美しさはいつもクレイジー ~ジロ・デ・イタリア2023 第2週目 勝手にプレビュー
ジロ・デ・イタリアはいよいよ本格的な山岳コースへと入っていく。第2週目は個人タイムトライアルは設定されておらず、山岳での登坂力にウエイトが置かれる。総合優勝争いを決定的なものとするアタックがあるのか。とりわけ第13ステージは、誰しもが祈りを捧げずしては乗り越えられない山岳だ。
2週目:非情なる祈りの山へ
第10ステージ
スカンディアーノ〜ヴィアレッジョ
196km
設定:平坦
難易度(公式):★★☆☆☆
優勝予想:マイケル・マシューズ(ジェイコ・アルウラー)
中盤(残り108.5km)に2級カテゴリーの山岳があり、そこからは4級山岳(残り75.3km)、カテゴリーは付いていない丘陵(残り34.5km)を経てゴールする。集団の思惑は二つに分かれる。すなわち、逃げ切りを容認するか、登坂を使って重量級スプリンターを置き去りにし疲弊気味のバンチ(集団)スプリントに持ち込むか。カギを握るのは、登れるスプリンターのマイケル・マシューズを擁するジェイコ・アルウラーだ。彼らが仕掛ければ、スプリントバトルを目指す集団、なんとか追いつこうとする集団、諦めの境地にあるグルペットに三分される。
第11ステージ
カマイオーレ〜トルトーナ
219km
設定:平坦
難易度(公式):★★☆☆☆
優勝予想:マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
コースプロフィールは昨日とほとんど同じ。ちょっとした丘越えを経て、ゴールに至る。少し違うとすれば、スプリンターを振い落としたい峠(4級山岳、残り42.8km)がよりゴールに近いことと、その登坂が緩いことだ。仕掛けるチームは同じでも、振るい落とされるスプリンターのタイプは異なる。コースは序盤はティレニア海沿いを走る。横風が吹けばおもしろいが、それほど影響することはなさそうだ。
くだんのスプリンターにとって正念場の峠、パッソ・デラ・カスタニョーラでリグリア州からピエモンテ州に入り、一団は進行方向を北へと変える。その屈曲にあるメッセージは「アルプスに向かうぞ」であり、スプリンターを「今日は勝たなければ」と逸らせる。
第12ステージ
ブラ〜リヴォリ
179km
設定:丘陵
難易度(公式):★★★☆☆
優勝予想:アンドレア・パスクアロン(バーレーン・ヴィクトリアス)
ポー川沿いの平原地帯を走り抜け、トリノの西にあるリヴォリを目指す。カルマニョーラの街(残り88.2km)を過ぎるとポー川を渡るが、意外にも小さな流れに驚いてしまう。今日のステージはこれから始まる戦いの序章。ここから先はアルプスに登ったり、跳ね返されたりしながら徐々に東へと進んでいくが、手始めが今日のステージで、難易度は5段階中の3に過ぎない。
ゴールの27.9km手前にある2級カテゴリーの山岳「ブライダ峠」(登坂距離9.8km、平均勾配7.1%)が勝負どころ。しかし、主催者の思惑通り、あるいは想定とは異なり、逃げ切りのステージになる。むしろ逃げ切ってもらったほうがいいだろう。ブライダ峠の下りは高速でテクニカル。リヴォリのゴール地点はややこしいレイアウトだ。プロトンは『本当の』山岳に備えて休みたい。
第13ステージ
ボルゴフランコ・ディヴレア〜クラン・モンタナ
207km
設定:上級山岳
難易度(公式):★★★★★
優勝予想:ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)
今大会の最高標高地点(チマ・コッピ特別賞)を通る難関ステージだ。アルプス南麓のボルゴフランコ・ディヴレアをスタートし、谷あいのアオスタ(残り145.3km)で戦いのファンファーレが鳴り響く。ステージ全体の距離は207kmと長く、獲得標高は5437メートルと、容赦ない。
スイスとの国境をなすチマ・コッピ特別賞のグラン・サンベルナール峠はそれ単体で登坂距離34km、獲得標高1872メートル、平均勾配5.5%であり、終盤の9キロは勾配が7%を超す。さらに平均勾配ではサンベルナールを上回る1級カテゴリー山岳クロワ・ド・クール(登坂距離15.4km、平均勾配8.8%)を越え、最後にもう一つの1級カテゴリー山岳クラン・モンタナ(登坂距離13km、平均勾配7.2%)に至る。至れれば――。
コース設定は誰の心もへし折り、「至れればいいな」と悟ったようにうわ言を言うかもしれない。まずは肝心のライダーがそう思うに違いない。厳しすぎるコースはクライマーでさえ過酷。スプリンターやアシスト選手ならば、どうやって制限時間以内に辿り着けるか祈る気持ちで無心に足を動かすしかないだろう。
ジロを語ろうとする者の心もへし折る。なぜなら、冒頭の紹介文「今大会の〜至る。至れれば――」の一文が物語るように、地名と数字を羅列するだけで、十分に過酷さが伝わってしまうからだ。「見れば分かるさ」。主催者から暗にそう言われているのだ。
しかし、主催者だって、胸にクロスを当てて「至れれば」と祈っているかもしれない。チマ・コッピの山岳ステージで道が通れないというケースは何度もある。雪、雨、それらが及ぼす災害。要因は様々だが、通れるだろうという予測でコースを設計するのだから仕方がない。レースがスタートしてから「この峠は通らない」ということもありうる。
「至れればいいな」。美しいアルプスの風景、スキーリゾートの華美に夢うつつな祈りが乗る頃、レースの女神は微笑を湛え地獄を照らしている。
第14ステージ
シエール〜カッサーノ・マニャーゴ
194km
設定:平坦
難易度(公式):★★☆☆☆
優勝予想:レナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)
スイスのシエールをスタートし、1級カテゴリー山岳をこなしたあとは、長く下り、イタリアに戻ってカッサーノ・マニャーゴにゴールする。さすがにジロの主催者も、今日は厳しいコースレイアウトにはしなかった。最初の1級山岳は登坂距離20.2km、平均勾配6.5%というプロフィールだが、プロトンは山岳賞狙いのライダーを先行させておき、落ち着いてレースを運ぶだろう。そうでもしないと、大半のライダーが今日のコースさえ真っ当に走りきれない。
レース後半の100キロはほぼフラットだということを考えれば、集団スプリントに持ち込まれそうな印象も受けるが、先行しているのは第14ステージになっても山岳賞争いができる選手たちだ。クライマーやオールラウンダーが含まれ、さらに数人のパンチャーが1級山岳の下りからブリッジを掛ける。この逃げは可能性に満ち、プロトンは休息に包まれる。
第15ステージ
セレーノ〜ベルガモ
195km
設定:上級山岳
難易度(公式):★★★★☆
優勝予想:レイン・タラマエ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)
2週目の最後に、よく分からないコースが組まれた。序盤に1級カテゴリー山岳を登り降りしたあとは、2級カテゴリーの登坂が3カ所、設定されている。ワンデーレースよりは厳しいが、だからといってステージレースだと対処しにくい。なぜなら、総合系の争いをするにはイージーすぎるし、逃げ切りを目指すようなライダーには与しにくいレイアウトだ。さんざん逃げたあとで残り30.6kmを頂上とする2級カテゴリー山岳ロンコーラ・アルタ(登坂距離10km、平均勾配6.7%)をこなすのは大変だ。
区間優勝を目指すならば、最終登坂の前にプロトンから飛び出す策が有効だろう。そうならば、レイン・タラマエ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)、リゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)など登坂力と経験値を持つ選手の出番だ。
――そしてクレイジーなジロは、ついに3週目へと入る。