ツアーガイドの思い出 第五話
それは、回答にはもう少し時間が欲しい、というものだった。
無論である。そもそもまだ2週間ほどしか経過していない。
焦らせてしまったか、と申し訳ない気持ちになった。
しかしそうではなく、社長のご家庭の背景が理由としてあった。
お子さんのお誕生日を間近に控えていて、今週末に自宅でパーティーを開催、その際お子さんにサプライズとしてディズニーへ行く、という報告をするためであった。
そこからじっくり時間をかけてご家族で話し合い、最終的な内容を決めてご連絡をしたいという社長の思いを伺ったぼくは、自然と目頭が熱くなった。
なんて素敵なサプライズだろう。
お子さんはディズニーが大好きで、ご自宅でよく映像作品を観ていらっしゃるそうだ。
家族旅行というだけでもテンションが上がるのに、目的地が、普段自分が身近に感じているディズニーの世界を再現したテーマパークと知ったら、、、その喜びの度合いは想像に難くない。
「もちろんです、お時間をかけて、ゆっくりお決めください。もしご希望、ご不明点などがあれば引き続きいつでもご連絡ください。」
そう答えて通話を切った。
これは絶対に1ミリも失敗ができない旅行となる。
この時、ぼくはかつて娘と2人で初めてディズニーへ行った時のことを思い出していた。
娘が3歳となり、概ね意思疎通ができるようになったタイミングでディズニーへ行こうと決めたあの日。
半ば思いつきでチケットを買い、夢膨らませて現地へ赴いたあの日。
レストランはどこもかしこも混雑し、一部の店舗では「事前予約が必要です」と言われ、アトラクションは娘が怖がってほぼ乗れず、パレードも音が大きく怖がってしまい、やむなくキャプテンフックスギャレーにてやっとのことで買ったピザを食べ終えて、シンデレラ城前のスペースや花壇の周りを娘と歩いたり走ったりして遊んで終わった。
「、、、これ、公園にいる時と過ごし方ほぼ変わんなくねぇ!?!?」
混雑状況もロクに調べず、レストランの事前予約(PS)も知らず、アトラクションやショー・パレードについての予備知識も殆どないまま、当時のぼくは戦地・舞浜へ赴いたのであった。
なめてかかっていたのである。「まぁなんとかなるだろう」と思っていた。
完全に甘えである。舞浜はそんなに甘くはない。チュロスは甘かった。お前は何を言っているんだ?
「自分がディズニーへ行きたいからって、年齢を重ねていない子を引き連れ回して、自己満足したいだけなのではないか??」
帰り道、本気でそう思って心底凹んだものだった。
いや、実際そうだったのかもしれない。
あの時は「アナとエルサのフローズンファンタジー」を開催している時だった。「アナと雪の女王」をDVDで何度もかじりつくように観ていた娘を、少しでも喜ばせてあげようとした思いが、確かにあったのに。
自分が原因で、ほぼ何もできずじまいだった。
夕方暗くなった帰り際、入園ゲート前で娘の写真を撮影した。娘はやや疲れた表情で、しかし笑っていた。今でもあの写真を見返すと切なくなる。
「もうこんな思いはしたくないし、娘に楽しんでもらえるようにしなければならない。」あの時そう誓ったのである。
あの日あの時から、ぼくのディズニーインパークに対する熱意と思いは芽生えた。
公式ホームページを隅から隅まで読んだ。
疑問が浮かんだらすぐにFAQへ飛び、そこでも分からなかったら問い合わせをした。当時は電話でもすぐに対応をしていただけたから助かった。口頭でないとどうしても伝わらないニュアンスというものがある。
よく足を運んでいらっしゃるブロガーの皆さんの記事を熟読した。
何度も何度も頭の中でイメージトレーニングをした。
どんなルートで回る?ココがダメだったら?娘が嫌がったら?この時間に間に合わなかったら?
娘は今と比べてはるかに小さい。イレギュラーなことが起きて当然のスケジュールをいくつも立てたのだ。
そう、ここまで読んでくださった方々はこう思うに違いない。
それ、当たり前のことじゃね???????
おっしゃる通りです。はい。
ぼくは襟を正した。
絶対に、確実に、ご家族の皆さんが楽しいと感じていただける日にする。
そのお手伝いを、する。
何度かのやり取りの後、社長から正式に回答をいただいた。
きっかり1ヶ月後のことであった。
ーつづくー
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