ブライトンの作戦について
■目次
・動機と目的
・実戦例の整理
・本作戦の評価
■動機と目的
本記事は以前立てた仮説「ブライトンの非対称ビルドアップは流行系であるハイプレス/ゲーゲンプレス戦術に対抗しうる策ではないか?」を試合観戦により得た実戦例を元に検討し、ブライトンの作戦を評価するためのものである。
(仮説については前回記事参照)
■実戦例の整理
ブライトンの作戦を検討する上での前提として、3412対4123を基本図(図a)とする。
↓図a -3412対4123の戦型(3412がブライトン、4123が相手チーム)-
前提を頭に入れた上でブライトンが実践した局面の整理をしていこう。
・case 1 :オープン状態の利用とオーバーロード状態について
ゴールキックの際、蹴り出されるエリアに密集して(オーバーロード状態にして)セカンドボールを回収しようとする戦術は広く普及しており、多くのチームでも実践されているかと思う(図b)。エアバトルの勝率を高めることと、部分的に数的優位になっている自陣側のDFが前を向いてボールを回収する事が目的である。加えて、セカンドボール回収後のアイソレーション活用や、緊密になっている選手間を利用して縦への前進を図るなど、回収出来さえすれば攻撃に繋げやすい状況を作ることが出来る。このため、ゴールキックの際は、ほとんどのクラブがこのオープン状態、オーバーロード状態の局面を活用している。
↓図b -ゴールキック時の密集状態-
ブライトンはゴールキックの他に、自チーム相手チーム問わずボールが蹴り出されオープン状態になった時、ボール回収の為に密集し、回収できたらアイソレーションへ繋げる局面活用をしている。オープン状態の利用と条件付きオーバーロード状態の作成は、ハイプレス/ゲーゲンプレスを志向するチームへの対策の一つとしてブライトンが実践している事である。
・case 2 :ハイプレスの対処
前回記事の仮説で触れたようにパスコースを誘導する相手には非対称ビルドアップが有力である。プレスのタイトさに関わらずこれは再現性を持って実践されていた。
また、実戦例を通して非対称ビルドアップが出し所を全て封鎖するプレッシングとパスカット型ゲーゲンプレスに対して脆弱であるという事が判明し、その対処法も実践されていた(図c)。
☆非対称ビルドアップの特徴
・パスコース誘導→縦突破とアイソレーションの両天秤にかけられるため有力。奪われてもゲーゲンプレスが可能。
・出し所全封鎖のハイプレス→緩むまでは個人戦術以外では対処不能。蹴り出してcase1へ移行。オープン状態を活用する。
・パスカット型ゲーゲンプレス→緩むまでは無理せず蹴り出す。奪われても数的同数であればディレイやゲーゲンプレスによる逆襲が可能。
無理に理想形に拘り前進しようとすると相手の思うつぼなので、時間経過と共に緩むのを待つ。緩んだらHV、WB、DH、OHによる非対称系の生成により縦突破とアイソレーションを両天秤にかけた前進を狙う。その他にも、リベロのアンカー化で4バックのようなフォーメーションに変形し、めいっぱい幅を使うビルドアップ方法などを活用しながら、4123型ハイプレス/ゲーゲンプレス急戦の急所であるSB裏を狙う。
↓図c (パスカット狙いのプレスがハマってしまった局面。GK①は無理をしないで蹴り出して対処。リスクが高い時にマイボールに拘らない)
・case 3:守備
ブライトンの守備陣形は532ないし541、WBを2列目に吸収して442に変形することもある。どの陣形でも侵入されたゾーン別に約束事を決めて守備をしている。
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・ゾーン3
人数が居ればハイプレス。パスコースを誘導しSBで囲むかGKを手詰まりにさせて蹴り出させる。
人数がかけられない時はディレイ目的のチェイスもしくはアンカー消しを徹底する。
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・ゾーン2
SBやIHを奪い所にしたプレッシング。ボールサイドに人数をかけて囲い込む。なるべく中央を締めDHはIHをマーク、ボールサイドのWBはSBにアタック、逆サイドのWBは同サイドWGへの対処の準備をする。
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・ゾーン1
基本的にHVとリベロの3バックでラインコントロールしながらリトリートをする。サイドを突破してきた相手に対してWBと共に同サイドのHVがダブルチームで対処する。DHも加わり3人で囲い込むこともある。
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これらを完璧に実践し勝利したのがPL第22節リバプール戦であった。本作戦をまとめると以下の通り
・オープン状態を利用してボールを回収し、落ち着いて保持できる場面を増やそう
・相手のプレッシングが厳しい時は無理をせず蹴り出してオープン状態にしてしまおう
・相手のプレッシングが緩んだらビルドアップで急所をつこう
・相手の攻撃は辛抱強く受けよう
■本作戦の評価
仮説「非対称ビルドアップはハイプレス/ゲーゲンプレスの対策足り得るのではないか?」に対する評価は実戦例より以下3点を根拠に「まずまず有力」とする。
・実践できた時の縦突破とアイソレーションの両天秤を相手に強いる点→有力
・仮にミドルサードで奪われても、部分的な数的同数ないし数的優位からゲーゲンプレスによる逆襲やディレイができる点→有力
・幾つかの種類のプレッシングがタイトな内は個人戦術以外では対処不能である点。特にGK-HV間を狙う位置取りには注意しなければならない点→脆弱性
実戦において頻出するミドルサードまで運べないという状況からも、非対称ビルドアップがいつでも実践できる万能な戦術ではないことがわかる。本戦術にはゲーゲンプレスを完封できるほどの対策力はなく、45分間の作戦におけるボール保持時の手札として有力といった評価が妥当である。
最後に本作戦の主張点と急所をまとめる。
本作戦はショートカウンターに得意という訳ではない。保持時にリスクを負う分、ショートカウンター自体に対しては非常に脆弱である。
重要なのはそのショートカウンターが起こる局面を想定したビルドアップ(非対称ビルドアップ)方法やオープン状態の活用、保持時に無理をしない方針によりショートカウンターを受けにくい作戦だということである。→主張点
本作戦を支えるのは相手の急戦を受けている前後半の序盤戦である。相手に押し込まれ、保持すらままならない受けの場面で失点してしまうと少々厳しくなる。→急所
従来、ハイプレス/ゲーゲンプレス急戦を実践できるアスリート色の強いクラブに対して、受け一辺倒だったタレント力に欠けるクラブが保持を恐れずに理想形を追求出来るようになったのはフットボール戦術における大きな前進だと思う。
ブライトンの今後の活躍と本作戦がより普及し、更なる対策の誕生を期待するや切である。
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