眠たっていいんじゃないかな
どうでもいい話なんだけど、昼寝ってどうしてあんなにも気持ちがいいんだろう。
特に真夏の猛烈に暑い午後、外から帰ってきてシャワーを浴び、部屋をエアコンの冷風でキンキンにして、ソファやベッドにゴロンと転がって眠るのは、最高だ。これ以上の幸せはないんじゃないかと思う。
特に忙しくない夏の日には、この昼寝が楽しみで仕方がない。
たまにそんなに寝たら夜眠れないじゃなかと心配になるほど眠ってしまうこともある。だけど僕の体は不思議なもので、夜になり午前0時を過ぎると眠くなる。
若い頃は眠っている時間が長いことは損をしているように感じたが、最近はそうでもない。僕は眠ることがかなり得意だと気がついたからだ。これはうちの奥さんと一緒に旅行へ行くようになってわかったことだ。
たとえば、飛行機、エコノミー、深夜便、この三つが重なったら、うちの奥さんはまず眠れない。
しかし、僕は一向にお構いなくぐっすりと眠れてしまうのだ。もちろん家やホテルのベッドのように快適に眠ることはできないが、眠れないことはない。
つい最近も乗った飛行機が乱気流で相当揺れていたらしいが、僕は眠っていてほどんど気がつかなかった。
どうやら僕は一度眠ると普通の人より深く眠ってしまうらしい。おまけに寝入りが誰より早い。
ギリギリまで話をしていて、おやすみなさい、と言ったら2秒後には夢の中だ。寝入り早選手権があったら、僕はかなりの上位にいくはずだ。
普段は神経質で、出会う人や食べ物など環境の変化に特に敏感な僕ではあったが、眠ることにかけては、かなり優秀だと思う。
一方、眠るのが得意なだけあってずっと起きているのは苦手だ。
海外、特にヨーロッパの国へ行ったときは、時差ぼけを治すために、夜になるまで起きていなければならないのだが、必ずと言っていいほど夕方から眠ってしまう。そして深夜に目が覚めるとゴソゴソと動きまわる。
そして「静かにしてよ、あれほど早く寝ないでって言ったのに」と奥さんに怒られる。
まぁ、これなんかはプライベートな旅行なんで特に問題ないんだけど、ずっと起きていなければ絶対に駄目なシチュエーションも人生には何度かある。その最たるものがお通夜だ。
死者が冥土への道に迷わないよう蝋燭の火を絶やしてはいけないのだ。
だが、僕はよりによって、最愛の父のお通夜でがっつりと眠ってしまった。ふと気がついたときには朝だった。
やばい、母親にこっぴどく叱られる。いや違う。亡くなった父親が暗闇の中であの世への道を彷徨い歩いたことの方が心配だ。
まずいことになったなぁ、と思っていると、祭壇にある蝋燭の火は絶えることなくともっていた。弟と姉が僕の代わりにやってくれたのだ。だが、朝起きてこれほど気まずかった経験はない。
それよりも最愛の父が亡くなったというのに、ぐっすりと眠れてしまうことに少なからず罪悪感を感じた。
でもね、よく眠ったおかげで、葬儀の喪主という大役を無事に終えることができたことは確かだ。
死があってこそ生が輝くように、いい眠りがあってこそ起きている時間が輝くのだ。まぁ言い訳なんですけどね。
(イラスト 上田焚火)