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【疑問】ベガルタ仙台はプレッシングをすべきなのか


皆さんこんにちは。上原力也を信じろです。
今回はベガルタ仙台の守備作戦について考えていこうと思います。

【目次】
■ベガルタ仙台(21年手倉森体制)の守備計画の変遷
■中央閉鎖4-4-2の主張点、急所の整理
■今後の課題


【ベガルタ仙台(21年手倉森体制)の守備計画の変遷】

振り返っても実に苦しい、頭を抱える3月であった。
開幕戦の広島戦はどうにか引き分けに終わった。この試合の時までは3月にここまで苦しむとは想像もつかなかったが、思えば開幕戦の段階から問題は露呈していた。

仙台の抱えていた問題は主要4局面のオーガナイズ→トランジションにおけるプレー選択にあった。


攻勢計画を実行している最中、主としてビルドアップの場面でボールを奪われた時、守備局面へ遷移する。所謂ネガトラ(negative transition/defensive transition)と呼ばれる局面が生じる。

この守備局面への遷移において、攻勢計画により相手ゴール方向へ向いていた体を反転し、ボールサイドでは相手選手への規制が求められ、逆サイドではゾーンディフェンス、ブロック形成の為に自陣への退却が求められる。フットボール戦術におけるセオリーだ。

残念ながら、仙台はこのセオリーを実践出来ていなかった。
攻勢計画で4-2-3-1から3-2-5ないし3-1-4-2への変形をし、積極的に保持を狙う所までは良かった。
しかし、ネガティブトランジションの局面において、ボール保持者への規制が求められるボールサイドの選手ですら、4-4ブロック形成のために退却し、簡単に突破を許したり、ほぼフリーで逆サイドに展開されたりと危険な場面を多く作ってしまっていたのだ。

この「トランジション局面でさえ、守備オーガナイズを優先する傾向」は致命的なものであった。

現代の保持戦術においては、素早いトランジションと高いインテンシティによるプレーが求められる。求められる以上、それが出来ていないまま現代的な攻勢計画を実行するのは非常にリスクが大きいと言える。そうしたリスクの大きさを証明するかのように、3月は大量失点を繰り返す事となった。
この問題は、3月の連敗、湘南戦までは解決の兆しが見えなかった。

FC東京戦でようやく「ネガティブトランジション」でのプレーにチームとしての決まり事、規律が見られた。
4-4ブロック形成でサイドに穴ができるのだから、まずは3バックシステムによる5バックリトリート(5-4-1ブロック)を基本的な守備計画に据えた。WBの選手が相手のサイドアタッカーをマークし、少なくともサイドにて数的同数を目指す守備を実践したのだ。

トランジションで問題が生じたサイドから、マンマークという形で選手らに球際の強度、寄せを徹底させていた。
ミスから突破を許すことはあっても、基礎的な守備計画の構築という観点から見れば、問題解決の糸口として現実的な判断を手倉森監督は下したと、私は評価している。

その後、代表ウィークを挟んでルヴァンカップ清水戦を迎えた。そこでみせたのが現在の仙台が実施している「中央閉鎖4-4-2」である。


【中央閉鎖4-4-2の主張点、急所の整理】

☆主張点:目的と詳細

仙台の「中央閉鎖4-4-2」では、ワイドレーンをコストとする代わりに相手のCHへのパスコースを徹底して消す事を目的とし、以下のようなオーガナイズによって成立している。

①FWによるアンカーへのコース牽制
②SHをHSで待機させ、中央へのパスコースを牽制
③SBによる対面選手のマーク

徹底して中央をケアする事で、必然的に空くワイド、WG(SH)ないしハイポジションをとってきたSBに配球されるリスクが生じる。その対策として、対面するSBにマンマークをさせ、ハーフスペースにて待機していたSHのプレスバックにより囲い込み奪取、ないし前進阻止を狙う。迂回攻撃を誘導し、明確な奪い所を定めた守備計画である。

当然、主張点があるものには必ず急所がある。

☆急所:構造上の問題点

①FWによる相手CBへの規制がない。ほとんどフリーで配球されてしまうため、選手たちのフラストレーションが溜まってしまう。

②ワイドに配球された後のリアクションにおいて、マンマークをするSBは間に合うが、SHのプレスバックまでには時間があり、ボールホルダーや周囲サポートを狙う選手にはその時間がそっくりそのまま猶予となる。

猶予を活かした個人戦術の最たるものが、保持者を追い越す動き、即ち「オーバーラップ/インナーラップ」である。

インナーラップを阻止するにはCHがついて行かねばならない。ワイドレーンにてコレクティブな守備をするという事は、バイタル、ハーフスペースが空くリスクを抱えている事と等しい。
そうしたリスクと天秤にかけると、結果として、インナーラップに対して完全なマーク、数的同数以上の優位性の確保は不可能であるから、3人目の選手はバイタルゾーンの封鎖を優先せざるを得ない。完全なワイドでの刈り取りが出来ない以上、突破を許すことはコストとして受容すべきである。


清水戦、徳島戦ではこの中央閉鎖4-4-2が実施され、狙い通りの奪取、阻止を実施することができていた。当然コストも数多く見られたが、致命的なサイドチェンジ、バイタル侵入は相当数減った。主要4局面においても、完全ではないにしろ規律の整ったプレーを選手達はピッチで示していた。3月を思えば、チームが前進し、基礎的な守備計画が完成したと評価して良いだろう。


【今後の課題】

これまでの事を踏まえて、ベガルタ仙台はプレッシングをすべきなのか?について私の考えを書いていきたいと思う。

結論から言えば、
条件付きのものなら可能。積極的にポジティブトランジションを狙いに行く、主導権を取りに行くものは不可能である。

まず、中央閉鎖という守備計画を実施できるようになった今、何を問題とするのか?で意見が変わるということを認識してもらいたい。守備の問題を考えるのか?主導権の問題と捉えるのか?という部分で、

・主導権を握れない事に対する解決策の模索
・現行の攻守のオーガナイズを上方修正していく

という二つの考え方があり、私の見る限り前者の意見が多数派である事は明白なのだが、本記事では後者の論理で私の考えを話していく。

☆主導権を握る為の解決策:主張点

積極的に相手のビルドアップを阻止するため、カバーシャドウによるハイプレスを敢行し、GKまで下げさせて最終的にはボールを蹴り出させる。出来ることならプレッシングの最中にボールを奪取しショートカウンターを狙う。

これが実施できれば、脅威であることを示す事ができれば、なるほど主導権を握ることはできるだろう。3月頭に実施しようとしていた3142型保持戦術とも相性が良い。PLやラリーガにて戦術最新系を追いかけている私としても、理解も共感もできる意見だ。

しかし、現実、少なくとも今の仙台で実施できるだろうか?


☆私の見解

プレッシング、特にハイプレスの問題はベクトルが敵陣に向くため、剥がされた時、defensive transitionの局面は最終ラインの強度とボランチによる献身に状況が委ねられてしまうリスクを内包している事にある。前線選手は正確にプレッシングせねば理想とする局面へは誘導できないし、最終ラインの選手にはある程度のスピードが求められる。加えて、スプリント回数の増加による筋肉系のトラブルも不安だ。現在のスカッドで、ベストと思われるメンバーがほとんど固定されている現状で、仮に実現出来たとしても、控えのベースアップが出来ていなければシーズン中に必ず破綻する。

それだけに、ハイプレスは強者の戦術と言わざるを得ない。さらに言えば、それだけの守備対応が出来るスカッドである、という仮定では、3月の杜撰な守備、主にトランジション問題の説明ができない。実現可能という観点から5バックリトリート→中央閉鎖4-4-2と守備計画を整備していった事は十分説得力があるし、今はこれが精一杯だと私は評価している。

以上の文脈から、中央閉鎖の完成度を高めながら、相手のビルドアップの規制について考えたとき、実現できる戦術は条件付きのプレッシングくらいなものでは無いか?と提案する。

それは、プレッシングを敢行する局面を限定するものである。現行の中央閉鎖にてワイドレーンでの前進阻止が出来た場合、相手のバックパスをスイッチとしてFWがバックマークプレッシングを開始する。連動して逆サイドのSHも外を切りながらプレッシングを開始し、最終的にGKまで戻させて手詰まりにさせる。
プレッシング自体の目的はそう大きく変わらない。重要なのは、限定された局面でのプレッシングと、そうでない局面では今まで通りの待機戦術を取るという部分にある。

現行の守備計画に足りない、相手のビルドアップへの規制手段は、現行の守備計画を上方修正する形で整備していくべきなのだ。


以上が仙台のプレッシング、主導権に対する私の見解だ。
私が仙台を見始めたのは今年からなので、古くからのサポーターと比べたら見えていない事が沢山ある。ただ、現在の手倉森体制の整備進捗そのものには不満はないし、結果如何に関わらず、その部分は正しく評価されねばならないとも思う。

今後ベガルタ仙台がどう改善されていくのか、見守っていきたい。

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