ツアーガイドの思い出 第十五話

ラプンツェルの歌声がかすかに聞こえる塔の近くを歩く。
お子さんが希望していたランタンフェスティバルに、いよいよ搭乗する。
エリア入場制限をしているためか、スタンバイでも待ち時間はわずか10分だった。

待ち列から下船まで、ぼくはただ後ろで黙っていた。
目線の流れや体験して感じること、見ること、発見することは、完全にその人の主観であるべきだと思ったからだ。前日こそ多少なりとも補足をしながら同行していたが、この時間ばかりは見守ることに専念した。
体験者はただ、未体験の方のリアクションを見守りながらアトラクションの素晴らしさを再体験する。それ以上でも以下でもない。
ご家族の皆さんは終始驚きや感無量といった表情を浮かべていたように思う。娘も再び訪れたアトラクションを楽しんでいたようだ。

「お疲れさまでした!それではちょっとここでおやつの時間にしましょう!」

ぼくはこの時までにスナグリーダックリングのモバイルオーダーの空き枠を確認していた。
プレビューの時とはまるで正反対で、モバイルオーダー枠はたくさん空いていたので確保するのに労力は全くと言っていいほどかからなかった。
ラプンツェルの世界に浸った後も、スイーツ各種とドリンクを口にしながら引き続きこの世界観を味わっていただきたかった。

「さらに朗報です!おやつの後、ピーターパンも乗れますよ!」

なんと信じられないことに、ピーターパンのネバーランドアドベンチャーでさえもDPAの取得ができたのだ。
ランタンフェスティバルに乗船中、下船直前にアプリを開いて確認をしたらすんなり取得できたのであった。
後々知ったのだが、この日はたまたま夕方頃までDPAの発券をしていたらしい。運がいいにも程がある。
ご家族も、ひいては娘もとても喜んでくれた。

スナグリーダックリングでのスイーツタイムの後、近くの隠れミッキーを探しながら移動、フック船長の海賊船の見学をした。
様々な場所で写真撮影、多くの仕掛けを堪能していると、あっという間に搭乗時間となった。

個人的にはピーターパンのアトラクションはぜひ体験していただきたかったので、この時最もテンションが上がっていたのは自分であったことは間違いない。
最初のもっとも歓声が上がるあのポイントでは、もれなく皆さんが驚きの声をあげていた。お子さんは初め少し怖がってしまっていたが、ラストのパートではとても喜んでいる様子が窺えた。

「これ、大人の方が感動しない!?」

社長が、ぼくがまさに言いたかったことをおっしゃって思わず、

「いや、そうなんすよ!これやばくないすか!?!?」

と声を荒げてしまった。反省。


この後、ロックワーク見学とアレンデール王国の街並みを散策した。
ローストビーフ風味のポップコーンとフッフーブレッドの購入、ビジーバギーのパス取得こそできなかったが、メインのアトラクションは無事に乗り終え、各フォトスポットでの写真撮影もかなった。

なんて順調な行程だろうか。ほぼ無駄な時間もなく、移動も行ったり来たりがなく、夕方に崩れやすい天気の心配もなく、もう何か不思議な力が働いているとしか言いようのない状況だった。


ただ、やはりまだ気がかりがあった。
最大の鬼門、フローズンジャーニーである。
その時、アレンデールロイヤルバンケットのモバイルオーダー時間まであと10分をきっていた。

まず心配なのは食事時間だ。
フローズンジャーニーのDPAの時間と近いので、店内に入ったらすぐに席の確保をしなければならない。バンケットの滞在可能時間は最大約50分。席が空いておらず、なかなか座れないということだけは絶対に避けたい。
とにかく店内に入ったら空席をすぐに見つけることだ。

ぼくはアプリを開き、フローズンジャーニーの状況を確認した。


運営中の表記。


頼む、どうか中止にならないでくれ。
祈りのように心で唱えてながら、時間を迎えた我々はロイヤルバンケット内へ入って行った。



ーつづくー

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