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さあ悟れ。 ブエルタ・ア・エスパーニャ2022 勝手にプレビュー

今年も悟りの旅路が始まる――。山岳コースは極めてひどく、20パーセントを超える急勾配もあれば、明らかに登っているのにコースプロフィール画像が平坦基調になっている場所もある。相変わらずスプリントポイントは謎めいた場所に設定されている。人生はいつも計算通りにはいかないが、それを教えてくれるのがブエルタ・ア・エスパーニャだ。信じるべきは我が目に映る景色のみ。さあ、悟りの旅へと飛び出していこう。

ログリッチ有利の設定か!?

個人総合優勝争いに絡んできそうな選手を見ていくと、やはり4連覇を目指すプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が優勝の最有力候補。落車リタイアに追い込まれたツール・ド・フランスから1カ月で回復できていれば、ポディウムの頂点に立つ可能性が最も高い。唯一の弱点はワウト・ファンアールト、すなわちワウト氏、ファン氏、アールト氏の3氏が出場しないことだろう。それでもローハン・デニスセップ・クスなどのアシストは手厚い。

他チームも布陣は豪華で、今年のジロ・デ・イタリアで逆転での総合優勝に輝いたジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)、ツールでタデイ・ポガチャルをアシストしたジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)、春のワンデークラシック「リエージュ・バストーニュ・リエージュ」を制したレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファビニル)などが集結。

タイムトライアルで強さを見せているサイモン・イエーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、グランツールの表彰台にあと一歩まで迫っているベン・オコーナー(AG2Rシトロエン)、復活を期すティボー・ピノ(グルパマFDJ)、そのピノと同じくまずはステージ優勝を狙いたいセバスティアン・レーヒェンバッハ(同)、良くも悪くもアスタナ所属選手らしいミゲル・アンヘル・ロペス(アスアナ・カザクスタン)、クライマーとしての能力を未だに保っているナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)など実力者が並ぶ。

グランツールでの戦績が振るわないイネオス・グレナディアーズは、2019年のジロ覇者リチャル・カラパス、20年のジロ覇者テイオ・ゲーガンハート、前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスを制したパヴェル・シヴァコフ、ツール・ド・ポローニュで総合優勝しているイーサン・ヘイター、コミュニタ・バレンシアーナでエヴェネプールらと上位を争いったカルロス・ロドリゲスなどを揃え、ほとんど全員エース状態の体制で臨む。

イネオス同様にグランツールでエースが振るわないのがバーレーン・ヴィクトリアスだが、今度こそミケル・ランダが表彰台のトップに立ち、奮闘するアシストに報いてほしいところだ。ただ、新城幸也を選択しなかったのは、残念でならない。

19歳も、42歳も。

さらに19歳のフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)が参戦。引退を表明している42歳のアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)、37歳のヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン)は総合上位も狙えそうだが、グランツール最終戦でのステージ勝利ももちろん手にしたい。

パンチャー向きのステージが多く、復活のジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファビニル)が活躍するステージもありそうだ。逃げの展開を得意とするトーマス・デヘント(ロット・スーダル)、ルイス・アンヘル・マテ(エウスカルテル・エウスカディ)、アンヘル・マドラソ(ブルゴスBH)にもチャンスはある。スペイン国内選手権の個人タイムトライアルを制した21歳のポール・ガルシア(エキッポ・ケルン・ファーマ)も要チェックだ。

ほかにも、クリス・フルーム(イスラエル・プレミアテック)、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)、エステバン・チャベス(同)などの総合系やクライマーが出場。39歳のドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)もエントリーしている。

スプリンターではティム・メルリール(アルペシン・ドゥクーニンク)、ニキアス・アルント(DSM)、ベテランのジョン・デゲンコルブ(同)、サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)などが数少ないスプリントステージを狙う。荒れた展開になれば、マッズ・ペデルセン(トレック・セガフレード)も楽しみだ。

そう、とにかくメンバーが豪華なのだ。総合優勝争いに絡める選手は多く、ツールほどあっさりと勝負が決するわけではない。

残留争いゆえの手薄さも

もうひとつ、触れなければならない点がある。今シーズンはセカンドディビジョン(UCIプロチーム)に位置する「アルペシン・ドゥクーニンク」と「アルケア・サムシック」が昇格の意志を示しており、ファーストディビジョンに当たるUCIワールドチームの下位は降格の可能性が日増しに大きくなってきている。

昇降格は各チームのトップライダー10人のUCIポイント(3年分の積算)で決まる。ロードレース界は昇格・降格に慣れておらず、トップ10人のポイントで決める手法も小慣れたものとは言えないが、ルールがそうである以上、降格の危機にあるチームは頑張らないといけない。もしくは、トップ10人を勝てそうなレースに終結させる一方で、勝てないレースは端から諦めるしかない

――ところで、私見をはさめるなら、昇降格は歓迎すべきものだと思う。そして願わくばチームにポイントを加算できる制度を整え、ファーストディビジョンの最下位とセカンドディビジョンのトップが自動で入れ替わったり、チームタイムトライアルでの入れ替え戦を行ったりできれば、かなりルールが分かりやすくなる。

ロードレースはスタジアムスポーツとは異なり入場料収入がほとんどなく、放映権料の還元も十分とは言えない。日本のJリーグでは大きなウエイトを占めるグッズ収入もロードレースでは乏しく、やはりスポンサー収入頼み。

言い換えれば、お金さえあればファーストディビジョンを射止められるが、巨大スポンサーが撤退すればチームはたちまち解散の危機に瀕する。この繰り返しが通例であったが、やはり着実なステップアップで収入を増やしていく手法に切り替えるべきタイミングであろう。UCIプロチームの「Uno-X」はその一例かもしれないが、いずれにせよ、ロードレースビジネスは分岐点にある。そして、昇降格のヒエラルキーがはっきりしたほうが純粋におもしろい。

同様にレースカテゴリーも毎年のように見直し、主催者間での競争を促すべきだと思っている。――いや、脱線しすぎた。ブエルタに戻ろう。ただ、そういうことで、残留争いの渦中にあるロット・スーダルはメンバーが薄い。イスラエル・プレミアテックもベテランばかりでさよなら興行みたいだ。

各賞ジャージーの予想!

まあ、そんなこんなで各賞ジャージーの予想をしておきたい。

個人総合優勝
プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)

ポイント賞
ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファビニル)

山岳賞
サイモン・イエーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)

ヤングライダー賞
クレメント・シャンプッサン(AG2Rシトロエン)

チーム総合
UAEチームエミレーツ

複合賞がもし今もあったら…
アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)

チームタイムトライアルと長めの個人タイムトライアルがあることを踏まえれば、決してクライマーに有利とも言えず、やはりログリッチに有利なレースになる。レムコ・エヴェネプールは未知数。表彰台に上がれる可能性もあれば、大きく遅れるリスクもある。それでも3週間で安定したパフォーマンスを発揮できれば、いずれはツールも狙えるかもしれないが、もしかしたら今大会は彼にとっての分水嶺になるかもしれない。

このあとは各コースを見ていきたいが、まだ第3ステージまでしか出来上がっていないので、後刻更新していく。申し訳ない。

1週目a オランダラウンド

第1ステージ 8月19日

[優勝予想]イネオス・グレナディアーズ
久しぶりにチームタイムトライアルが復活する。狭い海岸線を砂まみれになって走るのが日常風景だったが、今年はオランダ・ユトレヒトがスタート地だから、そんな心配はない。ただ、「久しぶり」というのは大いに悲劇の要素をはらむ。オランダらしい平坦基調ながら、180度ターンを含むいくつもの曲がり角があり、下手をすれば全員が転んでしまう。タイムトライアルスペシャリストに牽引をお任せできるようなチームならば、不安はそれほど大きくはないが…。

第2ステージ 8月20日

[優勝予想]ティム・メルリール(アルペシン・ドゥクーニンク)
カーニバルの街、スヘルトーヘンボスをスタートして再びユトレヒトに向かう。残り70キロ地点に今大会初の山岳ポイントが設定されているが、カテゴリーは最も低い4級。ちょっとした森林帯の中に設けられ、ここでは逃げ集団の中での多少の争いが起きるだろう。また、メーン集団は森林帯を抜けたあとの横風分断に警戒してスピードが上がりそうだ。
残り20キロは完全なるフラットで、集団スプリントで決着する。ピュアスプリンターが少ないブエルタだけに、意外な優勝者がでてもおかしくはないが、ラインレース初日はおおむねアルペシン・ドゥクーニンクの指定席。メルリールが勝つという当たり前の予想が無難だ。

第3ステージ 8月21日

[優勝予想]サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)
スタートから22キロ地点で、ベルギーの飛び地が入り組んで存在するバールレ・ナッサウを通過する。細切れに21カ所点在するベルギー領は「バールレ・ヘルトフ」と呼び、もとはブラバント公爵が持っていた土地(ヘルトフは公爵の意味)。1648年にネーデルランド連邦共和国の独立が承認された際に取り残され、今でも国境線が引かれたままになっている。
そんな歴史を感じながら、オランダの低地をひた走る。オランダで過ごす3日間は、全ての出発点と終着点の標高が10メートルらしい。今年のツール・ド・フランスでは縁がなかったような普通のバンチスプリント(集団スプリント)が今日も繰り広げられる。最後はやや前日に比べてテクニカルなレイアウトで、早駆けも十分に考えられるが、サム・ベネットとしてはここを落としたくはない。

移動日・休息日 8月22日

1週目b バスクで“ブエルタ”モードへ

第4ステージ 8月23日

[優勝予想]アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)
4日目に至って初めて言わなければならない。ようこそ“ブエルタ・ア・エスパーニャ”へ! さっそくカテゴリーが付いていない急な登坂、一筋縄ではいかない登り基調のゴールレイアウトなどと、さっそくブエルタらしいステージが用意された。これぞブエルタだ。
ある意味において“本当のスタート地”に選ばれたのが、自転車の“国”バスク自治州の州都で州内第2の都市のヴィトリア=ガスティス。バスクを走るのだからエウスカルテル・エウスカディにとっては逃げで目立たねばならない。逃げ切りの可能性はゼロだが…。
最後の1キロメートルで100メートルくらいを駆け上がる。当然スプリンターには厳しく、まるでアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)を勝たせるためのようなレイアウト。もっともバルベルデ向きのステージはまだ出てくるが、ここで勝てたら一安心だ。

第5ステージ 8月24日

[優勝予想]ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファビニル)
イルンからビルバオに向かうコースだ。前半は海沿いを走り、徐々に内陸に移動。丘陵地を上り下りして、ビルバオ市街のゴール地を目指す。残り約50キロは周回コースで、登坂距離4.6キロ、平均勾配8パーセントの数字を示す2級山岳を含む。
独走力のあるオールラウンダーなら周回コースで飛び出して、先着する可能性もあるが、可能性が高いのはパンチャーの仕掛けだろう。ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファビニル)、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)などのほか、ヤン・ヒルト(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)などグランツールでの経験値が高い選手に有利。残念ながら地名と同じ名前のペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)はメンバーに選ばれなかった。

第6ステージ 8月25日

[優勝予想]サイモン・イエーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
平坦ステージや丘陵ステージを駆け抜けて、ようやく6日目。プロトンはついに“ちゃんとした”山に向かう。そして主催者は我々に「なぜそこにスプリントポイントを設けた!?」というツッコミを与えるエンターテインメントを、今年も用意してくれた(褒め言葉)。
レースは2級山岳「プエルト・デ・アイサス」をこなし、3級っぽいがカテゴリーが付けられていない山岳「プエルト・デ・ヴィエスゴ」(プエルト=峠と書いているじゃいか)を経て、1級山岳「コラーダ・デ・ブレネ」を登頂する。6.8キロで平均勾配8.2パーセント。公式情報では瞬間的には15パーセントに達するらしく、選手たちは18パーセントくらいの勾配を覚悟しなければならない。
そこから一気に下って、謎のスプリントポイントを通過し、最後は1級山岳「アセンシオン・アル・ピコハノ」にゴールする。公式サイトによれば登坂距離12.6キロで平均勾配6.55パーセントらしいが、なぜかここだけ小数点以下2ケタまで表記しているのは、シェフの気まぐれなのか。ただ、山の途中で1キロの平坦区間があるため、実際には平均値以上の厳しい登坂になる。気まぐれサラダを味わう余裕はなく、個人総合優勝を狙う選手にとってはメニューに戦々恐々としながら勝負しなければならない。特にチームタイムトライアルで大きく遅れている選手はここで仕掛けておく必要がある。

第7ステージ 8月26日

[優勝予想]ルイス・アンヘル・マテ(エウスカルテル・エウスカディ)
海岸沿いのカマルゴをスタートし、そのあとは高原地帯をひた走る。海と高原を分かつのが1級山岳「プエルト・デ・サングロリオ」。22.4キロ、平均勾配5.5パーセントとだらだらと登っていくが、実際には坂開始地点よりも前から上り坂は始まっている。最低地点が標高26メートルで、峠の頂上は標高1603メートル。登り切ってもゴールまでは60キロ以上の距離があるとはいえ、バンチスプリント(集団スプリント)に持ち込みたいチームはあるだろうか。
今日はゆっくりしたいと思えば、逃げ切りの可能性が濃くなる。視聴者にとっては、終盤の残り36キロ地点に出てくるリアニョ貯水池とダムをゆっくりと眺められるかどうか。全ては展開次第だ。

第8ステージ 8月27日

[優勝予想]パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)
起伏に富んだスペイン北部アストゥリアス自治州で、ブエルタは相変わらずのひどいコースを作った。2級、2級、3級、3級、3級の順でカテゴリー山岳をこなし、スプリンターには無縁のスプリントポイントを経て、ゴール地点となった1級山岳「コリャウ・ファンクアヤ」に登っていく。
最後の登坂は10.1キロで平均勾配は8.5パーセントのプロフィールを持ち、「やや急★★→急★★★★→そこそこ急★★★→めっちゃ急★★★★★」といった変化がある。登り口には「牛さん注意」(家畜注意)の標識があり、家畜が横断したり、路線バスが走ったりするが、途中のイエルネス村(残り4.7キロ)を過ぎると道は細く、舗装も悪くなる。残り2.5キロは10パーセント以上の勾配が続き、最大勾配は20パーセントに迫る。ひどい。急登坂に慣れていないライダーにとっては試練の場だ。
ただし、このくらいの坂をこなせないようではブエルタを最後までは戦えない(なにせ明日がもっとひどい)。レムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファビニル)がグランツールレーサーとしての地歩を占めたいと思うなら、5位以内ではゴールしたい。

第9ステージ 8月28日

[優勝予想]エンリク・マス(モビスター)
昨日と同じことを言わなければならない。相変わらずひどいステージを作るものである、と。2級、1級、3級、スプリンターには無縁のスプリントポイント、3級の山岳を通って、1級山岳「レス・プラエレス・ナヴァ」に至る。
最後の山はとんでもない。登坂距離3.9キロと短いが、平均勾配は12.9パーセントに達し、瞬間勾配は23~25パーセントという。つまり、瞬間勾配は30パーセントくらいということだ(いろいろとどういうことだ)。角度にして15度。身近なところではカルストベルグ(秋吉台=山口県美祢市)の核心部や「北九州のゾンコラン」(北九州市八幡東区)がそうだが、一度止まってしまうと走り出すことさえ難しい。なにせ歩くだけでもきつい勾配なのだから。
完全なるクライマー向きのコースだ。春のクラシック「ラ・フレーシュ・ワロンヌ」に登場する「ユイの壁」に愛されるライダー、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)やジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファビニル)には距離が長すぎる。優勝候補は一握りで、激坂をものともしない軽量クライマーに勝負権の全てがある。そして、明日の休息日を前に、もし今日が体調のすぐれないバッドデーなら文字通り“最後の山”になるかもしれない。

休息日 8月30日

2週目 スペイン南部で”本気”の戦い

第10ステージ 8月30日

[優勝予想]レムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファビニル)
スペイン北部から一路南下し、舞台はバレンシア州に移る。今日は個人タイムトライアルだ。地中海に面した大都市・アリカンテを目指して約30キロの長距離を走るが、幸いにしてほぼ平坦。テクニカルなコーナーも少なく、タイムトライアルスペシャリストにとってはイージーなレイアウトだ。明日も平坦基調のレースのため、個人総合優勝争いには絡まないタイムトライアラーでも今日は区間優勝を目指して全力で頑張ってもいい。ただ、現実的には個人総合優勝争いに絡む選手たちが上位に名を連ねるだろう。逆にピュアクライマーはここでの遅れを1分前後にとどめたい。

第11ステージ 8月31日

[優勝予想]サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)
ムルシア州の州都ムルシアに近いアルアマ・デ・ムルシアをスタートし、吹きさらしの荒野を抜けてカボ・デ・ガータの何もない海岸線にゴールする。風に最大限の警戒をしなければならないステージだ。もし強風が吹くなら、さまざまな思惑がぶつかって危険なレース展開になる。
ところで、スタート地の街は「アルアマ・デ・ムルシア」であり、ブエルタが公式に表記している“エルポソ・アルメンタシオン”は地名でも愛称でもない。エルポソ~はブエルタのスポンサーであり、「アルアマ・デ・ムルシア」に本社を置く食肉加工会社のこと。
スポンサーにおもねるとコース名もこうなるのだろうが、もしかしたらネーミングライツのようなものかもしれない。仮にNHKが中継するなら、維新みらいふスタジアムやミクニワールドスタジアム北九州のようにスポンサー名を付けて言うか、本来の地名表記に言い直すか、はたしてどちらだろう。いずれにせよ、ブエルタの安定的な開催に貢献してくれているスポンサーにはありがとうと言っておこう。

第12ステージ 9月1日

[優勝予想]プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)
この日のレイアウトとして、ブエルタの公式サイトは「Flat. Uphill finale」(平坦&登坂ゴール)もしくは「flat stage with high-altitude finale」(平坦ステージ with高高度山頂ゴール)などと書いている。つまり、平坦がずっと続いたあと、最後にかなり登ってゴールするというわけだ。
公式サイトで大会ディレクターのフェルナンド・エルカルティンも「ペニャス・ブランカスの登坂までは完全にフラットな日である」などとコメントしており、『今日は途中までは簡単なんだな――』と考えてよさそ……うなことはない。ことブエルタに関して早合点するライダーに生き延びる資格はない。
確かに前半戦は地中海を望むマラガなどリゾート地を眠そうに走るわけだが、標高10メートルの海岸線から名もなき、カテゴリーも付いていない550メートルの峠(残り59キロ)まで駆け上がる落とし穴が待っている。ここで最初の攻撃があるのは間違いがない。油断は禁物だ。
そしてゴール地は19キロで平均勾配6.7パーセントという登坂の先にある。プロフィールは平凡だが、残り4.5キロはグラベルか簡易舗装で、明らかに走りにくい。明暗を分かつポイントはアシストの力だろう。名もなき峠にエースを安全に導き、さらに最後の登坂でもトラブルに対応しなければならない。チームの総合力が必要なステージだ。

第13ステージ 9月2日

[優勝予想]ジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファビニル)
むしろ平坦with山頂フィニッシュは今日みたいなステージを言うべきだろう。アップダウンがずっと続くがブエルタ基準で言えば真っ平な大地をひた走り、最後はモンティリャの市街地を駆け上がってフィニッシュラインを切る。公式サイトのプロフィールを信じれば最後の1キロで50メートルほどを登る。ピュアスプリンターには厳しく、パンチャー向きのレイアウトだ。渺茫たる荒野を抜けたあとで両手を突き上げるのが、アルカンシェルジャージーの持ち主である可能性は十分にある。

第14ステージ 9月3日

[優勝予想]マーク・パデュン(EFエデュケーション・イージーポスト)
3級山岳、2級山岳、1級山岳の順で登坂をこなしていく山岳ステージだ。ただ、最初の3級山岳を下り、ハエンのスプリントポイントを越えたあとからは、ほとんど一体となった3段階の登坂で頂上を極める。すなわちハバルクスのカテゴリーの付いていない峠を登って少し下り、ロス・ビジャレスの村から登坂距離10.4キロ平均勾配5.5パーセントの2級山岳を登って少し下り、そして登坂距離8.4キロ平均勾配7.8パーセントのシエラ・デ・ラ・パンデラに登頂する。
全ての登坂は岩肌とオリーブで構成されるスペインらしい風景の中にあるが、シエラ・デ・ラ・パンデラの登坂に限れば15パーセント超の急勾配も連続し、相当にタフなレースになる。総合系の争いも間違いなく激しくなるが、数名の先頭集団は逃げ切りが叶えられそうだ。総合系で遅れているライダーなら逃げに乗ってタイム差を縮めるというのも手だろう。

第15ステージ 9月4日

[優勝予想]プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)
標高2,512メートルの超級山岳にゴールする注目のステージだ。残り60.3キロにあるグラナダのスプリントポイントから勝負は始まる。
プロトンはアンダルシア州の商都であり歴史遺産も多いグラナダからシエラネバダ山脈の登坂に取りかかり、まずは1級山岳「エル・プルチェ」(登坂距離9.1キロ、平均勾配7.6パーセント)をこなす。そこから下りきってロックフィルダムのカナレスダムを右手に見ていると、いよいよ地獄の扉を開けて最後の登坂を開始する。
シエラネバダのコアへの登りは平均勾配は7.9パーセントだが、登坂距離19.3キロと長い。超級山岳というカテゴリーにふさわしい苦悶の絵図が繰り広げられるはずだ。前半はつづら折りが続き、後半はほぼ直線基調というリズム変化も嫌らしく、この日、勝負を諦める選手が必ず出てくる。そして総合優勝に輝くべき選手はきっとトップでフィニッシュ地に到達するはずだ。それがプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)なのか、レムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファビニル)なのか、エンリク・マス(モビスター)なのか、それとも――。今日の笑顔が1週間後の表彰台を約束する。

休息日 9月5日

3週目 簡単だからこそ難しい最終週

第16ステージ 9月6日

[優勝予想]ブライアン・コカール(コフィディス)
平坦ステージでバンチスプリント(集団スプリント)が叶わないことを嫌と言うほど思い知らされたであろうプロトンは、今日も括弧書きの平坦ステージに臨む。すなわち、平坦ではない。哲学ダエスパーニャ最終週のオープニングにふさわしい混迷ぶりは、セビリアの市街地でゴールすればいいものを、わざわざ街外れにゴールラインを引いたがために起きる。最大勾配7パーセントの登坂はピュアスプリンターには厳しいが、ブライアン・コカール(コフィディス)やマッズ・ペデルセン(トレック・セガフレード)には向いているかもしれない。

第17ステージ 9月7日

[優勝予想]カンタン・パシェ(グルパマFDJ)
カテゴリーが付いた登坂はフィニッシュ地の2級山岳のみだが、総獲得標高は2000メートルを超える。厳しいが、総合優勝争いをするチームがライバルを引き離す可能性があるコースではない。かといってスピードマンを抱えるチームが活躍できる確率もゼロだ。こういうステージは先頭集団の逃げ切りを容認し、プロトンはサイクリングで脚を休めるに尽きる。
今日は逃げ切りのステージになるのだから、セカンドディヴィジョンのUCIプロチームと、ファーストディヴィジョンで残留争いの渦中にある一部のUCIワールドチームは頑張ってポイントを稼ぎたい。もちろんトーマス・デヘント(ロット・スーダル)はチームの命運を背負ってチャンスを引き寄せに動くだろう。

第18ステージ 9月8日

[優勝予想]ヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン)
特徴的な岩塊が踊るスペイン西部のモンフラグエ国立公園を通過するイージーでヘビーな山岳コースが設定された。矛盾するような表現だが、2級、1級、1級とカテゴリー山岳をこなす割にはコースプロフィールは平凡で、ブエルタとしては緩い。つまりイージーなレイアウトなのだ。ブエルタは世界選手権に出場する有力選手に忖度して3週目を簡単にする傾向にあると言われるが、今年もやっぱりそういう感じがする。
その分、プロトンはペースを上げて走ることができる。どこかのチームが鬼の形相で集団を牛耳り、ライバルを粉々にするかもしれない。仕掛けるのがイネオス・グレナディアーズか、ユンボ・ヴィスマか、あるいはいつかのキャノンデールのようにアピールに身を投じるチームがあってもいい(2017年8月/シクロワイアードの記事)。イージーだからこそ戦いの主導権は選手にあり、きっとコースディレクターの望み通りとはいかない。
ただ、終盤はカーブが多く、二つの1級山岳は大きな規模のつづら折りをたどる。上り下りとも勾配がころころと変化するレイアウトは、若者が力で駆け上がるというよりも、ベテランが老獪に仕掛けるほうが向いている。引退を決めているメッシーナのサメが光を放つならこういうステージかもしれない。

第19ステージ 9月9日

[優勝予想]ジョン・デゲンコルブ(DSM)
近年のグランツールで増えてきた山岳を含む周回コースだ。約65キロ弱の大周回を2周してタラヴェラ・デ・ラ・レイナの平坦ゴールに至る。全体の距離は140キロにも満たない。
主催者は誰に勝たせたくてこのコースを作ったのだろうか。逃げ切りも考えられるが、スプリンターが残る可能性もあり、今日もまたベテランが活躍するかもしれない。いずれにせよ小集団スプリントに持ち込まれると予想される。
プロトンが走るのはトレド県の中西部で乾燥した大地が広がる。やはりオリーブや小麦、ブドウなどの産地だ。道路は直線基調で変化に乏しく、プロトンの落車よりも視聴者側の落車(寝落ち)が心配になる。もっとも明日を考えれば今日は睡眠を取ってもいいかもしれないが。

第20ステージ 9月10日

[優勝予想]ティボー・ピノ(グルパマFDJ)
今年のグランツールはいよいよ大詰め。山岳最終決戦の日を迎え、マドリードの北側の高原地帯が勝負を決める場所に選ばれた。
設定されたカテゴリー山岳は5カ所で、1級「プエルト・デ・ナヴァセラダ」、2級「プエルト・デ・ナヴァフリア」、2級「プエルト・デ・カネンシア」、1級「プエルト・デ・ラ・モルクエラ」、1級「プエルト・デ・コトス」の順にこなしていく。最後は約7キロの平坦を走ってゴールするが、勝負の全ては山岳の登坂で決する。全体としては逃げ切りが容認され、後方で個人総合優勝争いが起きると予想される。

ところで、最初の1級山岳が「プエルト・デ・ナヴァセラダ」で、ゴール地点も「プエルト・デ・ナヴァセラダ」だが、最後の1級山岳は「プエルト・デ・コトス」である。ややこしい。ややこしいので説明すると、

スタート=モラルサルツァル
   ↓
 ┌ ↓ ⛰同じ高原⛰ ┐
 1級ナヴァセラダ ← 1級コトス
 └ ↓ ⛰⛰⛰⛰⛰ ↑ ┘
   ↓       ↑
 2級ナヴァフリア   SP
   ↓       ↑
 2級カネンシア → 1級モルクエラ

このうち1級山岳「プエルト・デ・ラ・モルクエラ」は登坂距離9.4キロ、平均勾配6.9パーセント。最後の1キロは平均勾配が9.6パーセントで、ここで仕掛けてから最後の「プエルト・デ・コトス」に取りかかるのが定石だろう。というのも、コトスは瞬間的に10パーセントの区間はあるが、10.3キロで平均勾配6.9パーセントとブエルタとしては平凡。よほどのバッドデーでない限り、ここだけで個人総合優勝争いの逆転が起こるのは難しく、一つ前から勝負に出る必要がある。もちろんマイヨ・ロホに袖を通しているチームはどんな攻撃にも耐えて守らねばならない。あるいは。あるいは、マイヨ・ロホ自ら攻撃に出てもいい。

第21ステージ 9月11日

[優勝予想]カデン・グローブス(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
いわゆる郊外型のショッピングモールが集まるラス・ロサスをスタートし、プロトンは祝祭ムードの中、首都・マドリードに入っていく。ツール・ド・フランスと同様、市街地の周回コースに入って本格的なレースが始まり、スプリンターが集団スプリントを制する。周回コースは「┤」の形をしており、180度ターンが多いのが特徴だ。トレインは機能しにくいが、ピュアスプリンターの少ないブエルタだからこそ地足の勝負になるのは当然の帰結。一人でも立ち回れるスプリンターが両手を突き上げるだろう。


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