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金田一少年に四駆のアルファードを

「百聞は一見に如かず」とはよく言ったものだ。

聞いただけで分かった気になっていても、実際に見たり実行したりする経験には遠く及ばない。

自己啓発本を読み漁ったところで行動しなければ身にならないのだ。
ただ知識をつけただけでは、雑談力も多動力も嫌われる勇気も身につくわけがない。

しかし、そうは言っても人間は元来行動が伴わないことが往々にしてあり、知った気になったり分かったつもりでいる事が多い。
そして、僕もまた多分に漏れない存在であった。


先日、僕はスノーボードをするために雪山に行った。

メンバーは元職場の後輩3人+僕だ。

アズールで服買ってそうな元ヤンのI君、
AV女優にやたらと詳しいM君、
最近TikTokで政治の勉強をしているY君という愉快なメンツで一泊二日の男旅。
借りてきた型落ちのアルファード(たぶん元ヤンのI君のチョイス)を飛ばして雪山を目指した。

雪を舐めていた。
アルファードは雪だるまになり、高速道路は低速となり、テールランプは「今、滑ってます」という合図になった。

それでもなんとかスキー場に無事辿り着く。

「今日は1日滑り倒すぞ!!」という意気込みで始めるも、昼ごはんのカツカレーを食べる頃には「もういっか」となるスキー場あるある朝令暮改を味わう。
そうは言っても非日常イベント。
ひとしきり楽しみ、宿へ向かった。

宿はI君が予約してくれていた。
こだわりと憧れがあったのだ。
雪山深くのロッジに。

こういう画を想像していた。
暖炉を焚き、温かい料理を囲み、酒でも飲んで盛り上がる。ちょっと大人の嗜みがそこにある。
「この峠を越えたらみんなで盛り上がるんだ…」そんなことを考えていた。

雪を舐めていた。
チェーンを巻いた四駆のアルファードでギリギリ登れる坂。雪に阻まれた道。

BGMとして流していたBIGBANG(たぶん元ヤンのI君のチョイス)を何周聞いたか分からない。
悠久とも思える雪との格闘を超え、やっとの思いで僕たちファンタスティックベイビーズはロッジにたどり着いた。

金田一少年の事件簿やコナン、古来からの推理小説において、雪山のクローズドサークルというものがよく出てくる。

雪山の山荘に閉じ込められ、「この雪ではあと3日は迎えが来ない!」とか「電話線が切られてる!」とか「こんなところで殺人鬼といっしょに入れるか!私は出て行く!」とかで事件が発生する定番シチュエーションだ。

僕は「今時そんなアクセスの悪いところないだろ」と思っていた。
どうせ連絡すればヘリコプターでも特殊車両でも助けはすぐ来れるだろう、そう雪を舐めてかかっていたのだ。

だが現実はちがった。
どんなに装備があっても自然の猛威の前には心細いし、大雪の中での移動はものすごく時間がかかる。
四駆のアルファードでやっとなのだ。
まさに百聞は一見に如かず。
実際に目の当たりにして、初めて気づくことはまだまだたくさんあったのだ。

実体験ほど身に残るものはない。

大人になり知識が深くなり、物事を想像で判断できてしまう今だからこそ、百聞と一見のギャップに足元を掬われることもあるのではないかと思う。

文章を書いたり、人にものを語る以前に、もっともっと幅広い経験をして説得力のある人間になりたい。
静かな早朝、寝っ転がってそんな事を考えていた。

つづく。

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