(火星の)風の歌を聴け
先日、別の記事(心に沁みるサイエンス:深海の"ソフト"ロボット)の冒頭でも少し触れた火星探査機パーシビアランスからまた新たな話題がふりまかれた。迫真の火星着陸ドキュメントに続いて今回提供されたのは「火星の地表を吹く風の音」。下記参考リンクの最初にあるビデオを再生すると、レーザーが岩を叩くノック音が30秒ほど続いたあと、ひかえめながらフォオオオ〜フオオ〜といった感じの音が聞こえてくる。人類が初めて耳にする火星の風の音だ。
これは何も伊達や酔狂で録音されたものではなく、「火星に生命の痕跡を探る」という重大使命にもとづいた科学的探索ミッションの一環である。パーシビアランスの"アタマ"に備え付けられたカメラ(スーパーカム)から発せられるレーザー光線が、"Máaz"と名付けられた火星の岩(ナバホ族の言葉で「火星」を意味する)に照射されて湧き上がる粉塵を記録し、そのスペクトルなどから岩の成分を解析する。このとき岩を叩くレーザーの"音"が、岩の硬さなどの情報をもたらしてくれる。
作業中の「音」を聴くことは、装置が正常に作動していることを確認する助けにもなる。そのため、画像とともに音響も一緒に記録される訳だ。カツ・カツ・カツとレーザーが岩を削り、予定どおり舞い上がった噴煙をカメラが記録するその人工的な騒音が静まっている刹那にマイクが拾ったのがこの「風の歌」だ。
ただ聴いてみると何のことはない、地球上で撮られた動画に混入してくる風の音と大差ない。実際、参考リンク先の記事の下の方に貼られているNASAの記者会見の模様の中で紹介された風の音「だけ」を聴かされれば「?・・・それで??」と感じてしまう。だが、トップに据えられている動画には、パーシビアランスが撮影した火星の地表のスナップ写真にかぶせて音が流れてくる。そうすると、茫漠としたこの地に降り立ち黙々とミッションをこなすパーシビアランス氏に、自分が乗り移ったような感覚になり、熱く切ない思いがたぎってくる。
”彼”(ジェンダーレスの観点からすればこうして性別を限定する代名詞を充てるのは好ましくないかもしれないが、どんな危険が待っているか分からない地を切り開くのは男がやらんといかんことやろう)にはさらに、備え付けのヘリを飛ばすという重大ミッションが待っている。そのために好適な場所を探すのにもこのスーパーカムとマイクは貴重な情報をもたらしてくれるはずだ。
火星の空からの眺めを我々は無事に見ることができるのだろうか。今後も”彼”の活躍から目が離せない。
<参考リンク>
(本記事は、上記リンク先の動画の内容を、筆者独自の感想を交えながらかみ砕いて解説したものです)
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