてくれているか
いわゆるコンバージョン率を検証する作業ともいえますが、単にコンバージョン率が低いからよくない、想定より高いからよいだけでなく、製品についてのどのような内容を見込み客に伝えると問い合わせしてくれる確率が上がるだろうという仮説をもとに、その仮説のとおりにユーザが製品ページを遷移してみてくれているかをアクセス解析により検証することが重要です。
もちろん、製品ページとして大した内容を掲載もしておらず、サイト設計時にどのような内容まで伝えると問い合わせしてくれる確率が上がるだろうという仮説も設定していないのであれば、検証しようもありませんし、検証する意味もありません。
当該企業にとって重要な一部の製品のみについては、製品ページも増やして、見込み客に訴求する内容を掲載しているのであれば、そのようなページも読んでもらっているかどうかを問い合わせページに到達する手前の中間ゴールとして置いた上でコンバージョンステップの各段階までの到達数をモニタすることも有意義です。
また、コンバージョンステップをみるだけでなく、当該製品としての製品ページトップからの経路分析を行い、各ページからどれだけサイト離脱していて、どのページにどれだけ遷移しているのかを細かくみていくことにより、あるページについての画面レイアウトやデザインについての要修正箇所をみつけることもできるので、コンバージョンする割合が低い場合には、どのステップで落ちている割合が高いかをおさえた上で、さらに細かいユーザの動きを経路分析などで確認していくことにより仮説の検証を行うことができます。
3. 採用部門での分析
会社HPの中でも、採用関連ページは独特の面があります。別ドメイン (サブドメイン) の別サイトとして構築することもありますが、アクセスしてくるユーザが新卒サイトであれば就活している大学生というユーザ層が絞られていることなどからも会社HPのほかのコンテンツとは別個の観点でアクセス解析することも多いのではないかと思います。
新卒採用とキャリア採用でまた掲載内容で異なる場合もありますが、一般的により力を入れて用意されることの多い新卒採用のWebサイト/Webページについて考えると、就活学生が確認したいと考える下記のような内容を含めることが多いと思います。
・企業理念や大事にしている価値観などのどのような会社かの紹介
・会社としての事業領域の紹介
・どのような職種がありそれぞれの職種でどのような業務を行っているか
・各職種の社員インタビュー (実際の社員の生の声)
・福利厚生その他の職場環境や働き方に関する諸制度
・セミナー日程や応募要項など
採用においては応募の数を増やしたいということはありますが、できれば会社として採用したいと考えている人物像 (能力・価値観・志向性など) にマッチした人に限定してほしいという面があります。
きちんと企業理念や会社としての価値観を説明しているページや社員インタビューなどのページもみてくれているかなどを確認するのであれば、採用関連ページの各ページのアクセス数をアクセス解析ツールで確認することになると思います。
もちろん採用ページトップより下層のページにいくほど、一般的にアクセス数/ページビュー数は減っていきますが、想定以上にアクセス数が少ないページがあれば、採用ページトップからそのようなページまでの各ページでの経路分析を確認して、それぞれのページからサイト離脱したりほかのページにどれだけの割合で遷移しているのか、ユーザの動きを確認していくとよいでしょう。
採用ページをどのように見てほしいというサイト設計の仮説があれば、想定している各ページからほかのページへの遷移の割合を確認していき、どこのページからの遷移が想定とは異なるから、上述のような想定以上にアクセス数が少ないページにはユーザが到達していないのかがわかってきます。
また、採用のセミナー申込や応募申し込みをしてくれたユーザが、採用関連ページのどのようなページをみてくれている人が多いのかという傾向を確認することにより、どのようなページが効果的で、別のどのページは応募/申込につながっていないなどということを検証することが可能です。
Google Analyticsであれば「行動フロー」 (GA4であれば経路データ分析) 機能を用いれば、終点として申込完了ページを指定して、そこに到達するまでのユーザの動きをみていくことができます。