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私の考えるBLと百合
Bad Laugh
マッチングアプリで意気投合し、付き合っていた女が男だった。部屋に呼んで、ベッドに押し倒したところで気づいた。
俺の部屋のベッドに腰掛け、上半身裸の彼女、いや、彼氏が泣いている。何か言葉をかけてやりたいが、かけるべき言葉が見つからない。
ひとしきり泣いた後、彼は語り出した。
あの日、大学の友達と飲んでいたこと。酔った勢いの悪ノリで、マッチングアプリの性別を女にして始めたこと。それにまんまと引っかかった俺とやりとりを始め、いつバラそうかと考えているうちに、だんだん惹かれていったこと。
「メイクも覚えたんです……」
涙で流れたそれを拭き取りながら呟く彼は、中性的な顔立ちをしており、髪も長い。これに現代のカメラアプリの加工技術が合わされば、女と間違えるのも無理はないだろうと、俺は自分に言い聞かせた。
つまり俺はノンケで、先ほどの経緯を聞く限りでは彼もノンケのはずなのだ。
君は何故俺のことを好きになったんだ。
面倒くさい女みたいな質問をするのは気が引けるが、今回ばかりは俺の方から尋ねてみないとわからなかった。
「ちゃんと自分の考えを持ってて、話の仕方も丁寧だし、内容も本当に面白くて……」
途端に饒舌になった彼を制止し、俺はしばらく考え、静かに切り出した。
「俺は異性愛者だから、やはり君とは付き合えない。金輪際会いに来ないでくれ、アプリでのやりとりも今日で終わりにしよう。もう顔も見たくないから、出ていってくれ」
うなだれながら部屋を出ていく彼の後ろ姿を見ながら俺は「これで良かったんだ」と思った。
数年後、会社の飲み会でぽつりとその話をしたところ、上司たちから大ウケし、それからの飲み会での鉄板ネタになった。
俺の話を聴きながら大口を開けて笑う上司たちと、彼らに合わせてヘラヘラする俺。
なぜか時折、彼らの鼻っ柱をおもいきり殴りたくなる衝動に駆られる。テーブルの下で握りしめた拳をほどく度に、少し胸が痛むが、その理由もわからない。
湿気
どっかの誰かの調べによると、レズカップルが別れる理由第一位は「どちらかに彼氏ができたから」らしい。
あながち間違っていないと思う、なぜなら私たちが別れた理由もそれだから。
私の彼女は、言ってしまえば顔が良いだけの女だ。下品な言い方だが、頭のネジも股も緩い、Fラン私立大学通いのバカ女だ。
そんな彼女から「彼氏ができた」と別れを告げられたとき、それなりに悲しかった私もまた、バカ女なのだろう。
相手は大学で同じサークルに所属する先輩で、例に漏れずバカ男だった。半月程度で私の部屋の扉が叩かれた。
泣き腫らした顔の彼女が立っていた。二股を掛けられていたらしい。
私は彼女を部屋に引き摺り込み、ベッドに押し倒して、付き合っていた頃していたように、彼女の細く白い首を強く締めた。
「あんたは私のものだから。私が躾けてあげるから、わかった?」
バカな私の問いに、バカな彼女は恍惚の表情を浮かべて頷いた。
それから数ヶ月ほどで、彼女は再び私に別れを告げ、同じ学部の男と付き合いだした。
どうせまたここに帰ってくるだろうと思い、その間も私は他の女や、ましてや男にも靡かず、彼女の帰りを待っていた。
口が寂しくなったらとりあえず手を伸ばす、湿気たスナック菓子のような関係。それでも私は満たされていた。
ひとりきりの部屋で缶ビールを飲みながら、躾けられているのは私の方かもしれないなと思った。
半年待っても一年待っても、彼女が帰ってくることはなかった。
きっとバカなりに賢いやり方で、賢い男を捕まえたのだろう。大学を卒業して子どもを作って、そういうありきたりな幸せを手にするのだろう。
結局あとには、一番バカだった私と虚しさだけが残った。