ツアーガイドの思い出 第三話

いいですか、落ち着いて聞いてください。
ファストパス制度はコロナ禍を境に廃止となり、現在は有料版ファストパスと呼ぶに等しいディズニープレミアアクセス(通称DPA)という制度が導入されれています。
また、対象の施設に並んで入る権利、いわゆる整理券という概念のスタンバイパス制度が始まり、ディズニーシーの新エリア『ファンタジースプリングス』に一般チケットで入場するためには、これらいずれかの取得が必須となります。そして恐らく、グランドオープンしてからおよそ一年ないしそれ以上の期間は午前中早い段階でこの二つのパスの発券は、確実に、終わります。
、、、、あぁ!大丈夫、大丈夫です!ナース!ナース!バケーションパッケージをご案内して差し上げて!ナァーーーーーーーース!



ぼくはお取引先の社長へ、できる限り簡潔に、かつオブラートに包みつつ、現在の舞浜の状況をお伝えした。
これから勇んで関東の一大テーマパークまで来られる方を前にして、水を差すようなことは言いたくない。しかし、案内や相談を受けた以上、ある程度現実的なお話をしなければならない。ここで一気に熱が冷め、「そうなんですかぁ、やっぱ行くのやめようかなぁ、、、。」なんてことになれば申し訳ないにも程がある。ぼくは恐る恐る社長に確認をとった。


「いかがでしょう?結構ハードなスケジュールになってしまうかもですが、、、」


「分かりました!振り回しちゃってください!」


即答である。頼もしいにも程がある。
というか、ご家族団欒のご旅行なのに、ぼくがいていいものなのか?


「妻には自分から話しておきます!案内してくれる方がいてくれれば、我々は安心できますので!!」


いやぁー、ありがたいんですけれどもねぇ、、、
そもそも入園待ちとか超早朝からになりそうですけれども、、、


「何時でしょうか!?遠慮なくおっしゃってください!」


え、えぇ、えーとですね、、、よ、4時とか5時とか、、、?


「かしこまりました!お任せください!」


あ、あのぉ、、、お子さんと奥様は、、、


「妻と子供には後から来てもらいますので!僕は起きられます!もう歳なんで、早く起きちゃうんですよねぇ!あっはっは!笑笑笑」


社長は、ガチガチの体育会系であった。
学生時代からスポーツに明け暮れ、今は先代からの会社を引き継ぎ、代表として営業も兼ね、日夜飛び回っていらっしゃるような方である。

完全なる縦社会にその身を浸してきた人はバイタリティが違う。
相手からの問いかけに対し、思考に隙を与えない。
元気、挨拶、超即答が一連のプログラムのような仕上がり。
鱗滝左近次が隣にいたら間違いなく言っていただろう。「判断が早すぎる。」と。

かくしてぼくの思いは杞憂に終わり、社長へ入園するにあたっての本格的な質問をすることとなった。


、、、そうそう、ぼくが行くということは、当然娘も連れて行くこととなる。
社長は当然即了解だったが、娘本人にはどのような反応をされるだろう。


「あのさ、今度の夏休みにね、ディズニーに行こうと思っているんだけど、お父さんの仕事の人がね、家族と一緒に来て、案内をすることになったのね。それで、できれば○○(娘の名前)にも来て欲しいんだ。家族には小学生のお子さんもいらっしゃるから、仲良くしてくれるととても嬉しいんだけど、、、」


「りょ😀!!(iPad miniで絵を描きながら)」


どうやらぼくの周りには体育会系気質の人が多いようだ。
助かる〜


ーつづくー

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