ツアーガイドの思い出 第十二話

「寝過ごした!!!!!」


飛び起きて時計を見ると、午前3時29分だった。アラームが鳴る時刻の1分前起床。さすがに笑った。
アラームを解除してシャワーを浴び、身支度を整えた。娘も予定通りに起床し出発準備を完了させ、チェックアウトを済ませた。前乗りしている分、我々は本日の行程を終えたのちに帰宅する。

「おはようございます!!!」

昨日、ホテルのお部屋へ戻った時刻はチェックインの手続き時間を考えると確実に22時前頃であり、寝たのも恐らく23時前頃だろう。しかし、社長はロビーに待ち合わせ通りの時間に、清々しい挨拶をして我々の前に現れた。

「今日これからが正念場だね、よろしく!」

気合いが入りすぎていた。それは間違いなく、ぼくら以上に。
ぼくの車に荷物を入れ、娘と社長を乗せて、いざ行きましょう、ということになった。

シーの駐車場入口まで約15分。信号待ちがもどかしかった。全部タイミングよく青であったならいいのに。

ご存じの通り、シーの駐車場へ入るにはパーク外周を大きく周らなければならない。ランド駐車場入口を通過して、左車線をキープして進んでゆく。ディズニーのパートナーホテル、トイストーリーホテルの横を過ぎ去ってゆく。



そしてここで、ぼくは違和感を覚えた。



おかしい。

車が全然いない。

現在朝の5時前。

もう車が多くこの道を通っていてもおかしくない。

しかし、明らかに車の数が少ない。

社長は「もしかして一番乗り?!」とおっしゃっているが、違う。

ざわざわしながらシーの駐車場入口にさしかかった時、ぼくは自分がやらかしたことを悟った。





「現在、シーの駐車場は第7駐車場へのご案内となります。この先右車線をお進みください。」





第1駐車場入口でのキャストさんからのアナウンスが響く。

やってしまった。

早く行けばよいという考えばかりが先行していて、駐車場の開放時間と箇所がすっかり抜け落ちていた。
この時間からは車が多くやって来るから、第1駐車場への案内だと車の待ち列があっという間に道路を埋め尽くしてしまう。よく考えずとも分かることだった。というより、念のための問い合わせをなぜ怠った??

第7駐車場はシーの入園ゲートまで結構な距離がある。
3人でここまで行ってゲートへ向かえば確実に10分以上はロスしてしまう。電車始発組がまだ訪れる前の時間帯だが、この約10分は大きな痛手となり得る。


ガイド、一生の不覚。


ここで社長と娘の早起きの努力を無駄にするわけには決していかない。
ぼくは極めて冷静に考え、計画を変更した。

「すみません、一旦第7駐車場へは向かわず、シーの徒歩入園口へ向かいます。ハザードをつけて一瞬停車いたしますので、娘と社長はそこで降りて、入園ゲートへ並んでください。ぼくは2人を降ろした後、もう1周して第7駐車場へ車を停めて向かいます。」

「はぁ。」ぽかんとする社長。
速度に気をつけて、徒歩入園口に一時停車、2人を降ろした。
その際、ぼくはとっさに娘に伝えた。

「ここを降りたら反対側、リゾートラインの駅を通って。ハッピーエントリーの待ち列が無い方へ行って並んでほしい。並ぶ場所は、分かるね?」

一気にまくしたてたぼくの話を娘は聞いて「わかった。」とだけ言った。
娘を、信じるしかない。


再びパーク外周を周る。
こんなにもどかしい時間は久しくなかった。
今はもうとにかく娘と社長を信じるしかない。娘に重荷を背負わせてしまった。パニックにならないだろうか。
ぼくは不安を抱きながら第7駐車場へ到着、車を停め、エンジンを切ろうとしたところで、社長から写真つきでLINEの連絡が入った。




『娘さんがここをとってくれました!!!』




そこはサウス側端、前から3番目の場所であった。



ーつづくー

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