ツアーガイドの思い出 第十三話
ー約二ヶ月前ー
「並ぶなら、端がいいね。端の方が人があんまりいないことの方が多いから。もちろん、行く日の状況を見ないといけないけど。とにかく、今日ここで大切なことは、『どれだけ早く入園ゲートを通るか』ってことだから。ゲートを通らないとパスが取れないからね。端の空いている列でどこの列に並べばいいか?、、、うーん、それはもう、賭けみたいなものだね。その時は一人や二人しかいなくても、途中から合流して人数が増える場合があるから。見極めが難しいんだ。まぁ、一人で待っていて、大きなシートを広げている人なんかは避けた方が無難かな。ただそこはもうほんと、運。ただ自分で決めて、祈るだけだね。」
ー現在ー
プレビュー日の入園前に交わしていた会話を、娘は覚えていた。
並ぶべき位置。並ぶべき列。
ぼくが言っていたことを思い出し、今、この場における最適解を出してくれた。
「ここでいいよね?」
「問題がなさすぎる!本当にありがとう!」
「娘さんがまっすぐにここに来てくれたよ!あれだけの説明でよくわかったね!!」
「あぁ、まぁ、前にお父さんが言ってたんで。大丈夫す。」
カッコよすぎかよ娘、、、、、、、
なんかそのスカした感じ、スラムダンクの流川みたいだな、、、、スラムダンク、読んだことないけど、、、
娘はまんざらでもない表情でぼくが時間潰しにと持参したiPad miniを触り始めた。
もう不安要素はほぼない。
手荷物検査で順番がブレることも殆どない。あっても二〜三組分後ろになるぐらい。最悪前に並んでいらっしゃる方々の入園手続きが遅れてもなんとかなる範囲内であることは間違いない。
これは勝つ。勝てる。
安心してください。入れますよ。
未来は安村さんのごとく、とにかく明るい。
そこから奥様とお子さんがいらっしゃるまで待機列で時間を過ごした。
幸いにも並んだ位置がちょうど日陰にあたる部分で体感温度は予想より低かった。
昨日のご家族で過ごしたお時間のお話や、今日一日のおおよその予定の最終確認と、アプリ操作の反芻。
合流時間となり、お二人が無事に到着。
いよいよ手荷物検査の時間直前となった。
ここまで社長と我が娘には多大なる労力を強いてきてしまった。
ここから先は、お待たせしない。
手荷物検査を終え、入園ゲート列へ並び直す。
前から三番目。変わりはない。
「うわぁ、なんだか緊張してきちゃいました、、、!」
奥様が呟く。自分もです。やばいです。
「大丈夫です、自分がなんとかしますので。」
「KAZさんなら大丈夫!信じてるから!」
開園1分前。
ここまで長かったようで短かった。
思い返せばひょんなことから決まった今回のガイドツアー、こんな最善な状態で昨日と今日を迎えられたことが奇跡のようなものだ。
開園30秒前。
仕事でのお付き合いが長い社長、そしてそのご家族の思い出づくりの一翼を担うことができるなんて、なんて光栄なことだろうか。
なんとしても、今日も笑顔のままで終わってほしい。悲しい出来事は、起こらないでほしい。
開園10秒前。
アプリセット、確認。
QRコード、確認。
スキャンは手早く。入場は慌てずゆっくり一人ずつ。
5、
4、
3、
2、
1、、、入園開始ッ!!
ぼくたちは順番に、シーの入園ゲートを通った。
通行の妨げにならぬよう柱の後ろに一時停止し、尋常ではないスピードでDPAをタップした。
アナとエルサのフローズンジャーニー、17時枠〜19時枠が、空いていた。
『もらったぁーーーーーーーーーーーーー!』
心で叫びながら五人分のパスの取得手続き。
確定を押す。カード決済画面、通過。
プラン反映。
17時45分〜18時45分枠、無事、獲得。
まだだ。まだ終わっていない。
ロイヤルバンケットでの夕食プランを押さえなければならない。
すぐにモバイルオーダーをタップし確認に入る。
空いていた。
しかも、フローズンジャーニーを確保した時間帯に近いものだった。
17時40分〜17時50分枠、確保。
手早くメニューを全員分選択し確定。プラン反映!
どっと安堵感が広がった。
よかった。本当によかった。
バンケットでのお食事時間がやや限られてしまうが、御の字だ。
あとはフローズンジャーニーのシステム調整がパスの有効時間中に起こらない・起こっていないことを祈るだけ。
そしてラプンツェルのランタンフェスティバルのスタンバイパスを、新エリア滞在時間が長くなるよう調整して取得すればよい。
アプリで確認をしたところ、どうやら新エリアのアトラクション搭乗時間終了の二時間後まで滞在時間は有効のようだった。それならば、15時あたりで獲得をすればいいだろう。時間選択はできないようだから、リロードを繰り返してちょうどいい時間にすれば問題ない。
プライオリティパスは午前中、クックオフの時間前で一つ取り、トイストーリーマニアのDPAは取得可能時間になったら昼過ぎで取ればよい。
ピーターパンや他の新エリアレストランはとれたらラッキーぐらいの認識で。エントリーはトゥルった。ドンマイ。
「安心してください、取れましたよ!」
、、、まぁ、こうは言ってはいないが、ぼくはプラン取得の結果を皆さんへご報告した。
社長はガッツポーズ、奥様とお子さんは笑顔。
「新しいエリアに入れるって!アナ雪にも乗れるって!」
一つの戦いが終わった。
娘の咄嗟の判断無くして、この結果は得られなかった。
ぼくはもうこの先、娘に頭が上がらないだろう。今でもこの時のことが話題に上がると娘に深く感謝する。
さて。そうこうしているうちに、プライオリティパスでタートルトークを取得できた。まだ移動には余裕がある。
「ではゆっくり参りましょう、目的地まで、諸々ご案内します!」
昨日と同じく、素晴らしい幕開けと共にこの日が始まった。
「今日一日を、心ゆくまで楽しめ。」
晴れ渡る舞浜の空が、そう語りかけてきたような気がした。
ーつづくー
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