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悪魔との取引き

 どうでもいい話なんだけど、僕は物を集めるのが苦手だ。というか物をコレクションする趣味をまったく持っていない。なんでなんだろう。集めることにまったく興味が持てない。

 一方、うちの奥さんは集めるのが大好きだ。冷蔵庫にべだべたと貼ってある海外のマグネットは、彼女がせっせと買い集めた物だ。僕も同じ様に一緒に旅行に行っているのに、まったく興味がわかない。

 うちの奥さんが集めているのは、マグネットだけじゃない。旅行に行くとその土地の食器を買うのも趣味だし、最近は集めるのをやめてしまったけど、世界中にあるハードロックカフェで、ピンバッジを買うのも趣味にしていた。とにかく集め出すとすべて欲しくなってしまうらしい。

 もちろん僕は奥さんのそのような気持ちを否定したりしない。ただ僕はどうしてこんなにも何かを集めようとしないのだろうかと改めて疑問に思うだけだ。

 で、ず〜とず〜と古い記憶を手繰っていくと、僕にも何かを集めていた時期があった。

 それは子供の頃の記憶だ。たぶん小学校の低学年だろう。十歳にもなっていなかったと思う。そのとき僕はウルトラマンに出てくる怪獣のシールを集めるのにはまっていた。今では信じられないのだが、クラスの同級生と競うように集めていたのだ。

 五十円のお小遣いを握って駄菓子屋に行き、シールを毎日のように買っていた。もしかして何かお菓子のおまけとしてシールが付いていたのかもしれない。

 シールには当たりが入っていて、専用のアルバムを手に入れることもできたはずだ。

 だが、僕のお小遣いではなかなか当たりはでないし、それどころか怪獣のシールも一向に増えなかった。

 しかし、どこにでもお金持ちの子というのはいるもので、何冊もアルバムを持ち、怪獣のシールをたんまりと持っている同級生がいた。

 その子は毎日湯水のように小遣いを使い、大量に怪獣のシールを買いあさっていた。しかし、よくできているもので、怪獣シールの中にめったに出ないレアなシールが一枚だけあった。その子は何冊もアルバムを持っていたのに、レアシールであるゼットン(怪獣の名前)のシールだけは持っていなかったのだ。

 どんなに金に物を言わせようと出ないものは出ないのである。そして神様はこんなとき、貧乏人の小倅である僕のようなものに天使をおつかいになる。

 そう、僕はある日、そのゼットンのシールを引き当てたのだ。

 僕は有頂天だった。学校に行ってみんなに見せびらかし、自分がどれだけ運が強いのかを誇った。

 しかし、好時魔多しの言い伝えの通り、神様は天使と同時に悪魔も僕につかわせた。

 お金持ちの友人は、僕に取引を持ちかけてきた。ゼットンのシールと自分が持っている数冊のアルバムの一つを交換しないか、と言うのだ。

 そのアルバムは、ほとんどすべての怪獣シールが貼ってある。ただゼットンだけがない。

「どうかなぁ」と彼は笑顔で言う。

 僕がそのゼットンのシールを渡せば彼のコレクションは完成する。それ一冊があれば他の未完成のアルバムはいらないのだ。

 一方、僕はゼットンのシールは持っているが、アルバムはおろか、十数枚ほどしかシールを持っていない。それが急に百枚をこえるコレクターになれる。僕は簡単に誘惑に負けた。

「いいよ」僕は彼との取引に応じた。

 だが、家にそのアルバムを持ちかえると釈然としないものが、僕の中に残った。何か大切なものをなくしてしまったようなそんな感じだ。

 しばらくアルバムを眺めていると、急にバカバカしくなり、僕はもうその怪獣シールのアルバムを見たくなくて、ゴミ箱に投げ捨てた。

 それ以来、僕は何かを集めるのをやめてしまったように思う。
 

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